社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「人生の終盤に向かう過程の事前準備支援に関する対話へのケアマネージャーの関与」

2022-10-03 13:45:40 | その他

島田千穂、伊東美緒、児玉寛子/第67巻第7号『厚生の指標』2020年7月

 

その人の人生の終わりの時期に深く関わっていくケアマネージャーを対象に、質問紙調査を実施している。

「どのように過ごしていきたいか」の対話について、高齢者本人、そして家族と、どのくらい・どのように行っているのかを確認している。

 

引用

(調査結果から)

・ケアマネージャーの97.8%が、人生の終盤に備えるための準備支援が必要と回答し、その必要性は高く認識されているにもかかわらず、8割以上の利用者に対して事前に対話していた人は12.0%にとどまった。

・ケアマネージャーの基礎資格との関連をみると、利用者本人、家族との事前対話頻度との優位な関連は見られなかった。

・ケアマネージャーの介護に対する介護規範意識によって、本人との事前対話への関与の程度は異なり、(中略)家族が看取りにかかわるべきと考える人ほど、本人との対話は少なくなっていた。

 

「人生をどのように終えたいか」「どの程度までの積極的な治療を希望するのか」など、人生の終盤には、事前に決めておきたいとても大切な事柄が詰まっている。

その人の終わり方は、家族の意向に左右されるかもしれないし、その時に関わっている専門職の価値や力量に左右されるかもしれない。それゆえに、ある程度は明確に、意思表明をしておく必要があるのだと思う。

今は望めばどこまでも、「生き長らえる」ことができるようになった。だからこそ、自分のしんどいと感じることを、早めにわかりやすく、家族や近しい人に伝えていければと思う。ケアマネージャーのみならず、人の生活を支える人たちには、「死」をタブー視せずに、日ごろから話し合えるきっかけを作っていって欲しいと願う。

 

 

 

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「高齢者介護施設におけるケアの質の認識と職員間の情報共有との因果関係」山口生史(2018)

2022-09-13 14:29:02 | その他

『日本コミュニケーション学会』Vol.46 No.2,2018

 仕事の質と組織内職員間の情報共有との関係について、質問紙調査を通して探っている。特に、「情報共有の正確性」と「情報共有のタイミング」に焦点を当てている。

 

引用

・(先行研究より引用)自己効力感が向上した従業員は、その認識が低下した従業員よりパフォーマンスが上がっていた。

・仕事の質は、組織全体のあらゆる職員の連携と協働で維持され、向上するものである。

・情報を得ていないとか、伝達されるべく情報に気づいていないという状態は、情報の循環、すなわち情報共有が十分になされていないということである。

・情報共有とは、組織内の各グループ(部署やチーム)間や職員間で隠ぺいすることなく交換し、情報を組織内でとどこおりなく循環させることといえるだろう。

・(調査結果からの考察)高齢者介護施設内全体の職員間で、施設内で起こった感染症などの緊急事態、事故、ヒヤリ・ハットの情報が正確に共有されていると施設の職員が認識しているほど、彼らは自分の施設のケアの質が良好であると認識していた。

 

職員間のコミュニケーションが円滑に行われていると、ケアの提供も円滑に行われ、そしてさらに複雑な(難しい)ケアの実現にも前向きに取り組める。これは、私が介護施設に勤務しているなかで、痛感していることである。しかし残念ながら、今はそれが「できていない」という状況からの逆説的な痛感である。

私は以前、医療機関に勤務していたが、それはたまたまであったのか、多職種で構成されているにも関わらず、コミュニケーションがとても上手に取れていて、「初めてのケース」で「大丈夫かな。対応できるかな」と不安があっても、少しづつではあったが支援がうまく続いていた。しかし介護施設では、同じ職種が多いチームであるにも関わらず、「理解」「共感」「納得」がどうも円滑にはいっていない。同じ職種がゆえに、「言わなくても分かるだろうから、いちいち言わない」ということなのか、「そこまで言わないと分からないの?」ということなのか。はっきりとは見えてこないが、どうやら「暗黙の了解の域」が各々違うのに、同じ職種であるがゆえに、「わかっているはず」というフィルターは、各々持ってしまっているからではないか?と本論文を通して、気づいた。

コミュニケーションの在り方で、仕事の捉え方、仕事の質向上との関連性などに気づくことができ、今の私には新鮮な論文であった。

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『施設高齢者の居住性を支える「逆ショートステイ」の実践的研究』立松麻衣子(2017)

2022-07-02 09:32:49 | その他

副題:介護事業所と地域の役割相乗型連携による高齢者の地域居住に関する研究 『日本家政学会誌』Vol.68 No.6

 特養など、いわゆる終の棲家への施設入所となると、高齢者は家族や地域から分断された空間で過ごすことになる。そういった施設高齢者の社会関係の維持・再構築を意図した取り組みを実施し、効果を整理しながら、施設高齢者が社会とのつながりを意識しながら生活することの影響を検証している。「逆ショートステイ」という聞きなれない言葉で表現されているが、取り組み例を紹介していることもあり、とても分かりやすい報告であった。

 

引用

・逆ショートステイが高齢者にもたらした良い効果…①保障性・安定性・快適性・安心性・貴族性(施設以外にも、自分を迎えてくれる場所がある、と体感できる。) ②入所前の生活との継続性 ③意識の変化(生活主体者としての意識の変化が起こった。) ④家族関係の再構築 ⑤生活の安心感と施設への帰属性 

・逆ショートステイが家族にもたらした良い効果…①精神的効果(入所させたことへの罪悪感を払拭できた等) ②逆ショートステイ実施体制づくりの協力 ③施設生活への協力(家族が施設に抵抗なく足を運べるようになった等)

 

 コロナ禍の今、施設で生活をしている高齢者の社会との分断は、より一層強いものになっていると実感している。面会の機会も制限され、外出も緊急時以外は控えることを余儀なくされている。そのため、生活にメリハリがなくなり、「出されたものを食べる、流れているテレビを眺める」といった、味気のない生活が「日常」となってしまうのである。施設職員も、家族の出入りがないためか、居室などの掃除はおろそかになり、居住空間というには忍びない状態であることも、残念ながら体感している。施設職員の慢性的な人員不足が解消されない限り、質の高いケアは実現できないという主張も否定はしない。しかしながら、この論文を読み、社会と切り離されていることがどれだけの弊害を生んでいるのか、身につまされる思いである。

 

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「なぜ日本の乳幼児子育て期の保護者はリフレッシュ目的で一時保育事業を利用しにくいのか?」加藤望・中坪史典(2018)

2021-05-16 08:43:47 | その他

『広島大学大学院教育学研究科紀要』 第三部 第67号

 育児支援の一つとして、就労していない親(主に母親を指す)が休息できるよう、一時預かり事業が実施されているが、

当事者にはその利用が浸透していない現状も見られている。利用しにくい理由や背景を明らかにすることを目的に、

文献調査、自治体Hpからの情報収集を行っている。

引用

・乳幼児子育て期の保護者がリフレッシュ目的での一時預かり事業を利用しにくい理由や背景について、次の3点が明らかになった。

 ①手続き上の困難

 ②子育てをめぐるアンコンシャス・バイアス

 ③女性(母親)自らが抱く育児呪縛

・先行研究からの抜粋

 リフレッシュ目的による一時預かり事業を実施していない施設長に限っては、一時預かり事業の実施が子どものためにならない

と思う理由について、「保護者の都合で急に知らない環境に置かれるのは、子どもに与える負担やマイナス面が多すぎる」「明確

な理由がない場合は、保護者が子どもを保育したほうがよい」などの回答があったと報告している。

 

 「子どもは社会の財産です」というキャッチコピーを耳にする機会が多くなってきているが、

その真剣度は果たしてどの程度あるのか?という素朴な疑問を沸き立たせる論文である。

 利用手続きの煩わしさ、利用面接の際のなんとも言えないプレッシャー(これは私が体感したことなので主観ですが…)、

様々がハードルが一時預かり事業の利用を阻み、結果として「利用者数が少ない」ということになっていないか?と

怖ささえ覚える。

どうか広い目で、親たちの成長をサポートして欲しいと切に願う。

 

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「雪の花」吉村昭(1988)

2021-04-25 16:26:30 | その他

かつて大流行し、死に至る病とされていた天然痘と闘った医師の物語。

予防医学の先駆けを知ることができ、コロナ禍にある今だからこそ、考えさせられるエッセンスが多くあった。

 

感染症の予防といえば、「注射」であることが当然の現代であるが、かつてはウイルスの種を人から人へと渡していき、

種を増やして保菌者を増やしていく、ということであった。

医師や看護師の卵は、近しい人に実験台になってもらい、注射の練習をしていると聞いたことがあるが、

この時代の予防医学は、ある種の人体実験を近しい人の理解の下、行っていることがうかがえた。

いまの予防医学は、多くの人の血や汗、そして情熱によって成り立っているということを深く知ることができた。

 

 

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「人工呼吸器非装着の筋萎縮性側索硬化症患者と家族の病の経験と生活ー生活構造論・生活の資源の枠組みを用いてー」

2021-01-23 11:04:04 | その他

田中恵美子、土屋葉、平野優子、大生定義『社会福祉学』第53巻第4号 2013

 

 ALS患者の遺族に対するインタビュー調査をもとに、タイトルについて論述している。

「正しい」「正しくない」というのではなく、装着・非装着についてのプロセスを多面的に丁寧に掘り下げている。

 

引用

・ALSは1869年に発見

・生活構造論→生活を、家庭において、日常的・習慣的な運動と、生活変動を受け止め正常化していく運動とが交差する動態的なものとしてとらえる。

(調査結果より)

・女性介護者は、患者の発症を機に、特に介護に対する生活戦略として、協力者を得て連携して資源の管理者役割を担った例がみられた。

・男性介護者は協力者をもたない、または、いても連携せず独立して資源を管理する傾向がみられた。

・(非装着者の遺族の言葉)「『ALSは呼吸器さえつければなくなることはないから、怖い病気ではない』みたいな書き方をする方がいるんですけど、それちょっとひっかかってしまったんです。…いろんなケースがあって、確かに呼吸器つけて、生活の質…いい人生送られる方もいるかもしれないけど。こういう人もいるっているのをきちんと扱ってほしい」

・呼吸器の装着、非装着という生活戦略の違いは、生死を分かつ重大な違いだが、どちらも呼吸筋麻痺というある状況に対し選択されたひとつの生活戦略にすぎないのである。

・特に男性介護者の場合、ALSに関わる資源管理の前に、家庭生活に関わる資源の管理および他者との共同作業への支援が必要である。

 

 病を抱えての生活は、探し、迷い、決定し…そういったひとつひとつの作業がとてもストレスで、とても重たい。

ありきたりであるが、伴走者が必要であり、いわゆる専門家と呼ばれる人たちがもっともっと効果的に機能しなくてはいけないと、

つくづく考えさせられた。

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「読む力を生きる力」脇明子(2004)

2020-11-06 15:02:37 | その他

 映像からも多くの情報を得られる現代において、「読書」は必要なものなのか?なぜ活字を読む必要があるのか?

という疑問について、理論的に述べられている。

大学の先生が執筆されているが、決して専門家だけに向けられたものではなく、とても読みやすく分かりやすい。

本を読むことは情報を得るためのものではなく、想像力をはぐぐむことにも非常に大切であることをあらためて知った。

そして想像力をはぐぐむことは、生きていくために不可欠なことであることも、わかりやすく書かれている。

 

引用

・想像力は読書に役立つだけではなく、「いまこうすれば、先でこうなるだろう」とか、「自分から見ればこうだが、あっち側から見ればこうだろう」とか、「自分がこう言えば、相手はこう受け取って、こんなふうに行動するだろう」などど考えるための助けにもなります。

・自分が直面している問題の全体像を把握し、さまざまな可能性を考慮に入れて解決策を練るだとか、行動に移る前に段取りを考え、状況に応じて計画を変更していくとか、自分とはちがう立場からの物事を見直してみるといった能力は、十歳前後で急速に発達すると言われています。これらの能力の基礎となるのは、自分の頭のなかで進行していることを一段上から観察し、制御するモニター力で、そういう力のことを「メタ認知能力」と呼びます。

 

昔はたくさんの大人が子どもたちの周りにいて、その時々の生活文化を伝えることができていた。それゆえに、本が少ない時代であっても、子供たちはたくさんの知恵や知識を吸収することができた・・・という旨が本書で書かれていた。

「確かにそうだ」と妙に納得してしまった。情報が溢れすぎている現代よりもきっと、昔の子どもたちはたくさんの価値観に直に触れ、頭ではなく、気持ちでキャッチし、多くのことを体得できていたのだろうと思う。

それは時間がかかり、めんどくさくて、しんどいことかもしれなかったけれども、とても豊かなことだったのだろうと羨ましく思う。

 

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親の「死体」と生きる若者たち 山田孝明(2018)青林堂

2020-10-28 14:59:33 | その他

 筆者は、40代~50代の方の引きこもり支援をしている実践者である。法律、制度の限界(狭間)を埋めるべき活動されている様子が

わかりやすく書かれている。

 ひきこもりとは?という堅苦しい学問的な側面からではなく、とある若者のある一つの生活の有り様として。

そういった視点から本書を読むと、先入観や思い込みを打ち破るような感覚になると感じた。

引用

・本来、学校は子供の安心と安全を守り、成長をさせることが責務です。しかしそれが機能せず、子供が学校に行けない理由を学校側にあると考えず、それぞれの子供の気質にその原因を求めたのです。そこに子供の悲劇の一つがあります。「発達障害」という言葉は、この20年の間に社会に蔓延しました。子供はいびつなのが自然であり、そのデコボコと向き合って人として成長させていくのが学校の役割ではなかったでしょうか。

 

「ひきこもり」支援は、法律、教育、福祉、場合によっては医療と、多岐にわたるものである。しかしながらそれは長く「厄介なもの」としてとらえられ、見て見ぬ振りをされてきたもののように思う。自治体によっては、急速に専門支援員の雇用がされ始め、「専門特化している」と「アピール」している感がある。問題は専門家を雇うのではなく、「向き合い、逃げず、つながり続ける」ことを専門家と称する人たちに教育し続けることなのだろうと思う。そう考えたとき、日本ではまだまだ産声を上げただけのように思えてならない。

 

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「生活現場の活動者たち 地域をつなぐ10の物語」金早雪ほか(2019)

2019-11-03 09:04:25 | その他
 信州大学大学院からの報告。
地域を活動基盤として実践をされていきた方々の研究報告をまとめている。
発達障害、うつ病者の復職支援、ひきこもり、死別、多文化共生など、多方面の「いま」を知ることができる。

引用⇒
・ひきこもり支援の章より
 私は「ひきこもり」を解決し、私との関係を終結させることを目指すのではなく、関係の継続を目指すことにした。また、過去に原因を求め、彼らの未来を考えるのではなく、今に目に向けることにした。戻ってこない過去でも、分からない未来でもなく、大事なことは今であり、今の繰り返しが未来につながると考えることにした。

・多文化共生の章より
 日本国籍の子どもの場合、保護者には、就学させる義務がある。しかし、外国籍の子どもの場合は保護者に日本の学校へ就学させるかどうかの選択肢があるため、不就学という選択もありうる。

😲 😊 
 知っているようで、内情をしらないことはよくある。
社会福祉領域では特に、自分の実践領域と重なり合う他領域については、知っている気持ちでいるが、実は違う内情があったと気付かされることがある。
本書はそんなことを気付かせてくれ、そして見地を広げてくれる。
 多くの実践者たちが、自分の実践領域に誇りをもち、そして客観的にみれる機会を持てればと願う。
 
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「泣く子もほめる! 「ほめ達」 の魔法」西村貴好(2013)経済界

2019-09-02 14:14:13 | その他

 とある介護施設の施設長さんから、勧めていただいた本。

「うさんくさいな~」と最初は思うけど、きっと役に立つよと言っておられましたが、たしかに。

人を育てること、職場の離職率を上げないこと、それはきっと「承認すること」から始まるのだなと思わされた。

 

引用

・飛行機が離陸するまでに長い滑走が必要なように、仕事や人の成長にも助走期間が欠かせません。その時期に「たいした結果がでないじゃないか。ダメだよ」とふたをせずに、ほめて支えてあげましょう。

・「ほめる」ことは即効薬ではありません。効果が出るまでに数ヶ月を要することも珍しくありません。だからこそ「いつか」を信じてやり続けることが大切なのです。

 

 勤務している介護施設は、離職率が高く、施設長は就任して1年半の間に、100人近くの求人面接をしているとのこと。

これは裏を返せば、それくらいの人が辞めていっているということ。

 みんなが各々の立場で精一杯頑張っているはずなのに、それがうまく回らない。なんらかの変革が必要なんだろうと痛感する。

本書から学んだことを少しづつやっていけば、なにか変わるかな。変わっていきたいなと思う。

 

泣く子もほめる! 「ほめ達」の魔法 (経済界新書)
西村 貴好
経済界
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