レトロの小部屋

紙物を中心に古物を集めています。

霊感

2020年08月21日 16時35分49秒 | エッセイ

 パート先で知り合った3歳年上の八重子さんは霊感のある人でした。
 子供は無かったがご主人とは仲良く暮らしていました。
 ご主人の姉が自殺して、成仏できない苦しみから弟であるご主人にとりつき病気にした。
 医者は治せなくご主人は亡くなった。

 自殺者の中には、憑依霊によってあの世へ取り込まれると霊能者の本で読んだことがある。
 理由が分からない自殺者がそれに当たるかもしれない。

 同じ会社でも部署の違う八重子さんの職場にはボスがいて「今度の休みにみんなで琵琶湖でバーべキューしよう。来ない人はバツとして2000円出して!」と言われたとか。
「行くの嫌やねん、湖で死んだ人がうじゃうじゃいるねん」

 所用があって我が家へ来て、道路に自転車停めて花壇の柵越しに話して別れた。
 夜、電話あり。
「その辺で交通事故無かった?」
「あった、去年の夏の深夜、正面衝突で若い女の子が死んだ。ハンドルにうつぶせて、クラクションが鳴りやまなかった。
 母親が、毎日お供え物持って道路端に来てたよ」

「まだそこにいるよ。帰ってからしんどくて3時まで寝たわ」

 死んだ場所にお供え物する風習はマスコミを通して世に根付いた。

 死後49日の間ははこの世で好きなところへ行ける。
 心(魂)だけで肉体が無いから、外国へでも不倫のベッドをのぞきにでも、瞬時に行ける。

 仏教で49日、神道で50日でお迎えが来てあの世へ旅立つ。

 死んだ場所は、皆さんがお供えを持ってきて下さって楽しい。
 行きたくないとお迎えを断ると、二度と迎えは来ないので成仏できないで地縛霊(その場所に縛られた幽霊)となる。
 
 死んだ場所にお供えして手を合わせると憑依されるおそれありと霊能者の本。
花を供えてあるところを通るとき私は、『こんなところにいるな!天国へ行け!』と心で叫んで通ります。
天国はキリスト教、仏教は極楽と言うそうですが。

 八重子さんは、会社の倉庫の男の霊にも助けを求められた。
 近所の方々と共に見舞に行った市民病院の駐車場で、死んだ患者の女性が薬指の間から入ってきて頭が割れるように痛い、脳の病で死んでるわと言う。

 冷たい思いをしている霊がついた時は、煮えたぎる鍋のお湯に手を突っ込んでもやけどしなかったと。
 酒好きや、甘党の霊の時は、多量の飲酒、饅頭食べたくなるが、供養を重ねて天界に送るとなおると言っていた。
 戦時中、上官にいじめられて、無念で死んだ叔父を送った時、七色の尾を引いて昇って行った。
 
 有縁無縁、八重子さんに憑依した霊を、自宅の仏壇で数か月かけて供養して成仏させた。
 大きな寺院の塔頭の庭で育ち、自然に仏教に帰依していた八重子さん。

 八重子さんは言う「そやけど、自殺者は成仏させられへんわ。主人の姉はまだ鴨居にいるよ」

 母の葬儀を済ませて帰った私に「お母さん、来てはるよ、私と話してる時、私にずっと話しかけてる女性がいた、あんたのお母さんや」と電話が来た。
 母はきっと方言でしゃべり、八重子さんには意味不明だったろうけど、と思ったけど母は私の家にいると思った。
 わが家は南無阿弥陀仏だが、実家は南無釈迦牟尼仏、幸い仏壇の隣にお釈迦様を祀っている。
 夫も私も得度している。
 毎日お釈迦様の前で母の戒名を言って経文を上げると10日くらいでロウソクの火がバチッとはぜた。
 頭から薄い絹がとれたような気がしたので、母が帰ったと思った。
 父に電話したら、近くに母がうろうろしてるように感じていたと言った。

 八重子さんのお母さんは彼女を連れて離婚して、再婚した。
 育ててくれた義父は優しく、実母は厳しく、生まれた弟や妹の子守ばかりさせられたが、母方の祖母が優しくしてくれたと感謝していた。

 実父の死を霊感で知って、青春18切符で旅費を持つからと同行を乞われた。
 外観を見るその生家は、豪農のたたずまいでした。

 正社員の上司が嫌だからやめると彼女が去って数年、疎遠だったある日「子宮がんで入院してるねん」と電話があった。
 「見舞いに・・・・・」
 「来んとき、いっぱいいよるねん(死者の霊がうようよしてるの意)」
 「あと一回抗がん剤したら帰る」
 「帰ったら家に行くわ」

 一年近く電話が来ず、彼女の2軒隣に同じ職場の先輩がいたので、電話して尋ねたら亡くなっていた。
 
 八重子さんは、動きやすいとモンペを常用し、顔も背格好も小芋の様な雰囲気の女性でした。
 隣人が、お母さんの写真を見せてもらった事があったけど、すごい美人だったと言った。

 八重子さんは母親のことを「あんたが股広げるから私が生まれて苦労する」と母親をなじったと言っていた。
 謎が解けた。美人でモテモテだったお母さん。
 できちゃった結婚、彼女は父親似だったようだ。
 父親違いの姉弟は仲良くしたそうだ。

 有名な霊感のある人を調べてみると、60代~70代半ばまでに逝き、長生きはしないようだ。

 心根の正しかった八重子さんは、あの世で美人だろう。
 肉体を捨て、天界に行くのは心だけ。
 肉体が亡いから、思っていること丸見えだからこの世でウソをつくくせのあった場合辛いだろう。
 お金も財産も置いていく、整形した美しい肉体でも捨てて行く。

 この世は100年、あの世は1000年以上。
 この世は心を磨くためにあるのでしょうか。

 ご冥福をお祈りいたします。ウソつけ!