漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

残暑の候に万葉集で遊ぶ

2015年08月29日 | ものがたり

山上憶良・「子ども思ほゆ」

テレビの報道番組で、
オレオレ詐欺にかからないように呼びかけている。

それを見ながら洋子は溜息をつく。

世間のオレオレ詐欺なら、
電話を切ったらしまいやけど、

私の場合は、
実の息子のオレオレ詐欺やから終りが見えへんのよナ。

もう四十も近いというのに、
一人息子の亮一は、いまだに定職にもつかず、

「声優を目指す」とかで、
東京の安アパートで、バイト生活の不安定な暮らし。

厳しく育てたつもりやったけど、

片親で寂しい思いをさせるから、と、
どっか 甘い処があったんかなぁ。

たまに電話がかかってくれば、
「オレやけど、今月ピンチなのでちょっと貸して」、

そのいつもの「ちょっと貸して」が、
いつまで経っても返す気配がないので、

お盆に帰省したとき、ほのめかしたら、

「そのうちには」。

そのうちに、て、いつやネン、と、
ムカついたが、

せっかく帰ってるのに、小言を云うのもと、こらえて帰したら、

その舌の根も渇かないうちのきのう、
またも電話で「ちょっと貸して」、

ムカッとして、「前のを返したら、ナ」と言ったら、

「親子の仲で冷たい」、とか、
「友達のオカンはもっとやさしい」とか、

まるで、貸さないこちらが悪いような口ぶりに、

コッチも切れて、
「アンタ、ええかげんにしいヤ!」と怒鳴ったら、

・・・電話も切れた。

でも、そうなると、
心配になるのがオンナ親の悲しいところで、

ひと晩待って、
こっちから様子見の電話したら、

「ホンマに困ってんネン、今度だけでええから助けて」と泣き落としに逢い、

なぜだか「ホッとして」、すぐ送金。

「我ながら甘い」と、あとから腹が立ってきた。

なんか、
たちの悪いヒモに付きまとわれてるような・・・。

スナックの開店前に、

古うからの友達で、
店を手伝うてもろてる惠子に、

そのことでチョッと愚痴ったら、

「あんた、この世で一番怖いオレオレ詐欺に引っかかっとるわ」と笑われた。

こっちがムッとして、
「冗談やないねんよ」とふくれたら、

「そればっかりは警察に行ってもあかんしな」と、こんどは同情してくれた。

笑われても同情されても、どないもナランけど、
そう言や、子どものない惠子が以前、言うとったな。

オレオレ詐欺に引っかかって、
二百万円取られた人のニュースを見ながら、

「オレオレ詐欺に引っかかれる人はまだしあわせや、
ウチら子供が居れへんのやから、だまされようがない」と。

あの時の惠子はちょっと淋しそうやった。

ウチの、
あんな息子でも、おったら羨ましいんやろか。

惠子、
おらなんだら淋しいかもしれんけど、

おったらおったで、
母親て、苦労ばっかりで、タイヘンなんやで。


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~

☆山上憶良 「子を思ふ歌」

瓜食めば 子ども思ほゆ 
  栗食めば まして偲はゆ

いづくより 来りしものぞ 
 眼交に もとなかかりて 安眠し寝さぬ


★意、

(瓜を食えば、あいつも好きだったよなと
 遠くはなれた子のことを思うし、栗を食えば、ましてやしのばれる。

だいたい子どもなんてどこから来るのだろ、
こんなに瞼にちらついて、夜も安らかに寝かさぬとは)








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