ああ、腹が立つ、むかむかする、
なんでウチがこんな思いせなアカンねん。
だいたい、きのう、
「二泊三日の出張や」言うて家出る時からおかしいなと思ててん。
出て行くとき、
自分では普通の顔しとったつもりやろけど、
なんや、イソイソしとるナ、
ちょっとオカシイな、とワカルねん。
私はあの人の嫁やで、
しかも年上やで、
何年一緒に暮らしてると思とるねン。
そこへ今日、会社から、
「きょうは安富君休みやから悪いネンけど、
急ぎの連絡やねん、ちょっと返事くれるだけでええから」と、電話が来たモンナ。
なんで出張先の支社に電話せんと、家にかかってくるネン。
うそが ちょんバレやん。
だいたい、
本気でウソつくねんやったら、携帯切っとくなよ。
ウチも前から思ててン、
あのオンナやろ、会社の元部下やとか云う。
あれやったら、
若いかも知らんけど、ウチのほうがよっぽど綺麗やん。
この「惠子サマ」の方が、ずっと「ええオンナ」やん。
あ~ぁ、
洋子に「風邪や」とでもメールして店休もかな。
夕べはきっと、どこかのラブホテルで、
あの生っ白い、
ぶよぶよで阿保でデカパイの、
アノ女と乳繰りおうてたんやろな、と思たらイライラする。
いっそホテルへ乗り込んで、
いやらしいことしてる二人にピストル突きつけて、
裸のままロープでくくって、
殴りたおして、蹴りたおして、
ほんでから、ほんでから、
ブルーシートにくるんで、
四つに畳んで背骨へし折って、
それから、
・・・淀川にでもほかしたらチョッとはスッとするかしらン。
あ~ぁ、今夜は寝られへんやろな。
洋子ゴメン、
ウチこんなんでは、店出ても客の相手できひんわ。
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☆万葉集・作者不詳
さし焼かむ 小屋の醜屋に かき棄てむ
破れ薦を敷きて 打ち折らむ
醜の醜手を さし交へて 寝らむ君故
あかねさす 昼はしみらに
ぬばたまの 夜はすがらに
この床の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも
★意
汚らわしいボロ屋の部屋ごと焼き捨ててやれ、
それとも、
その寝てる破れ布団ごと打ち折ってやろうか。
あんな女の汚らわしい腕の中で、
だらしなく寝ているあなた。
そう思うと、
まだ明るい昼は昼間で一日中、
暗い夜は夜通し、
この部屋で、
あの人も寝たこの部屋で、
私は、床も鳴るほど、のた打ち回るのか。