ゴールデンウイークが終わったばかりだと思っていたら、
いつの間にかスーパーの店先は「母の日セール」ですね。
ある調査によると、
母の日にもらいたいギフトの1位が花で、2位は手紙なんだそうです。
ただ手紙も、小学生ぐらいなら可愛くていいけれど、
オトナになってしまっては、双方が、てれくさかろうと云うもの。
我が同居人ドノに訊いたら、即答で「手紙よりバッグ」。(笑)
尤も彼女はもう何十年も続いて、
母の日には息子から花が届いているのですがね。
いつか彼女がそのことを友人に話したら、
えらく羨ましがられた上、
「私は花なんて贅沢言わないから孫でいいわよ」と言われたそうで、
「花より孫の方が贅沢だと思うけど・・・」と笑っておりました。
「母と子」と云うのは、
劇作上の永遠のテーマで、古今の名作のタネとなっていますが、
私が思う、「母恋い物」の最高傑作は、
なんと云っても、長谷川伸原作の「瞼の母」。
なにしろ、この方、
原作者自身が、三歳のときに母と生き別れ、
その後、父の破産で一家離散、
肉体労働をしながら、
捨てられた新聞の振り仮名を見て字を覚えたと云う立志伝中の人物。
それでいて、弟子には、
山手樹一郎、山岡荘八、村上元三、戸川幸夫、池波正太郎、平岩弓枝など怱々たるメンバーが居並ぶと云う大作家。
その人の代表作です。
主人公、番場の忠太郎が、
二十年以上もたずねたずねて、
やっと探し当てた母、おはまは、見れば立派な料理茶屋の女主人のようす。
その日の暮らしにも困って居はしまいかと、
賭場で目が出たときに蓄え、一切手を付けなかった百両もムダか、と、
喜び勇んで尋ねてみれば、
おはまからは、
資産目当てのゆすりかと用心されて、
「私の子は死んだ、おまえなんか息子ではない」と冷たく突き離され、
長嘆息する、別れの名場面。
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忠太郎
「長げえ間のお邪魔でござんした。
それじゃおかみさんご機嫌よう、二度と忠太郎は参りゃしません。
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愚痴をいうじゃねぇけれど、
夫婦は二世、親子は一世と、だれが言い出したか、
身に沁みらあ」。
おはま
「忠太郎さんお待ち」。
忠太郎
「(耳にもいれず、廊下へ出て)
おかみさんにゃ娘さんがあるらしいが、一と目逢いてぇ
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それも愚痴か。
自分ばかりが勝手次第に、ああかこうかと夢をかいて、母を恋しがっても、
そっちとこっちは立つ瀬がべつっこ
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考えてみりゃあ俺も馬鹿よ、
幼い時に別れた生みの母は、
こう瞼の上下ぴったり合せ、思い出しゃあ絵で描くように見えてたものを
わざわざ骨を折って消してしまった。
おかみさんごめんなさんせ。(障子を閉める)
おはま
「あ、(呼びかけて思い直す)」
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歌舞伎、新国劇、大衆演劇、・・・
瞼の母に名演は数々あれど、
私のお奨めは、監督・加藤泰、主演中村錦之助の東映映画。
子連れ狼の錦之助しか知らない若い方には、
この人が、どんなに名優であったかが知れる名作です。