漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

村正と芸談と

2009年08月15日 | Weblog
一昨日 紹介した「吉原の遊女殺人事件」は、
やがて講談の「吉原百人斬り」となり、

それが更に、
明治になって、歌舞伎化され、
「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」となっった。

これは今でも、たびたび演じられるほどの人気狂言で
ことに先代の中村吉右衛門が十八番としたのだそうです。

その縁から、
現・吉右衛門丈も得意とされていて、
度々舞台にもかけられており、その名演を見ることができる。

題にある「籠釣瓶(かごつるべ)とは名刀のこと、

「釣瓶」は、井戸から水を汲む桶のことですが、
その桶がカゴでは、水が溜(た)まらない、

そこから、「水も溜まらぬほどに切れ味の良い刀」と云う分けです。

主人公の名は、
実際の事件と同じく、佐野次郎左衛門と遊女・八橋(やつはし)。

ただし、次郎左衛門を、
疱瘡の跡が残ったアバタ面の醜男(ぶおとこ)としてあります。

筋としては、

江戸に出た野州佐野の絹商人、次郎左衛門は、
吉原見物に出かけ、
そこで花魁道中姿の八橋を見て、一目惚れ、

以後、吉原に通い詰め、散々にカネを使い、
入れあげた挙句、
次郎左衛門は、八橋を身請けしようとするが、
相手には間夫(まぶ)が居て、 (間夫→遊女の愛人、真の恋人) 

愛人と客の間で板ばさみになった八橋は、
満座の中で恥をかかせて、手ひどく次郎左衛門を振る。

悲憤の次郎左衛門、一旦は家へ帰るが、
すでに長期の遊蕩で、財産も底をつきかけており、

思い詰めたすえ、
家伝の名刀、村正を持ち出すや、再び吉原へと乗り込み、

まず、八橋を血祭りに上げると、
刀の魔力に導かれたかのように、次々と人を斬って・・・、と云うモノ。

この芝居に登場する名刀、「村正(むらまさ)」は、
江戸時代には、
徳川家にたたる「妖刀」とされた刀でもあるのです。

次郎左衛門が、八橋を斬ったあと、
じっと抜き身を見つめ
「籠釣瓶は、よく切れるなぁ」とつぶやくこの場面や、

初めて八橋を見た次郎左衛門が、
呆然として、下男次六に、
「おりゃア、宿へ帰るはイヤになったァ」と云う場面、

愛しい間夫と、
真心を尽くす次郎左衛門との間で、板ばさみになる八橋の苦悩ぶり、

ひどい振られ方をした次郎左衛門が、
「おいらん、そりゃぁ、あんまり袖なかろうぜ」と、血を吐く思いで云う、

名セリフ、名場面など、見せ場が多い。

最後にひとつ、この芝居での芸談を、

ただし、
名優と呼ばれるような役者でなく、プログラムにも乗らない端役の芸談なのですが。

尚、「仲居(なかい)」は、料理屋などで働き、客に給仕もする女性、女中。
又、「幇間(ほうかん)」は太鼓持ち、男芸者。
  
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〔殺し場、八橋を殺す前の二階座敷の場面で、〕

 あそこで、仲居や幇間がぞろぞろ引っ込んで行く時、
 皆がちゃんと、
 梯子段(はしごだん)を降りて行くように見えますかい、?

 〔「どうすればいいんです」と聞かれて、〕

 なあに何でもないんですよ、
 部屋から出る時、ちょっと下を見ればいいんですよ、足元を。

 それで、これから降りるように見える、 
 それをネ、心がけが足りないと、そのまま引っ込んじゃうんです。

 ちょいとしたことなんだが・・・。

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語っているのは、中村秀十郎、
初世中村吉右衛門の弟子で、
セリフもロクにないような下積み役者で、生涯を過ごした人です。





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