漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

彼我の形勢を誤認したるの一因なり

2010年11月02日 | 政治・経済・こぼれ話
むずかしい外交問題の中でも、
特に「領土問題」は、余ほどに難儀なもので、
ナショナリズムが燃えあがると、両国とも収拾が付けにくくなる。

政治家の方では、
「この辺で手を打とう」と思っても、国民がそれを許さなくなるのだ。

日清戦争当時の外務大臣、
陸奥宗光(むつむねみつ)が回顧した、
「蹇蹇録(けんけんろく)」の中にこんな一節がある。

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衰世凱は、  (えんせいがい→中国の政治家)
明治十七年以来、
日本の朝鮮における勢力の何となく衰えたるを見、

かつ、二十三年の明治憲法実施以後、
日本政府とその議会とが互いにいがみ合うのを見て、

これなら日本は、
他国に対し軍隊を派遣するがごとき大決断は出来まいと見なし、

この機会につけいって、
清国の朝鮮に対する勢力を伸ばさんと志した。

また我が国駐在の清国公使汪鳳藻(おうほうそう)も、

わが官民の紛糾ごたごたが、
日を追って烈しくなる様を見て
日本はとうてい他国に対して事をなすの余力は無きものと誤った判断をなし、

おのおのその考えを清国政府に通告し、
両者の意見、期せずして一致したるがごとし。

これ清国政府が最初より彼我の形勢を間違えたるの一因なり。

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昨年来の日本も、
政権交代から選挙に継ぐ選挙などで、国内は揉めに揉めている。

その間、米国との仲は疎遠となり、
それを見た隣国が、尖閣列島や北方領土などで強硬な態度を見せるようになった。

迷走する日本政治を見てのことだろうが、

昔も今も、
状勢に応じての国家間の思わくや、
力の入り具合は変わらないのだとつくづく思う。


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※以下は蹇蹇録の原文です。

衰世凱は明治十七年以来、
日本の朝鮮における勢力の何となく微弱となりたるを見、
かつ二十三年憲法実施以後、
日本政府とその議会との間つねに相軋轢(あつれき)するの状を見て、
わが政府ほ他国に向かい軍隊を派するがごとき大決断をなす能わざるものとなし、
この幾に乗じ清国の朝鮮に対する勢力をのばさんと志し、
而してわが邦駐箚(ちゅうさつ)の清国公使汪鳳藻も、
またわが官民の争執、日を逐いてはげしきを見て
日本はとうてい他国に対して事をなすの余力なかるべしと妄断し、
おのおのその所見を清国政府に通告し、
両者の意、期せずして相合したるがごとし。
これ清国政府が最初より彼我の形勢を誤認したるの一因なるべし。









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