「チョッと、これ読んでみてよ」
「なんだい、新聞記事か、・・・、ナニナニ」
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自動認識システムの監視カメラは、
先年のロンドンの同時多発テロで四人の犯人を突き止めたことで有名になった。
「もはやわたしたちには、隠れる場所すらない」。
街頭カメラの急速な普及は、私たちにとっても絵空事ではないと気付かされる。
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「それ、人権とプライバシーの保護に熱心なA新聞の記事だがね」
「これがどうかしたかい」
「先日、無免許の男が小学生の列に突っ込んだろ」
「ああ、あれね、小学生や妊婦が亡くなったと云う悲惨な事故」
「あれ、犯人が十八才だと云うので匿名で写真も出なかったろ」
「そうだね、他人の車借りて返さず、
一晩中走り回って、
最後は居眠りしながら小学生の列に突っ込むと云う無茶な犯人んだったのにね」
「で、ね、被害者の方は名前は勿論、写真や親兄弟までデカデカと報道されてたろう」
「ウン、被害者のお父さんも怒ってたよね、
『何の罪も無く殺された方はプライバシーを無視されて、
殺した方は、人権だ、未成年だと保護されるのか』って」
「まったくそうだね」
「で、ね、その記事だがね、
殺された小学生のプライバシーを無視して報道する側が、
『監視カメラはプライバシーを侵害する』なんて云うのはおかしいと思わないかい」
「まぁ、新聞記者なんて、他人のプライバシーをあばいてメシを食ってるようなモンだからね」
「そうなんだよ、それにね、
最近は痴漢や通り魔が監視カメラで逮捕されることも多いんだ、
それなのに、
そう云う犯人逮捕の記事を書く時だけは街頭カメラの事には触れず、
別に日の記事では、『街頭カメラはプライバシーの侵害だ!』、なんて、ね」
「プライバシーの侵害を日常やってる新聞が云うな、って思っちゃうかな、
まぁ、報道しないわけにも行くまいし、・・・矛盾するところだね」
「むかし、座頭市のセリフにこんなのがあったろ、
『オレたちゃな、世の中の裏街道を歩いてるんだぞ』と云うヤツ、
殺された人の名前を出すなとまでは云わないけど、
自分たちの仕事には明るい部分もあるが、
『後ろ暗い部分もあるんだ』と云うことを承知しておくべきだと思うね」。
自分たちは世間のアラでメシを喰ってるんだと思えば、
『新聞は公器だ』とか、
『正義の味方だ』とか云うのは、チョッと恥しいはずなんんだけどね」。