漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

釣りギツネ・④

2010年05月31日 | Weblog
「釣りギツネ」、きのうの続き。

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(ト、伯蔵、藤六の家が見えなくなった辺りまで来て)

●(伯蔵、実は狐)、
「のうのう、うれしや、うれしや、
 うまうまと意見を申して、ワナまで捨てさせてござる。

 これほど快い時は、鼻唄など口ずさみ、
 しゃならしゃならと元の古塚へ帰ろうとぞんずる。」

(ト、機嫌よく歩くうち、杖の先にワナがあたる)

(ト、狐、パッと飛び退いて、)

「これはなんとしたこと、

 まことに彼奴(きゃつ)メの心が直って、
 ワナを捨てたかと思うて安心していたれば、
 あのワナがこのように、それがしの帰る道の真ん中に、仕掛けてあるわ。

 だいたい我らを見て「あれは畜生のしわざ」などと云うて、
 人間どもが笑うと聞いたが、
 ハァッ 彼奴はその畜生よりもはるかに悪どいやつでござる。

 さて、それがしもワナの近くは通れども、
 どのように若狐どもを釣ることやら、恐ろしゅうてついぞ見たことがござらぬ。

 良いついででござるによって、そっと見ようとぞんずる。
 さりながら、これはちと気味の悪いものじゃが。

(ト、ワナへ近寄り、杖の先でこわごわ突付く)

(ト、杖の先を鼻に近づけ臭いをかぐ)

 クンクンクンクン、これはうまそうな匂い、
 若狐どものかかるもムリはない、上々の若鼠を油で揚げてあるほどにのう、

 イヤ危ない危ない、このような所に長居は無用。
 道を変えて元の古塚へ戻ろうと存ずる。」

(ト、行きかけて、また戻ってくる)

「しかし、よくよく考えみれば、
 こやつは、それがしが同族の命を数多く奪った敵(かたき)じゃ、

 ここで出会うたことこそさいわいなれ、敵討(かたきうち)を致そうと存ずる。

(ト、ワナにある餌に向かって)

 ヤイヤイおのれよう聞け、
 その真っ黒なチビのくせして、ようもようもそれがしが同族の命を取ったな。

(ト、杖でワナを叩きながら、)

 ただいま敵討をするぞ、
 エーイ、エーイ、おのれめ、

(ト、杖の先で餌を突付き、)

 おのれめ、おのれめ、
 おのれ、もはや堪忍ならぬ、飛びかかって食おう。

(ト、飛び掛ろうとして、思いなおし)

 イヤイヤ、このような姿で食うたならば、ワナにかかるでござろう、
 まずは狐の姿に戻ってから、たった一口に食おうと存ずる。

 ヤイヤイ、おのれよう聞け、
 今この身を元に戻し来て、たった一口にするはどに、
 そこを一寸でも退(の)いたらば卑怯者であろうぞ、エーイ。

 コーン、コーン、コン、コンコン、」

(ト、藪(やぶ)の中へ入ってゆく、)





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