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猫とマンガとゴルフの日々

好きな物を題名に↑ 最近はゴルフとグルメお出かけ主体に。以前は1960年~70代マンガを紹介していました。ネタバレ有り。

マンガ日本の古典 27 「心中天網島」 里中 満智子 

2009年06月02日 15時16分46秒 | マンガ家名 さ行
  

           ↑ 中央公論社 1996年10月25日 初版


「心中天網島 しんじゅうてんのあみじま」 
「女殺油地獄 おんなごろしあぶらのじごく」
「鑓の権三重帷子 やりのごんざかさねかたびら」
「曽根崎心中 そねざきしんじゅう」

 の4編が入っています。
 原作は 近松門左衛門 (1653~1724) がほとんどを人形浄瑠璃の為に創作した物語。のちに歌舞伎の舞台になったものもあります。
 近松といえば何と言っても 「心中もの」 が当時大ヒットしました。他にも世間を賑わした実際の事件を元に、ワイドショー的に陰に隠れた個人の事情やしがらみをうまく脚色して世間の好奇心や同情をあおるように書いて見せたのです。

 私も心中ものを細部まで読んでみたのは初めてで、なるほど当時の人にとってはこれは死ななきゃならないものだったのか、里中さん上手いわ~、見て来たよう、もちろんしっかりした下調べもなさっているし、と興味深く読みました。

 でも、個人的に4編のうちでは
2番目の 「女殺油地獄」 の話が気になっていて、今回細かいところまで良くわかって納得がいきました。

 ちょうど明日 (2009/6/3~6/27) から東銀座の歌舞伎座で、上演される 「六月大歌舞伎」 にて、片岡仁左衛門 が 孝夫 の頃 (1964年初挑戦) から当たり役としてきたこの話の主人公、油屋の二男坊である 河内屋 与兵衛 を演じる予定です。
 今年65歳の仁左衛門は、これが若い役である 「与兵衛」 を演じる最後として、気合いを入れているようです。それというのも、読売新聞の演劇のページによると、
「このまま現代の服装でやってもおかしくない芝居。
本当の若さが必要なので、もうやめておこうと心に決めていた。」
というのです。

 河内屋与兵衛という役は、放蕩の挙句勘当され、借金の返済に困って子供の頃から世話になっている優しい近所のおかみさんを殺して金を奪う、というどうしようもない道楽息子。父親が死んだあと、母親が番頭と再婚して店を存続させた、というような家庭の事情はあるが、それだけではグレたいいわけにはならない。
 
 歌舞伎では油まみれになりながら、こけつまろびつ凄惨な殺しの場面が見せ場となります。この作品でも大事な場面ではありますが、そこに至った与兵衛の身勝手な考え方や周りの人たちの事情や思いが細やかに描かれていて、さもありなんと納得が行くのです。
 と言って、作者は与兵衛の味方はもちろんしていませんよ。自分の都合の良い幼稚な考えで行動し、世間をなめきった若者の末路は…。

 はて、昨今似たような事件を起こす勝手な若者が多いような。いつの時代にも後先考えない人間というのはいるものです。


 次に載っていたこれも歌舞伎の舞台になっている 「鑓の権三重帷子」 といえば、以前TVドラマになっているのを見たな~と調べたらなんと1961年に 「侍」 というシリーズの中で関西テレビが制作したそう。これを見たのかな~ ? ちょっと記憶が流石に曖昧。

 郷ひろみが 権三 をやってたの見たことある様な・・と思って調べたら映画の方にありましたよ、『近松門左衛門 鑓の権三』(1986年、松竹、共演:岩下志麻) というやつが。これを後でTVで見たんだなたぶん。
 里中氏の描く 鑓の権三 は鑓の名手で茶道の達人、しかも男前、という人も羨む若者なのだが、優柔不断な性格で不幸を招く、という風に描かれいる。当時の爽やかな 郷ひろみ には似つかわしくない役だが、当代の男前ということで起用されたのだろうか。演技開眼に繋がる様な名演だったかは残念ながら覚えていない。(やや笑)

 
 絵師の里中氏は大阪生まれの大阪育ち。知った地名や大阪弁も懐かしく、楽しく作成されたのではないでしょうか。それが伺えるような余裕のある作品でした。


マンガ日本の古典 酒井 美羽 「春色梅児誉美 しゅんしょくうめごよみ」

2009年05月08日 13時18分23秒 | マンガ家名 さ行


          ↑ 中央公論社 1996年6月25日 初版


 中央公論社の編集者の常套句 ! 「酒井さんにぴったりですよ !」 にまたもや釣られて  「江戸時代はまるでシロート」 と告白する少女マンガ家 酒井 美羽さんが描く江戸時代ジェットコースター恋愛ドラマ。
 あらすじを要約しようにも、二昔も前の少女マンガ、日活映画か奥様の紅涙を絞ったラジオドラマか、今なら韓流ドラマに昼メロ、いつの時代も日本人大好きな、いろんな要素ごちゃ混ぜの一大メロドラマです。
 原作は江戸時代後期の戯作者 為永 春水 作の人情本。今でいえば大衆小説の大ヒット作です。

 酒井さんは私たぶん初めて読む方だと思うんですが、(「花とゆめ」「SILKY」「YOU」でちらちら読んでたかもしれないが) 少女マンガ家らしい可愛らしい絵と思いきや、レディースコミックにも描いてらしたようでなかなかに男も女も色っぽく、艶っぽく、なるほどお江戸の恋愛ドラマにはぴったり。

 作者あとがきによると原作は、
「明るくテンポのいい物語で、最後まで読んでみた結果、なるほど私にぴったりだと認めざるを得ないというか、特にどんどん調子よく展開して収拾がつかなくなった所で都合良く(ちょっと強引に) まとめてめでたしめでたし・・・・」

 二組のカップル + 一人 を中心に話が進みますが、前半から少女が暴漢にあわやと思うと助けが入ったり、後半町人だと思っていた主人公たちが実は大家のお侍さんの落とし種やらお嬢さんやら。(笑) 
 庶民のおとぎ話で終始するのですが、それはそれで楽しく浮世の憂さを忘れ、ふと男女の真実にホロリとさせられたりして面白かったです。

 酒井氏の夫君が学生時代に 落研 にいて、趣味で江戸の風俗を調べていたとかで、描く上で大きな助けとなったそうです。そのためか江戸の風俗や建物の風情、小物に至るまでしっかり描かれていて、時代ものに興味のある方には楽しいと思いますよ~。


 酒井氏がこの物語を現代風にアレンジして描いた巻末の 「スプリング・プラム・カレンダー」 が出色 !

 ここはとある大会社、会長が急死したことから後継者を巡り内紛が勃発。弱冠19歳の養子で後継ぎの若社長 丹次郎 大学一年生に対するは海千山千の副社長 鬼兵衛 (春色では大番頭) 策略ではかなうはずもなく、会社の金を横領したと濡れ衣を着せられ身を隠し、中野の安アパートで寒さに震える 丹次郎。
 年上恋人の銀座ホステス 米八(よねはち) (春~では売れっ子芸者ね) が探し当て、「私が養ってあげる…涙」

 一方、丹次郎とは兄弟同然に育った会長の娘で丹次郎のフィアンセ、コギャルの お長 (おちょう) 高校1年生は 丹次郎 を探して夜の新宿をうろつく。ヤクザにからまれあわや~というところをチーマーのボス、ヘアメイクアーチストの お由 (およし) (春~では髪結いさん) に助けられ、そのまま お由 の家に転がり込み 鬼兵衛 に牛耳られた家を出る。

 ばったり出会えた 丹次郎 と お長 がイタリアンレストラン (春~ではうなぎや) で食事しているところに 米八 がホステス仲間と現れ、コギャルとホステスの対決が始まり…。

 と、こんな調子でポンポン進み、今 「りぼん」 「なかよし」 または 性描写をちょっと過激にして レディースコミック で連載されても違和感ないと思います。(笑)

 ラストの納まりは江戸時代ならではで、今の時代では考えられないものですが、こんなハッピーエンドも当時ならありなのかもと思わされました。

 お近くの図書館にあったら手に取って見てくださいね~~。


 

平安ブログ 「堤中納言物語」 坂田 靖子

2009年04月16日 10時15分38秒 | マンガ家名 さ行
 

    ↑ マンガ日本の古典シリーズ 7 中央公論社 1995年8月25日初版


 原作は古典の中でも名前を聞いてもピンとこない作品なんだが、(私だけ?) 成立は10世紀から14世紀、平安時代の逸話など集めた、かの 「虫めづる姫君」 が収められている10篇から成る短編物語集と聞くとなんとなく思いあたる。

 1篇のみ作者がわかっているが、他は作者・編者不詳のものがたり達。ひどい悪人は出てこないし、説教臭くもない、勧善徴悪どころかきちんとしたオチもないようなこれらの おはなし は、だからこそ当時の本当の姿が出ているようで興味深い。

 一番有名 (であろう) 「虫めづる姫君」 の話でも、男の子みたいに虫が大好きで眉毛ぼーぼー、当時のエチケットであるお歯黒もせず、言いたいことを言ってまわりを困らせる姫君に興味を持った若者が訪ねて行っても、相手の迫力に負けてすごすご退散…。
 お互い気に入ってめでたしめでたし。とはならないんです。

こんなサイトまであった → 「虫愛ずる姫君ファンサイト」

 始めのうちは、は~んオチないしなんかのっぺりしてて、内容も最近こんな話を聞いた、こっちでこんなことがあった、身近に珍しいことがあった、というブログのような書きつけだなぁと思った。


 後半にある 「はいずみ」 これは人の情は1000年昔も今も変わらない事を感じさせ、思わず涙を誘われた。
 
 あるところに身寄りのない女を哀れに思って妻として自分の家に住まわせていた男がいた。格の高い知り合いの家にたびたび行くうち、そこの娘ともいい仲になり、娘の両親からは、いつ正式な妻として男の家に迎え入れてくれるのかと矢の催促。
 急に明日引越すからと言われてあわてた男は妻に少しの間だけ隠れいてくれないかと懇願する。行くところもないが優しい妻のこと、夫の為に身を引いて戻らないことを決心し、牛車を借りて以前仕えてくれた者のところへ行こうとする。
 明日の準備で牛車は全て出払っており、馬1頭に乗り小者一人に引かせて都の端まで泣きながら揺られて行った。

 着いた所はお方様と呼ばれていた妻には不似合いな大変なボロ屋。びっくりする小者に
「夫にどこに落ち着いたと聞かれたら、涙川にと言っておくれ」
と言って帰らせた。
 それを聞いた夫、初めて自分のした仕打ちに思い至り急ぎ妻を迎えに行く。
「お前が病気になり動かせないと言って今回の話は断る」
と言って優しく抱くのだった。

 話はまだ続き題名の由来となるエピソードになる。先方の家にも気づまりだが行かなくてはと、しばらくぶりに訪ねる男。昼日中突然来られて慌てる女の家。特に姫の周りは準備が間に合わずやれおしろいはどこ、化粧箱はと大騒ぎに。

 男が几帳を押しのけばっと入るとそこには顔が真っ黒にすすけた姫が… 
 びっくりしてそそくさと帰る男。家族、仕える者どもはどうしたことか、これは男の妻の呪いかと騒ぎたて、陰陽師などを呼んで祈祷させる。女房が姫の顔に手をやってやっと気がついた。顔全体におしろいと思って塗りたくったものは眉用の 掃墨 (はいずみ) だったのだ。

 この話でも、特にひどい悪人というのは出てこない。今の感覚でいえば一番悪いのは二股かけた 男 ということになるが、当時の貴族たちの世界では二股三股は当たり前、男性が通って来なくなったらそれっきり、(あくまで貴族の話ね) という世の中だったからこの男が特にひどいとは言えない。後半の態度を見るとよくぞ妻に情けをかけてくれたと感謝さえしたくなる。


他には

「桜花折る少将」 
桜の綺麗な屋敷で見かけたかわいこちゃんをまんまと盗み出すことに成功 ! と思ったら担いできたのは昔 美女 だった姥桜だった…。

「このついで」
長雨のある日宰相の中将が香を持ってやってくる。火取香炉を用意させ、香を焚きながら女房達がつれづれに聞いた話を披露する。主上 (天皇) がお越しになったので、ではまた。

「ほどほどの懸想」
主従関係にある3人が、それぞれその主従に身分相応の恋をする、というお話。

「はなだの女御」
さる屋敷に忍び込み、庭で盗み見している男。その屋敷には庭の花々を自分の仕えている女主人になぞらえて自慢話をする色とりどりの女たちが居た。

「逢坂越えぬ権中納言」
これのみ天喜三年 (1055) 小式部作。表題は 「思う相手と契れぬ権中納言」 の意味。逢坂の関を超えぬを契り得ぬ事とする表現だそうだ。「菖蒲の根合わせ」 という左右に別れたお遊びの競い事の情景と、その後思う人に振られた男のはなし。

「貝合」
母のいない姫君が意地悪な義理の姉と貝合わせをすることになったが、頼れるのは弟と女の童 (めのわらわ) だけ。気の毒に思った 男 がこっそりと仏様のふりをして助けてあげる。

「思わぬ方にとまりする少将」
大納言の姫君二人、両親亡くなり姉妹で心細く暮らしていた。気に染まない相手ながらも二人に通う少将たちが出来た。有る夜、先に迎えにきた牛車が姉と妹を間違えて・・・後で来た車も間違いに気づかぬまま・・・。この姉妹のその後はどうなった事やら。

「よしなしごと」
当時の一級品、名物を書き連ね、何でもよいから貸してください、と女に無心する僧侶の手紙。他の僧侶にいろいろとプレゼントしたのが気に入らないらしい。
「なんとなくクリスタル」 を思い出してしまった。(笑)

「断章」
これからお話が始まるーーーと、思ったところで突然断筆になっている1篇。

以上の10篇と断片1つから成っている。


 巻末に 「解(ほどき)堤中納言物語」 として、作者と友人かアシスタント(?) と思われる二人の会話で解説がある。これが面白くてためになって本マンガより良いくらいだ。解 ほどき と有るのは、本作品の題名 「堤中納言物語」 というのが複数の物語をばらけないように包んでおいたため「つつみの物語」と称されていたのを ほどいて解説 してみましょう、という坂田氏のシャレでしょう。
 それによるとやはり 「はいずみ」 は庶民の説話から取った話のようで、こんな理不尽な話は貴族社会では当時いくらでも有ったのだろう。

 あとがきによると、中央公論の編集者に 「この話はサカタさんにぴったりだと思いますよ」 と口車に乗せられて、こんな大変な作業と思わず引き受けてしまったと書いてある。
 私も読み終えて編集者さんと同じに思います。平安の貴族達のおっとりした、でも今に通じるお話は坂田氏の簡潔な絵柄であっさり描かれてこそ本質が見えるように思う。平安貴族の話だからと言って、あまり華麗な描写だとお話の面白さが損なわれる。
 と言って、これを男性作家さんで描いても情緒がちょっと違うような気がする。坂田氏がぴったり。


 雨の夜に平安の昔に思いを馳せつつ、こんな物語を味わうのも面白いものだなぁ。


ささや ななえ 「グレープフルーツ ストロベリー」 ちょっと 「春抱き」

2008年08月26日 13時01分12秒 | マンガ家名 さ行
   小学館 PFビックコミックス 1982年7月2日 初版 夜さん にお借りしています。

同時収録 「となりの学星人」 ← これが、これが… 奇想天外別冊 No.9 1980年1月 に載ったSFコメディ。ぷぷぷです。


 この作品を懐かしいと思われるのは35歳以上でないと無理かな~ 1980年春の号 ~ 1982年1月号までプチフラワーに発表された、種類でくくるとすれば学園コメディーです。


 作者あとがきによると… 美内 すずえさんに 「食物の名をタイトルにつけるとまんががヒットする確率が高い。」 と聞いてこういう題名をつけたそうな。
 学園ものだから、ささや氏が少女の頃その作品群に衝撃を受けたという 西谷 祥子氏 の 「レモンとサクランボ」 も意識しているのかもしれない。しかし 「レモン~」 はレモンに例えられるキリッとした少女と さくら という名の少女が中心のストーリーだが、こちらはちっとも題名と内容がリンクしてない。
 かろうじて主人公の名前が 苺野 (いちごの) という苗字なくらい。(笑)

 作者も 「くだものの名前をいろいろ書いてゴロが良さそうなのを選んでつけただけだから別に内容とは全然関係ない。これがヒットしたかどうかは知らない。」 なんて言ってますがいえいえ、ささや氏の初期作品の中ではちゃんと読んでいない私でも題名に覚えのある 秀作 ですよ。

 私がリアルタイムで読んで面白いと思った ささや氏 の作品はレディスコミック連載の 「おかめはちもく」 でその前の、たぶんちょっと不本意な思いで描いたであろう 乙女ちっく な初期少女まんがや中期のミステリー作品はこの度 夜さん にまとめてお借りして初めてしっかり読みました。
 でも、やっぱり私の好みはこの人のこんなコメディーだなぁ。その後の 「おかめはちもく」 に繋がるものがこの 「グレープフルーツ ストロベリー」 に垣間見えるのですよ。

 一応学園コメディーの形で主人公の 苺野 糖子 (とうこ) を取り囲む友人、3人組のトッポイ男の子たち、ハンサムで自信過剰な同級生男子、自意識過敏な 糖子の兄 (糖子の高校の新任教師) とかいろいろ出てきて学園生活に起こりそうな恋のさや当て、勘違いなどを楽しく見せてくれるのだが、それはいつの時代の少女マンガでも主題になるもの。

 私が他のマンガとどこが違って気になるのかというと、この主人公が少女まんがのヒロイン像とかけ離れてるんです。性格が すご~く鈍感 に描かれている。常識がないということではないが、奥手というより恋愛に対する感情にとにかく気がつかない子で、自分が誰を好きかも気づいてないという…。何事も 「ふ~ん」 と聞き流してしまう。
 こんな主人公、何事にも 過敏で過剰に反応して走り去る 思春期の乙女 が大多数の当時の少女まんがにはいないですよ。この糖子も、「おかめ~」 のぽーっとした主人公の主婦も、作者の分身と私は見ました。

 ささや氏のコミックスを今回20冊以上借りたけれど、今読んでも充分本の中に入って行けて面白かったです。夜さん ありがとうございました。m(_ _)m


 ただいま、ブックさん から 腐本 を借りておりまして、さっそく読んだのが 新田 祐克さん の 「春を抱いていた」 新装版 1~13巻。いや~どっかで麻薬のような作品という感想がありましたが、わかります。私も寸暇を惜しんで読むほどはまりました。あっという間に13巻読み終わって、作品はまだ連載されているので早く続きを読みたいわ~っと身もだえしております。(笑)

 ご多分にもれず、読む前はこの人の絵柄がちょっと好きじゃありませんでした。お名前も ゆうか と読むなんて知らないくらいで。でも有名だし、長く続くからには人気があるのだろうと、BOで見かけてぱらぱら立ち読みしてみました。しかし1話完結形式で読みやすいとはいえ、やっぱり最初からまとめて読まないと面白さはわからないと思い、ブックさんにおねだりして今回お借りしてみました。
 絵柄も全然今となってみれば気にならないどころか、岩城と香籐のこのお話には、 新田 祐克氏 のこの絵じゃなきゃだめっと思います。俳優という職業とお互いを命がけで大切に思う二人のお話、BLということを抜いても読ませます。

 今度は声優に青春をかける男たちの 「僕の声」 を読んでみよう。

ささや ななえ 「化粧曼荼羅」 前・後編

2008年06月17日 14時18分29秒 | マンガ家名 さ行
                   

             夜さんにお借りしています。


 表題作の「化粧曼荼羅」の初出は1984年 プチフラワー 6月号~11号までと番外編の 「化粧曼荼羅 冬の祭り」 は1985年 プチフラワー 3月~4月号掲載。 
 他にこの作品の前章ともいえる 「オシラ伝」 1983年 プチフラワー 11月に掲載と「河童」 (かわっぱ) という作品が入っています。

 何年も前から読みたかった ささや ななえ氏 のホラーの佳作。夜さん にお借りして読むことが出来ました。ありがとうございます。この作品が世に出てからもう四半世紀になろうとしているのですね~。(遠い目)
 だいぶ前から夜さんにお借りしていたのですが、夜怖くて読めなくて、やっと日曜日の昼間に通して読むことが出来ました。これって 山岸 凉子氏 の一連の怖いコミックスの時と同じだな…

 そういえば、イメージと言うか作品から感じるものも 山岸氏 の 1980年代のホラー・ワールド作品と似ているかも。当時はこういうのが流行っていたのかな。


 あらすじ

 同じ大学の憧れの君、緒方君の住んでいる隣の家に下宿することが出来て 珠珠子(すずこ) は大喜び。大騒ぎで友人達と引越しをしに来たが、門を開けるとなぜか自然に涙がボロボロとこぼれて来て。思えばこのときに気づくべきだったのだ。

 緒方君の家も下宿先も、鬱蒼と茂った林に覆われた地元の名家の家らしい。もっとも下宿先は分家のようだけれど。しかし 珠珠子 がここに越してきてから以前には見えないものが見えたり、不可解な事が次々起こり、友人の真紀までがカマイタチのようなものにやられて怪我をしてしまう。
 緒方君の曾祖母や同じ下宿にいる 白貴 (しらき) という少年も不気味だし、大家のおばさんもなにやら内緒にしていることがありそうだし…。

 白貴 は街で人でないものに憑かれそうになった 珠珠子 を助けてくれ、早くあの家を出ろと忠告してくる。けれど緒方君は 珠珠子 に気のあるようなことを言って引き引きとめようとする。緒方家とあの場所には何があるの ? 私を巻き込まないで ! やっぱり私、あそこを出なくちゃ ! 


 古い信仰の因習にとらわれた旧家と、越してきたことでそれに巻き込まれる女子大生の恐怖を描いたホラーミステリー (と言うのかな ?) 
 このマンガ、何でも無いようなシーンが怖いのです。細い道を挟んで、憧れの緒方君が隣の家の庭に入っていくシーン。それを遠くから見ている 珠珠子 。まるで異界から出て異界に入っていくような、そんな場面が怖いのよ~。
 あと、オババさまが怖い~眼が見えない設定だけれど、ナウシカのおばば様とは大違いですわ。

 最後の方、同じ作者の 「たたらの辻に」 と同様、大きなもの が出てきてなんかスペクタクルになっちゃうのは好きではないんだけど、最近の 怖くない可愛いもののけばかり出演 でない、怖いもの見たさが満足される作品でした。ページめくるのドキドキだったもの・・・。 


ささや ななえ氏 の以前の記事

ささや ななえ傑作集 「わたしの愛したおうむ」

ペーパームーンムック 少女漫画ファンタジー 「少女漫画 夏の夜の夢」

ささや ななえ傑作集 「私の愛したおうむ」

2008年02月27日 14時42分46秒 | マンガ家名 さ行
     ㈱白泉社 花とゆめコミックス 1975年12月20日初版 これは 1976年5月20日の第2版

収録作 「私の愛したおうむ」 「本町51番地」 「薔薇よ薔薇よ」 「ユマ」 「木枯らしにふたりだけ」 「フェリシア」 「かもめ」 の7編

                  夜さん からお借りしています。

          ささや ななえ とは - はてなダイアリー


 りぼんコミックデビューの作家 第3弾 ささや ななえ氏です。私がささや氏の名前を認識して読み始めたのはデビューされてからずっと経ってからで、ビックコミックフォアレディ連載の 「おかめはちもく」 の頃から。アレは面白かったですよ~。主婦の日常を 昔からある家庭まんが の枠に収まらずに表現した、やっとこんなマンガが出る世の中になったのね、と大人のマンガ読みにはプチ感慨ものの、家庭コメディでした。

 ですが、ささや氏は当時でも、もっと前から少女マンガ誌で活躍されていたベテランだったのですね。りぼんコミックでデビュー以来、りぼコミ や りぼん でも描いていたので、何作かは読んでいるはずですがあまり憶えてない。
 初期の社会派的な作品や少女マンガには珍しい地方の普通の少年の話などもあったようです。(現在 夜さんからお借り中) 
 途中ミステリーがヒットして、そういう作品ばかり頼まれるようになったとエッセイマンガでぼやいていたのを以前読みました。(笑)


 この本の中には7編の短編が入っていますが、最後にデビュー作の 「かもめ」 が収録されています。デビュー時の絵柄は石ノ森章太郎氏そっくりで、女の子は水野 英子氏似です。当時マンガ家志望の人の何割もがそういう絵を描いてました。かくいうわたしも真似て描いてました。(とてもへただったけれど) 上のはてなダイアリーにも、石ノ森氏に憧れていたとありますね。


                  

 「かもめ」 あらすじ

 第二次大戦時、ドイツ国内の海岸で脱走してきたユダヤ人の少年を助けた少女とその弟。海岸にある洞窟に隠し、ドイツ兵の目をくらませていったん家に帰ります。ユダヤ人の悪口をいう父親に 同じ人間なのにどうして、と食って掛かりますが、その父親にドイツ兵に知らされて隠し場所を知られてしまいます。
 初めから、ここには死にに来たんだと言っていた少年は追い詰められ、少女に笑いかけながら崖から海に飛び込みました。死体に取りすがって泣く少女。父親達に同じ人間なのに、と又、問いかけながら・・・。

 というようなお話で、デビュー作で重いテーマに挑んでいます。少女マンガ家のデビュー作といえば、もっとねぇ、軽いラブコメとか学園ものとかあるでしょうに、なんて思いますが、そこは りぼんコミック というか、後々も社会的なテーマで描いている (最近も児童虐待テーマ有り) ささや氏ならではというか。

 一方、表題作の 「私の愛したおうむ」 は継母や周囲全般との人間関係に悩む女の子の独白で進む内向的な作品。暗いです、救いがないです、ちょっと最後になって明るさが・・・。
 作者も作品の横の欄 (掲載当時は宣伝スペースでしょうか) で自分が東京へ出てきた当時の 鬱的 な感情を描いてみたと言ってます。これ、問題作だらけのりぼんコミックでなく りぼん 掲載なんですが、背伸びしたい小学生高学年・中学生の女の子に衝撃を与えたのではないかと思います。自我が強くなって来るこの頃は、わたしなんて 誰にも愛されないのじゃないか、とか世の中に居場所の無い感覚がふっとあるのです。主人公の思いつめる様子がいじらしいですね。

 他の5編も、学園物とかもありますが、やっぱりちょっと暗い影のちらつく作品やミステリーホラーっぽいものもあって、ハッピーエンドは1篇だけかな~。当初から一筋縄でいかないお話を描く作家さんですね。最近のものはあまり読んでいないので、ちょっと読んで見たくなりましたが、う~ん虐待をテーマにした 「凍りついた瞳」 か~、引くかも・・・。
 

佐々木 倫子 画集 「動物のお医者さん」

2007年12月20日 11時07分39秒 | マンガ家名 さ行
 

           画集です。コミックスじゃ有りません。

       白泉社 平成3年 (1991年) 5月25日 初版

 最近、割合近いところにまんが専門の古本屋さんを見つけまして。まん○らけ程、初版だ希少本だとうるさくなく、ブック○フより古めの物が揃っていると言う、私にはぴったりのところで喜んでいるんです。しばらく通い詰めたいのに仕事が忙しくて~ 先日これをゲットしました。定価の半分くらいだったかな。

 本編の方は、ご存知動物まんがの傑作にして佐々木 倫子氏の代表作。1987年~1993年、白泉社「花とゆめ」連載、全119話。ドラマ化もされたそうですが、私は気がつかなかったなぁ~。公輝(通称ハムテル)と友人の二階堂の獣医学部ライフ。

 思えば少女まんがとしては不思議なまんがでした。そもそも舞台が北の大地、北海道の大学の獣医学部。教授も変なら集う学生も変わり者だらけ。女の子はいるにはいるが、菱沼さんなんて一見お洒落で普通に見えて獣医学部に来るんだからそれなりに変だし。
 大体恋愛話がぜんっぜん出てこないんですよ。その代わりいろんな動物がこれでもか~~と出てきて動物好きの人なら感涙ものでした。実は私がそうでして・・・一番のお気に入りは ももんが ちゃんでした。はい。
 あっもちろん、チョビは私の永遠のハスキー犬ですよ。いまだにハスキー見ると 「チョビ」 と心の中でつぶやく自分。
 まんが本体は私持っていないので、(昔友人に借りて読んだ) あまり詳しくしゃべれないのです。

 ところで、この画集、ほんっとに画集なんです。
 いまどきなら、おまけまんがとか、描きおろしイラストとか著者インタビューとか、全プレなんとかかんとか付録をつけると思うのですが、(BLコミックス読みすぎ?) 1988年1号の連載第1回目の扉絵から91年のコミックスカバーまでの表紙やポスターやポストカードや、カセットレーベル (懐かしい!) やらレターカード、カレンダー、口絵にカバー袖、扉絵、クッキーボックスのイラストまで・・・あらゆるカラー・白黒のイラストを延々載せてます。最後にそれらがいつ、何に使われたかの一覧表。
 シンプルすぎてあっけにとられましたけど、当時のイラスト集はこんなものだったんでしょうか。

 佐々木 倫子さんは、あと 「おたんこナース」 を読んだだけで、最近の 「月館の殺人」 は読んでないのです。原作付の傑作推理サスペンスと言うことだし、絵柄もずいぶん変わっているようで、ちょっと読んで見たいかも。

吉祥花人 (ラクシュミー) 佐藤 史生責任編集

2007年12月03日 20時08分26秒 | マンガ家名 さ行

                つるさんにお借りしています。

         佐藤 史生さん責任編集のアンソロジー本。1987年8月31日初版 白泉社 


 1989年7月に再販されているようですが、お借りしているのは最初に出たほう。つるさんのお陰で目にすることが出来ました。(多謝多謝) 描いている方々は・・・

鳥図 明児 (とと あける)・象田 透児・坂田 靖子・BeLne・伊東 愛子・徳永 メイ・浜田 芳郎・橋本 多佳子・佐藤 史生 う~ん 全員は良く知らないけど、相当マニアックな匂いはする。

 最初にいきなり鳥図 明児氏の透明感溢れる4枚のイラストのついた絵物語。鳥図氏は他に 「惑星ウニの美男美女」 (光を見る男の連作の中のひとつ ? ) というマンガ作品を載せている。
 鳥図さんの作品は、昔 「水蓮運河」 という長編コミックが会社の更衣室に有ったのでチビチビ読んでいた。誰かが持ってきて置いたらしい。面白くて、絵柄も柔らかくて好きだった。


                   

                  ↑ 「惑星ウニの美男美女」


 今は鳥図 明児さんの作品は絶版ばかりですね。好きな人結構いると思うんだけど、今は描いてらっしゃらないのでしょうか。
 鳥図氏のファンサイトさんを見ていたら、鳥図くん情報(男児出産とのこと) という文があったので、主婦しているのか、又いかにもインドが好きそうな人だったので、インドに行ったきりになっているのか・・・勝手に想像を膨らませてしまいました。 どなたか鳥図 明児さんの近況をご存知でしたら教えてください。


       鳥図氏のファンサイト →  鳥図 明児の世界

佐藤 史生 「鬼追うもの」 

2007年11月26日 13時18分48秒 | マンガ家名 さ行
    「鬼追うもの」 小学館 PFコミックス 1995年7月20日 初版


            つるさんにお借りしています。


収録作および初出

「鬼追うもの」 プチフラワー 1994年7月号 

「神遣い (かみやらい)PART 1」 プチフラワー 1995年1月号 

「神遣い (かみやらい)PART 2」 プチフラワー 1995年3月号 

「神遣い (かみやらい)PART 3」 プチフラワー 1995年5月号 


 舞台は 大崩壊 が起きて旧世界が崩壊してしまった地球。人の住んでいる宇宙ステーションもあるらしいので、未来の話でしょう。
  
 邪気を締め出した 「聖域」 であるはずの ヒモロギ府 に鬼が出没し、府外の都市ギルドから鬼追いの特殊技能者である 朱楽 (あけら) が呼ばれた。朱楽 は府のぐるりを囲む 羅城 (らじょう) の警備隊の隊長である 篁(たかむら) に出会い…


 とあらすじを試みようとしたが、いつものように 史生さん の作った世界を説明するだけで相当文字数がかかる上、いくら説明してもなーんか違った話になりそうなので、 この世界のしくみとストーリー を説明するのはやめたやめた~。
史生さん の本の中では比較的新しくてまだ手に入りそうだし。(セブンアンドワイでは、入荷次第メールでお知らせになってる)

 それじゃ作品の紹介にならないじゃん、と自分でも思うが、史生さん の宗教観が以前から気になっていたので、そこら辺を少し。
 というのも、この作品には古代日本人の神に対する宗教観と言ったものが表されているような。

 
 一応コミックス一冊がすべて続いている連作になっていますが、「鬼追うもの」 は平安時代の信仰世界が基盤になっているようです。。鬼を追い払う「追儺 ついな」の儀式である鏑矢を放ったり、桃の木で作った弓や杖を持ち、祈祷をしていたりするので、そうじゃないかな~と。
 これは実は別名を 「鬼やらい」 と言って、見事に次の3作に題名が繋がっているのです。3作の題名は 「神遣い」 ですが、神と鬼とは古代日本では同じものなんですよ。これは後で話しましょう。

 作者も表紙見返しに

 鬼を追いかけたら、平安時代に行き着いてしまった云々・・・

 と書いているが、いえそれどころか、史生さん の興味は 記紀 (古事記・日本書紀) まで行ってるでしょ !


 「神遣い」 3作はもっと前の大和朝廷以前の古代日本の信仰世界が基盤になっているように思えます。前者はこの世界の中でも特に文化的進歩的 (とされている) 首都の中でのお話、後者3作はいわゆる田舎の蛮地で起こる話、という区別もあるのかも知れません。

 全部はよく分からないんですが、地名・人名などの名前のひとつひとつが古事記や日本書紀から出されているようで、なにやらいわくありげです。朱楽 がおへそで飼っている 式神 のライコウのエサの土蜘蛛も記紀に出てきますよ。
 どれだけの資料を読んでこれらを描きあげたものか もともと歴史がお好きなんでしょうが、好きで読むだけと、頭の中で再構築してこんなストーリーを作るのとは大違い、ですからね~
  
 古来、日本人は 八百万の神 やおよろずのかみ  と言って、山や海の自然物、動植物全てにも神が宿ると考えて敬い祭ってきましたが、それはキリスト教のように 「我をお守りください」 という考えでなくて、 「我らに祟らないで下さい」 という考え方で、私はそういう意味じゃ西洋の神様と日本の土着の神様は全然違うもの、神様 というひとつの文字を使うのは意味が違うんじゃないかと思っているのです。

 そこら辺はもう大学の偉い先生方がいろいろ書いてらっしゃるでしょうから、私ごときが言うことじゃないでしょうが、とにかくここでは、昔々、日本では神も鬼も人間にとっては祭っておいてお祈りして、どうか祟らないでね、という対象だったということが分かれば、「神遣い」 の題名の意味が分かると思うのです。

 最後の方、一言主 (ヒトコトヌシ) と古主 (フルヌシ) が出てきましたね。ヒトコトヌシ というのは、古事記によると 一事主命 と書かれていて、太古より大和地方、葛城山に住んでいる神のこと。
 第21代の天皇である雄略天皇が葛城山で狩りをした折、自分そっくりのヒトコトヌシに出会って先に名を名乗れと言われ、神とわかって一緒に楽しく狩りをした、というくだりがあります。
 自分そっくりという逸話の通り、ヒトコトヌシはやまびこやこだまが神格化されたものであるといわれています。まだまだ神話の世界のお話ですね。
 
 一方、「続日本紀」 には雄略天皇が無礼な葛城の神を土佐へ流刑にしたと記されており、高知市には移されたヒトコトヌシ神を祭る土佐神社が今もあるそうです。このことは雄略が即位に際し、大和の有力な土豪であった 葛城氏 を滅ぼした史実を伝えているのでしょう。

 古事記・日本書紀その他古代や江戸時代のものまで、勝者の書いた歴史書の中にもちらちらと先住民のことが出ているし、真実が隠されているので深読みしている解説書を読むと、大変面白いのです。私の頭の中でもうごっちゃになっていて、出典がどれか分からなくなってますが。

 大和地方、三輪山の土地神であるオオモノヌシの娘 (実は先住民の土豪の娘) と神武天皇の結婚譚とかはまさに土地のものと姻戚関係を結ばなければ支配が容易に出来なかっただろう、とか分かるわけです。
 日本書紀には同じオオモノヌシとヤマトトトビモモソヒメのミコトとの結婚とちょっと恥ずかしい姫の死因の話 → 箸墓古墳の中の真ん中より少し下にあり が載ってますし。記紀って旧約聖書と同じで、物語としてもとても面白いんですよ。

 あーー、この箸墓古墳は近畿における卑弥呼の墓と呼ばれていて・・・ どんどん横にそれるので、いい加減にしておきます。マンガと関係ない長い話を読んでいただけてありがとうございました。 m(_ _)m

佐藤 史生 「この貧しき地上に」 

2007年11月20日 10時39分18秒 | マンガ家名 さ行
          新書館 ペーパームーンコミックス 1985年2月20日 初版

               つるさんにお借りしています。


 収録作品の初出は、

「この貧しき地上に」 1982年8月25日 グレープフルーツ 第5号 

「青猿記」 前編 1983年10月25日 グレープフルーツ 第12号  
      後編 1983年12月25日 グレープフルーツ 第13号

「一陽来復」 1984年12月25日 グレープフルーツ 第19号

「おまえのやさしい手で」 前編 1983年4月25日 グレープフルーツ 第9号
              後編 1983年6月25日 グレープフルーツ 第10号


 「この貧しき~」 「青猿記」 「一陽来復」 は3部作となっていて、主人公は家族の中で変わっていますが同じ話しの続きです。


「この貧しき地上に」

 まず、この作品名好きだわ~、どこから来ているのかしら。聖書にでも出てきそうなフレーズです。
 同名のBL小説を 篠田真由美さんという方が書いてますが、私は未読です。あらすじ見たら、兄嫁に恋した叔父が兄嫁死後、母にそっくりな甥を地下室に閉じ込めて・・・なんてひゃ~、あんまり好きくない。

 ゴホン、それはともかくこちらのストーリーの舞台は現代の日本とちょいと夢オチですが、古代ギリシャのクノッソス宮殿。本題のストーリーに、最上安良 (やすら) と幼馴染の 鹿能深生子 (かのうみおこ) の屈折したラブストーリーが寄り添ってます。

 安良には清良 (きよら) という7歳上の兄がいた。清良は子供の頃一度会っただけの庭師まで一人も彼を忘れない、というほど人をひきつけてやまない、しかも神童と呼ばれたほどの出来の良い兄だった。だったというのは、清良は7年前クレタ島で消息を絶っていたのだ。そこには完璧なはずの彼の秘密が隠されていた・・・。

 この一遍だけでも良質の短編となっていますが、実は3部作のほんの序章に過ぎません。
 

「青猿記」

 ここでは、上の 「この貧しき~」 に思い出シーンだけで実際には出てこなかった 清良 が主人公となっています。時は上の物語よりさらに2年後、彼が失踪してから9年も経っています。舞台は現代の日本にプラスなんとゲームの中の世界。
 
 これが発表されたのが1983年でしょ、任天堂が家庭用ゲーム機であるファミリーコンピューター (通称ファミコン) を7月15日に発売した年ですよ。1985年に発売された 「スーパーマリオブラザース」 はまだ前身の 「マリオブラザース」 でした。
 確かにここで描かれているゲームは単純で、今のゲームとは比べ物にならないかもだけれど、四半世紀前にバーチャル世界を舞台にまんがを描くなんて、コンピューター好きの佐藤氏と言っても、どんな頭をしているのか考えるだに、恐ろしい !

 青い猿 (ブルーモンキー) というのは、クノッソス宮殿の壁に描かれた猿の絵で、青い絵の具を使って描かれているらしい。青い猿は現実世界に、はたまたゲームの世界に象徴的に出てきます。

 記憶を失っていた清良は、日本人のコンピューターゲーム製作者に拾われ日本に帰って来ていた。自分の名前を思い出すために、彼のマイコンを使って仕掛けた危険な賭け (自己催眠プログラム) とは・・・。


 「一陽来復」

 3部作の最後は、2作目の続きから始まっています。前作とここに出てくるソフト開発者の 優 (すぐる) さんがいい味です。清良にBLではありますが、人嫌いとか言いながら常識人だし、清良が会うべくして出逢った人というか、彼がいなければ清良は絶対救われなかったというのが良く分かります。 

 冬至カボチャが出てくるのですが、題名の 「一陽来復」 はここから来ています。冬至は陰の極まる日、極まればそこに陽がきざす。冬至に橙色のかぼちゃを食べるのは陽の兆しというわけです。冬が極まれば後は春が来る、春遠からじというわけです。このエピソードは実は最後になって読者に納得されます。ハッピーエンドの兆しで終わるんです。


「おまえのやさしい手で」

 一転してミステリー、サスペンスタッチの作品。私にはへぇ~、佐藤さんってこういう作品も描いていた (描ける) 人だったのね~という感じです。でも漂う雰囲気はやっぱり 佐藤 史生さん だな~。車に細工する、というエピソードは萩尾 望都氏の 「残酷な神が支配する」 を思い出しました。

 この作品の絵は、内容に合わせてか特に暗い感じで、少し劇画タッチです。こういう ガロ風 な 史生さん の絵もいいなぁ。
 
 いつも思うけれど、佐藤氏の作品のセリフは無駄がない。どのくらいネームに時間をかけているのだろう。絵を描くのと同じ位、最初のストーリー作りから考えたら気が遠くなるくらい、かけているんだろうな~。
 本人も他の本のあとがきに 描くのが遅いんじゃなくて、 描くものが固まるまでが遅いんだ というような事を言っていたっけ。

 佐藤氏のSFでないもの (現代物といっても3~4作しか見てないけど) の中では 「死せる王女のための孔雀舞」 も良かったけど、この本が一番好き。


過去の 佐藤 史生作品 の記事  ↓

「やどり木」 「魔術師さがし」

「夢見る惑星」 の番外編3編

「死せる王女のための孔雀舞」

「羅陵王」

ふたつの「バビロンまで何マイル」

「打天楽」 (ワン・ゼロ番外編)

「ワン・ゼロ」

「夢見る惑星」

「金星樹」