murota 雑記ブログ

私的なメモ記録のため、一般には非公開のブログ。
通常メモと歴史メモ以外にはパスワードが必要。

世界の食糧危機を見直す視点。

2018年04月07日 | 通常メモ
 夏井睦氏がその著「炭水化物が人類を滅ぼす」の中で書いている。牛肉も豚肉も鶏肉も、飼料はトウモロコシであり、どの家畜も穀物をエサに飼育されている。まさに人類の食を支えているのは穀物と言ってもよい。もちろん、穀物(コメ、ムギ、トウモロコシ)とは違う大豆食品、魚介類、野菜、果物も当然のごとく必要ではある。日本に必要な穀物はどこで作っているかといえば、コメだけが日本国産で、コムギもトウモロコシのほとんど全てを海外から輸入している。2011年の記録では、米国から320億トン、カナダから130億トン、オーストラリアから100億トン。つまり、アメリカやオーストラリアでとれたコムギで作ったパン、うどん、お菓子を食べ、アメリカでとれたトウモロコシをエサに飼育された牛、豚、鶏を食用にしている。米国の穀物生産の中心地は米国の中西部であり、オーストラリアは南東部が中心。これらの地域は世界の穀倉地帯と呼ばれるが、この穀倉地帯の先行きが不透明ともいわれる。理由は、窒素肥料による「緑の革命」の弊害、塩害、地下水の枯渇、といわれている。

 現生人類の人口推移をみると、1万年前に500万から1000万人、紀元前2000年で2700万人、紀元1年で1億人、西暦1500年で5億人、1800年で9億5000万人、1900年で16億人、1930年で30億人、1970年で40億人、そして2011年に70億人を突破した。この人口増加を支えてきたのが高い生産性を誇る穀物の栽培だった。1950年代までの穀物増産は耕地面積の拡大によるもの。現在の穀物栽培の原型は、1万数千年前のメソポタミアの「肥沃な三日月地帯」で始まったとされるが、その時から1950年頃までは、農機具が鉄器に変わり、牛馬がトラクターに変わったくらいで、農業の基本的なやり方は1万年前とほとんど変化していない。

 しかし、1960年代に始まる「緑の革命」が穀物生産と食糧生産に大革命をもたらした。1960年頃から世界の耕地面積は増えていないのに、単位面積当たりの収穫量つまり反収(たんしゅう)は急激に増大し、世界人口の急激な増加にも対応してきた。緑の革命とは化学肥料や農薬の大量使用、機械化と大規模化、品質改良、灌漑技術の進歩等がもたらしたものであり、その中核をなすのが、窒素肥料の開発と灌漑技術の進歩だ。窒素は生命の維持に欠かせない元素で大気中に豊富、つまり地球の大気の78%が窒素、21%が酸素。窒素は反応性に極めて乏しく、わずかにマメ科の植物が共生根粒菌の作用で大気中の窒素を固定して利用できる。1960年以前の農業で反収が増えなかったのは、土壌中の窒素濃度が少なかったからだ。20世紀初頭にアンモニア合成法が発見され、そこから窒素肥料が合成され、必要な窒素を空気から作ることができるようになった。これによって、連作障害すなわち、同じ作物を何年も続けて栽培すると土壌の窒素がなくなるという障害を解決してきた。耕地面積は同じでも、以前より何倍もの穀物が収穫できるようになり、それが、60億、70億と増大する世界の人口を支えてきた。しかし、緑の革命から40年ほどで異変が起き始めた。過剰に投与した窒素肥料が湖沼や海に流れ出し、富栄養化を起こした。世界各地の海岸を赤潮が襲うようになり、沿岸漁業に深刻な打撃を与えている。また、全ての穀物と大豆の反収が2005年頃から頭打ちとなり、国によっては減少し始めている。肥料中の窒素は地下に浸透し、地中微生物の作用で硝酸へと化学変化を起こし、地下水汚染をもたらしている。こうして緑の革命は限界に達してしまった。

 紀元前6千年頃に始まった灌漑農法も乾燥した不毛の大地を緑の耕作地に変えたが、やがては塩害をもたらすことになる。つまり、同じ耕地に水を撒くことで、水が地中に浸透し、地中奥深くに眠っていた塩と出会い塩水となる。塩水は浸透圧の差で、ゆっくりと上昇し地表に顔を出し、水分が乾燥して塩が残る、これが塩害となる。耕地を増やそうと、乾燥した地域に大量の水を撒けば撒くほど塩が上がってくる。そして作物は栽培不能になる。こんな塩害が世界各地で起きてきた。また、地下水の枯渇も深刻だ。世界の穀倉地帯であるアメリカ中西部は、1930年代まで乾燥した荒地だったが、この地下に豊富な地下水を含むオガラ帯水層が発見されて事態は一変する。地下水のおかげで、太陽の照り付ける乾燥地も、作物の光合成にとっては最適なものとなった。不毛の大地も短期間で大穀倉地帯に変貌した。現在でも、オガラ帯水層はアメリカ全土の灌漑に使用される地下水の三分の一をまかない、帯水層の上にある大都市の人々の生活や工業を支えている。ところが、無限に思えたオガラ帯水層も有限な資源と分かってきた。取水できる水位が毎年低下している。あと25年で枯渇するといわれる。これと同様に世界の各地で地下水を汲み上げて灌漑農業を行っている全ての地域で、地下水位の低下が起きてきた。
 
 1960年代、地球の人口は12億人余りだったが、その頃に地球規模で緑の革命が始まり、そのおかげで、60年間で70億人まで人口は増加した。しかし、現在の大穀倉地帯の農業は環境破壊型の農業であり、どこかで限界に達し、破綻するシステムであることが分かってきた。つまり、オガラ帯水層は数百万年かけて形成されたが、それを人類は数十年間で飲み干そうとしているのだ。あと30年足らずで世界人口は90億人を超える。西暦2000年の時点で世界では、5億人が水不足で苦しむようになったが、現在は7億人を超える人が水不足で生命の危機に瀕している。地表の水は必然的に海や地下に移動し、地球の水の大半は塩を溶かして塩水になる。もちろん、海水が蒸発して陸地に雨となって降り、淡水になるが、海面からの蒸発量は太陽の熱エネルギーで一元的に決まってしまい、人間の力では制御できていない。この淡水不足問題は、画期的な海水淡水化技術が開発されない限り解決不能だ。

 今後、穀物の生産量は減少していく可能性が高い。耕地面積を増やす余地は地表には残っていない。反収も減少し始めている。もちろん、地表温暖化の進行とともに、穀物栽培が可能な地域も両極地方に移動してゆき、北半球ではシベリア地方が可能になる可能性もある。だが、アメリカ中西部と同程度の穀物生産ができるのか。高緯度地域と中緯度地域では日照時間に大きな差があり、植物というのは日照時間に融通の利かない生物で困難なのだ。世界の人口は2050年には96億人に達すると予測されるが、それに穀物不足が加わると、食糧生産、消費システムが破綻してしまう。

 現在の肉牛、乳牛といった家畜牛の祖先と考えられている野生種はオーロックスだ。これは、200万年ほど前にインド周辺に出現したのが原種と考えられ、更新世末期(1万1千年前)には、ヨーロッパ、アジア、北アフリカに広く分布するようになった。ラスコー洞窟の壁画(1万5千年前)に描かれている牛はオーロックスであり、これを家畜として飼育するようになるのは紀元前6千年頃といわれる。また、トウモロコシについては、野生種に最も近いと考えられるのはテオシントというイネ科の植物で、メキシコからグアテマラにかけて自生している。テオシントの栽培が始まるのは紀元前5千年頃であり、トウモロコシをヨーロッパに伝えたのは、15世紀末のコロンブスである。それ以前の牛はトウモロコシを食べたことはなかった。つまり、牛とトウモロコシは大西洋を挟んで別々の大陸の産物だった。牛の本来の食べ物は草であり、セルロースだ。そのため、牛は4つの胃袋に異なる多くの微生物や細菌を共生させて生きている。動物が分解できないセルロースという高分子化合物を、分解能力を持つ細菌を消化器官内に住まわせることで、栄養素に利用できるのが草食動物なのだ。

 トウモロコシの成分を調べると、炭水化物が100グラム中16.8グラムと多く、タンパク質は3.6グラム、脂質は1.7グラム、食物繊維は3グラムで、ほぼ炭水化物の塊である。つまり、牛本来の食べ物であるセルロース主体の植物とは似ても似つかないものだ。オーロックスが地上に出現してから200万年間、セルロース主体の食糧を食べてきた牛が、炭水化物主体のトウモロコシを飼料として与えられるようになったのはここ40年ほどの出来事だ。トウモロコシを飼料として牛を育てた結果、美味な霜降り牛肉と、安価な牛乳を得られるようになったのも事実だ。野生動物にはあり得ない脂肪だらけの筋肉を持つ松坂牛の姿は、糖質だらけの食事で肥満になった人間の姿ともダブってしまう。

 牛は接種カロリーほとんどゼロの反芻(はんすう)動物だ。植物食に最高度に適応した哺乳類で、葉や茎のみを食べて生命を維持できる。植物細胞の成分をみると、70%が水分だ。一般に植物体乾燥重量の3分の一から二分の一を、セルロース(多数のブドウ糖分子が結合した高分子)が占める。つまり、牛の食事の成分の大半がセルロースだ。牛自身はセルロースを消化も吸収もしない。それなのに牧草のみを食べて成長し、500kgを超す巨体になり、毎日大量の牛乳を分泌する。この謎を解く鍵が共生微生物だ。ウシ消化管内の微生物がセルロースを分解して栄養を取り出し、宿主のウシは一部を受け取って成長する。ウシの食べる牧草は共生微生物のためなのだ。

 牛は4つの胃を持つ。ミノ(第1の胃)、ハチノス(第2の胃)、センマイ(第3の胃)、ギアラ(第4の胃)である。セルロースの分解は最初の3つの胃であり、それぞれ多種類の膨大な微生物が住み着いている。3つの胃では胃酸は分泌されない。胃酸が分泌されるのは第4の胃だ。第1の胃ではセルロース分解微生物の作用で一部が分解され、流動状態になったものが第2の胃に送られ、固形成分は再び口腔内に戻して咀嚼する、これが反芻(はんすう)。そして第2、第3の胃に送られ、更にセルロースは微生物に分解されブドウ糖になる。微生物はブドウ糖を嫌気発酵し、各種の脂肪酸やアミノ酸を分泌する。これらと微生物の混合物が第4の胃に送られる。第4の胃で、共生微生物の体(豊富なタンパク質や脂質を含む)が胃酸で分解され、アミノ酸や脂肪酸と一緒に吸収される。この栄養分で牛は巨体となり、大量の牛乳を分泌できるのだ。さらに牛は、他の動物が老廃物として捨てる尿素までも共生細菌を利用して再利用する。唾液腺や3つの胃から尿素を分泌し、それを窒素源としてタンパク質を合成する。

 反芻動物は体が大きいほうが有利だ。得られるエネルギーは体内の発酵槽のサイズ(第1から第3の胃)で決まる。体長が2倍になれば胃袋の容積は2の3乗で8倍になる。このような複数の胃袋を持つ動物には、ヤギ、ヒツジ、カバなどがいる。草食動物としての馬には無駄が多い。胃袋が一つしかないが、大きな結腸を持っていて、ここに膨大な数の腸内細菌を共生させている。ウマの場合はウシと違って、ウマ自身が胃で消化吸収し、その残りを結腸の共生細菌が利用する。決定的な違いは、ウシは共生細菌からタンパク質を得ているが、ウマは細菌のタンパク質を得られないことだ。ウマには共生細菌の菌体を消化する部分がないために、それを糞として排出するしかないのだ。ウマは草だけでは生きられず、穀物やイモ類、マメ科植物を食べる必要があり、それらを自前の消化酵素で消化吸収するしかない。ウサギもウマと似た消化管構造を持つ。ウマは結腸が最大だったが、ウサギは盲腸が発達している。コアラもウサギと同様に巨大な盲腸をもっていて、ユーカリの葉を発酵させている。自然界は実に面白い。人類も、かつては狩猟をし肉や魚を食べ、常に移動して生活していた。人間の消化管の構造は肉食動物と類似している。それが、肥沃な土地と河の水に恵まれた地域で米などの栽培に成功してより、人類の定住生活も始まり、穀物を常に食べられるようになった。

 さて、人間にすみかを追われて高緯度地域にいったパンダは肉食を続けることができなくなり、絶食が続いたが、タケやササを口にするようになった。その地域に草食動物がいる限り、セルロース分解菌は必ずある。草食動物の排泄物と一緒に外へ出た細菌もタケの表面に付着している。人間でも、青汁だけを飲んで生きている人がいる。人間の結腸内の腸内細菌にはセルロース分解能を持つものもある。治療のために絶食療法をしている人が青汁を飲んだ時、腸管内のセルロース分解菌にとっては青汁中の粉末状セルロースは最適の栄養源になる。はじめに絶食していたことが幸いして、青汁のみの生活を可能にしたともいえる。いきなり青汁単独摂取を始めても、セルロース分解菌が他の腸内細菌を圧倒して優勢になるには時間がかかる。事前に絶食状態にしておいたのが良かったのかもしれない。人間の体内にも腸内細菌が共生しているという事実には自然の妙を感じてしまう。

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
世界の穀物生産量は減少 (H.D)
2018-04-07 14:57:37
今後、穀物の生産量は減少していく。耕地面積を増やす余地は地表には残っていない。反収も減少し始めている。地表温暖化の進行とともに、穀物栽培が可能な地域も両極地方に移動してゆき、北半球ではシベリア地方が可能になる可能性もあるが、アメリカ中西部と同程度の穀物生産ができるか疑問。高緯度地域と中緯度地域では日照時間に大きな差があり、植物というのは日照時間に融通の利かない生物で困難。世界の人口は2050年には96億人に達すると予測されるが、それに穀物不足が加わると、食糧生産、消費システムが破綻してしまう。そんな危機があるとはね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。