murota 雑記ブログ

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アインシュタインの著作 「わが相対性理論」

2022年05月30日 | 通常メモ
 これは37歳の時のアインシュタイン自身による相対性理論の解説書。最終部分には「物理的対象は空間の内にあるのではなく、これらの対象は空間的に拡がっている。こうして“空虚な空間”という概念はその意味を失う」と書かれている。アインシュタインの出発点は、高校生のときに「光と同じ速度で走ってみたとしたら、光はどんなふうに見えるのか」と考えたことにある。光は電磁波の一種であって、光が進むというのは電場と磁場の振動が空間を伝わっていく現象。その電磁波が横波だということは当時から知られていた。電磁波が横波だということは、電場と磁場の振動の方向は光の進む方向と直交している。光の進む方向に同じ速度で走ると、電場と磁場はそれとは垂直なので電場と磁場の振動は止まっては見えないはず、また、光速の列車から光を見てもやはり光は走って見えるはず、そこで高校生アインシュタインは考える。時速200キロの列車から時速200キロの列車を見たら、止まっているように見えるはず。なぜ光速度で走ったまま観察しても相手の光は止まって見えないのか。「光の正体」とは何か、光と空間の関係が相対性理論の基礎となる。

 ガリレオにも相対性原理というのがあった。時速200キロで走る新幹線を時速100キロで走る車から見れば、新幹線は時速100キロに見える。これがガリレオの相対性原理で、速度の合成則を成立、これは単純な相対比だ。しかし、アインシュタインが定義したように、光は秒速30万キロと光速度一定である。この光を光速で追いかける観測者が見ても、光の速度はやはり30万キロで、単純な相対比にはならない。これは新たな速度の合成則になる。このアインシュタインの合成則が簡単に確認できる例として、加速器で二つの荷電粒子を衝突させると、光速に近い中性パイ中間子という素粒子をつくれるが、この中性パイ中間子はすぐに二つの光に壊れる。中性パイ中間子はほぼ光速で運動しているから、ここから放たれた光は速度が上乗せされて秒速60万キロになるはずだが、その光は秒速30万キロで変わらない。ガリレオの相対性原理はニュートン力学が前提だが、これにあてはまらない現象があるということは、ニュートン力学でない力学の物理世界があるということになる。

 アインシュタインの力学世界は新たな運動方程式の登場となり、特殊相対性理論の世界となる。ニュートン力学による運動の法則が、光の運動については成り立たないとすれば、宇宙空間にはそうした「世界」がいくらでもあることになる。アインシュタインは空間の捉え方を変えなければ、これ以上の説明はつかないと考えた。空間にはそれぞれの「世界」の性質が付着していると考える。それらの空間では光がまっすぐ進まない。平行線は交わるか、永遠に別れ別れになっていく。しかし空間がそんなものだとしたら、時間も変わってくる。時間の捉え方も変えるべきではないかと考える。エレベーターの箱の上下に鏡を取り付けて、その鏡を往復する光の運動単位を1とする。このエレベーターの箱を水平方向に移動して、この光の運動を箱の中と箱の外から観測すると、箱の中にいる観測者には光は鏡を上下するだけだが、外の観測者には光は斜め上に進んで鏡に当たり、ついで斜め下に進んで床の鏡に向かうように見える。つまり外の観測者には光は箱の中よりも長い距離を動くように見える。光の速度は一定だから、これは外の観測者にとって「時間が長くなって見える」ことになる。 光速に近い速度で走っている時計を、止まっている観測者から見ると、時間がゆっくり進むということになる。有名なアインシュタインのウラシマ効果物語、いわゆる「遅れる時計」と「縮む時計」の話だ。

 時間の伸び縮みより空間の歪み(曲率)というのもある。それは物質の質量が周囲の空間の性質を変えて重力場をつくる。等速直線運動を基準系とした特殊相対性理論を加速度系に拡張したものが一般相対性理論だ。「一般」という名前がわかりにくい。これは時空間と物質と重力の関係の理論だ。この理論の核心は、物質の質量が周囲の空間の性質を変えて重力場をつくることにある。重力理論はもともとニュートンが確立していた。ニュートン力学では重力(引力)は波として伝わるのではなく、無限の速さで伝わるとされた。したがって重力を信号に使えばどんな信号でも無限の速さで伝わり、どんな遠方であっても“時刻合わせ”ができることになる。そのためには宇宙のどこでも時間が一定でなければならない。しかし特殊相対性理論はこのニュートンの絶対時間を用いない。その重力と時間はどのように関係するか。重力と時空はどう関係するか。アインシュタイン自身が10年をかけて、この考え方に新たな解決を与えたのが一般相対性理論だ。

 「加速度と重力は似たようなもの」という驚くべき発見の例。エレベーターの中にいてリンゴを持っている。突然にエレベーターのワイヤーが切れ、びっくりしてリンゴを放したと仮定する。これでエレベーターもリンゴも同じ加速度運動をする系が想定できる。エレベーターの中ではリンゴはどう見えるか。エレベーターとともに自由落下するリンゴは止まって宙に浮いているように見える。エレベーター落下という事実を知らなければ、自分やリンゴに働く重力が突如として消えたと感じる。この実験は加速度運動によって重力を消してしまうことが可能だということを示す。これを利用したのが、宇宙飛行士の疑似体験で、高速で上昇したジェット機のエンジンを切って自由落下すると無重力が少しだけ生まれるという実験だ。ひょっとすると重力は「見かけ」の力かもしれない。そうなら、重力の運動方程式を、重力がはたらいていない時空での加速度運動として記述できる。そこで今度は自由落下するエレベーターで、2つのリンゴを両手で同時に手放す。2つのリンゴは宙に浮いたままだが、実は厳密に観測してみると2つのリンゴは少しずつではあるが、近づいている。リンゴが地球の中心(重力中心)に向かって落下しているので、この方向のわずかなズレがあらわれる。正確にいうと、これは地球の重力の強さが一様でないためにおこる現象。この「重力の強さと方向のズレ」にアインシュタインは着目し、一般相対性理論という重力理論をつくりあげた。そして「重力の強さと方向のズレ」は実は「時空間の歪み」であり、その時空にどのように物質が詰まっているかの現れだとする。

 空間の中に物質があるのではない。物質の詰まりぐあいが空間なのだ。その空間は空間として単独にはない。空間は時間に連続して重力の性質をつくっている。重力の分布こそが空間であって時間だ。光はこれらの時空の性質に沿って動き、そして時空の特異点のなかで幽閉される。アインシュタインが提示した世界観は破天荒なものだった。ここから一般相対性理論は重力場の理論を明らかにし、重力波を予告し、中性子星の宿命やブラックホールの特異な性質を予測した。アインシュタインの著書とそれを解釈しようとした研究書や解説書を読んでみると、いかにアインシュタインが提示した世界観によって従来の自然像や物質観が揺らいでいったかが見えてくる。相対性理論はその後の科学者の踏み絵にされ、この理論をめぐる解説書が世界中で多く出版されてきたが、その7、8割はむしろ読まないほうが良いかもしれない。そのためにアインシュタインは長い間、誤解されつづけてきたともいえる。

 本書の第3部「全体としての世界の考察」で、アインシュタインは控えめだが、まことに示唆に富む言葉を残している。「われわれは宇宙は世界について“箱”と“空虚”という考え方をもちすぎたのではないか」。相対性理論をちょっとでも理解したいのなら、世界を眺めるにあたって、まず“箱”というイメージをなくしてしまうこと。それには、自分のアタマの中で去らないどのような形の“箱”であれ、それを構成している“仕切り”や“厚み”をまず消してしまうことだ。その次に、その“仕切りのない箱”は、実は別の理由でそこに“置かれている”ように感じただけ、あるいはそこに“投影されている”ように感じただけと思うことだ。だが、そんな説明で相対論的宇宙論の入口に入ってもらおうとしても、“仕切りのない世界”や“厚みのない世界”、これが世の人々には難しいようだ。

(参考メモ) 物体が光速になれない理由

 重力で光が曲がる、理論的には曲がるようでも実際はどうか。アインシュタインが一般相対性理論を発表したのは、1915年。その直後の1919年にちょうど日食があった。太陽はかなりの質量があるので、その周りでは、わずかに空間がゆがんでいる。一般相対性理論が正しければ、太陽の向こう側の星から来る光は、太陽の重力によってゆがめられ、実際の星の位置とは違う位置に星が見えるはずである。普段は太陽が明るくて観測できないが、日食の時なら観測は可能だ。実際に観測した結果、星の位置がわずかにずれている事が実測された。本当にあるべき星の位置よりも少し離れた場所に、その星が観測できた。一般相対性理論の計算通りに光がゆがめられた。このニュースで世界中が大騒ぎになった。

 また、観測対象の天体Aと、地球との間にブラックホールがあると、天体Aから発せられた光がブラックホールによりゆがめられ、ゆがんだ映像が地球に届く事がある。光の進み方では、1つしかない天体Aが、2つ観測される事もある。本来、真っ直ぐ進めば地球にやってくる事は無かった光が、途中のブラックホールによって軌道を変えられた。そのため地球から見れば左右反対方向に飛んでいったはずの光が、レンズで曲げられたかのように途中で突然地球を目指し、地球で2つの天体Aが観測できるようになった。すなわち、観測や実験により、重力で光が曲がると言う事が証明された。
光の速さはおよそ秒速30万km。 E=mc2、有名な公式。 Eとはエネルギー(単位;J〔ジュール〕)、mは質量(単位;kg)、c は光速=30万km/秒。「ある物体が持つエネルギーは、その物体の質量と、光速の二乗(=30万×30万=90億)をかけたものになる」。この「エネルギー」とは、実に様々な物を含む。その内の1つに、「運動エネルギー」がある。 「運動エネルギー」とは、「運動している物体(=移動している物体)が持つエネルギー」。運動エネルギーとは基本的にその動きが速ければ速いほど大きくなる。物体を加速させればさせるほど大きな運動エネルギーを持つ。

 E=mc2 この公式の持つ意味は、「物体のエネルギーと質量は互いに関係している」ということだ。物体が重くなれば重くなるほどエネルギーが増し、エネルギーが増せば増すほど物体が重くなっていく。ある物体Xを加速し光速を超えさせようとする。初めは順調に加速を始めた物体X、次第に変化が現れてくる。加速させるためには後ろから押すなど何らかの力=エネルギーが必要になる。段々、加速させるために必要なエネルギーが増えてくる。速さが増すと言う事は、エネルギーが増すことであり、同時に質量が増すことだ。質量が増すと、その分、加速させるために必要なエネルギーは増える。段々と物体が速くなり、その速度が光速に限りなく近付くと加速に必要なエネルギーは莫大なものになる。理論上その物体を光速にするためには無限大の力が必要になる。「無限大の力」など存在しないので光速を超える事は絶対に不可能となる。ただ、「もし超えられたら…」と言う理想(?)から、「タキオン」と言う架空の物質が生み出された。「もしも物体が光速を超えるとどうなるのか?」その「光速を超えた物体」として、「タキオン」を生み出した。その計算の結果、「タキオン」は、光速より速く動ける代わりに光速より遅くなる事は出来ないと言う結果になった。また、「タキオン」は過去に突き進む物体になる。タキオンを光速より遅くするためには無限の力が必要になる。物体の運動を止めるためにもエネルギーが必要になる。タキオンの場合、光速ギリギリまで遅くする事は可能だが、光速にするためには無限大の力が必要になる。また、過去に突き進む理由、これは、「タキオンが光より速い」と言う事を考えれば、わかる。

 物体が光速になれない理由は「無限大の力が必要だから」と説明されてきた。公式E=mc2を思い出してみる。なぜ、光は光速になれるのか。「物体の速度が増すと、エネルギーが増す」。実はこの説明は正確ではない。「質量(重さ)のある物体の速度が増すと、エネルギーが増す」 だ。物体の持つエネルギー量は、その物体の「質量」と、「光速の二乗」をかけあわせたもの。もし「質量ゼロ」の物体があったら、ゼロは、何をかけてもゼロ。それが莫大な数字でも同じ事。つまり、質量ゼロの物体は、エネルギーもゼロ。エネルギーがゼロと言う事は加速させるために必要なエネルギーもゼロ。全ての物体が光速を超えられない理由は「無限大の力が必要だから」だ。光が光速になれる理由、それは「光には質量が無いから」だ。ここでいう「質量」とは「静止質量」を指す。静止質量とは止まっている状態での質量。動き始めたら、質量があるかもしれない。質量ゼロのはずの光にも、「エネルギー」は存在する(「光エネルギー」と呼ばれる)。

 電子レンジで物が温まるのも、太陽の光が暖かいのも、リモコンでテレビが操作できるのも、全ては光エネルギーのおかげ。この矛盾を解決するために「静止質量」という言葉を使う。つまり「少なくとも止まった状態では質量は無い。しかしエネルギーがあるのだから、動き始めたら質量を持つかもしれない」というようなものだ。また、「光には質量が無い」といってきたが、正確には、まだあるかないかはわかっていない。「光が光速になれる以上、光に質量がないと考えなければ、理論的におかしい」という事なのだ。

 「時間」と言うのは、全ての物体(もちろん人も)がそれぞれ個別に持っているもので、世界共通の時間なんて存在しない。世界共通の時間、というのは「絶対的な時間」、いつどこで何があろうが絶対に変わらない時間。それが「世界共通の時間」といえる。しかし、実際この世界にあるのは、全ての物体がそれぞれ個別に持っている時間。共通の時間が「絶対的な時間」なら、個別の時間は「相対的な時間」。個別の時間は、それを計る相手によって大きく異なる。ブラックホールの近くにいても、自分自身は普段通りの速度で動く事が出来る。しかし、外の人から見れば、ブラックホールの近くの人は、ものすごくゆっくりとした動作をしている。逆に、ブラックホールの近くの人から、外の人を見れば、ものすごく速い動作を見ることになる。「時間は相対的である。人は皆個人の時間を持っている」 それを証明したのが「相対性理論」だ。相対性理論とは一言で言うと、「時間とは一定ではなく、変化する」 という理論なのだ。


( 別件メモ )  質量の起源、ヒッグス粒子のこと
 
 質量の起源とされる素粒子「ヒッグス粒子」。素粒子物理学の基本である「標準理論」では、最後に残っていた粒子を確認できてこそ同理論が完成する。スイスのジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)、会場には1960年代半ばにヒッグス粒子の理論を発展させた4人の物理学者も招かれた。粒子の名前にもあるピーター・ヒッグス博士と、同時期に同じような理論を発表したフランソワ・アングレール博士、少し遅れたカール・ヘーゲン博士とジェラルド・グラルニク博士。新粒子の存在がはっきりした。

 一周27キロメートルもある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で光速近くまで加速した陽子同士をぶつける実験、東京大学や高エネルギー加速器研究機構など日本の16の大学・研究機関が参加する「アトラス」と、欧米の「CMS」という2つの国際チームがともに、99.9999%以上確かという結果を示した。ヒッグス粒子と考えて矛盾はない。研究者たちはヒッグスの先を見据えている。解明が期待されるのは「超対称性理論」「ダークマター(暗黒物質)」「ダークエネルギー」「大統一理論」「余剰次元」等の謎。姿を現す可能性が高いのは超対称性理論。それは標準理論を超えて外側から取り囲むさらに大きな理論だ。

 質量の起源であるヒッグス粒子自身にも質量はあり、発見された新粒子の質量はエネルギーで表すと、1250億電子ボルト。標準理論だけで考えるとヒッグス粒子は非常に重いはず。説明には標準理論が当てはまる範囲が限られ、その先の別の理論を考える必要がある。その先の理論の有力候補が超対称性理論。超対称性理論というのは、これまで知られている様々な素粒子にはそれぞれ、パートナーのような未知の素粒子があるという理論で、未知の素粒子は超対称性粒子と呼ばれる。まだ見つかっていないのに名前だけは付いており、電子のパートナーはスカラー電子、光子(フォトン)ならフォティーノ、ヒッグス粒子の場合はヒグシーノといわれるものだ。

 超対称性粒子は元の素粒子に対して性質が少し違う。素粒子はそれぞれ質量、電荷などいろいろな性質を持っているが、超対称性粒子に関係するのはスピンと呼ばれる性質で、粒子の自転の勢いのようなもの。標準理論では例えば光子はスピンが1、電子はスピンが2分の1。超対称性粒子はスピンが2分の1ずれ、フォティーノは2分の1(1マイナス2分の1)、スカラー電子は0(2分の1マイナス2分の1)といったように少しずれている。LHCの実験は、こうした超対称性粒子を発見するのも大きな目標。現状の陽子が衝突したときのエネルギーは8兆電子ボルトだが、2014年秋ごろには13兆~14兆電子ボルトに高める計画で、超対称性粒子のどれかが見つかる可能性がある。

 超対称性粒子が見つかると、自然界に存在する基本的な力をまとめて理解する「大統一理論」につながる。自然界には、「電磁気力」、素粒子のクォーク同士を結びつける「強い力」、中性子が陽子に変身して電子などを放出する時に働く「弱い力」、そして「重力」という4つの力がある。大統一理論は重力を除く3つをひとまとめにする理論だ。もともと宇宙にある力は1種類で、それが4つの別々の姿に分かれて見えているという考え方だ。ワインバーグ、グラショウ、サラムの各博士らが電磁気力と弱い力をまとめて説明する統一理論に成功し、ノーベル賞を受賞。次の標的となっているのが強い力もまとめた大統一理論。超対称性理論にその期待がかかっている。超対称性粒子は宇宙にある謎の「ダークマター(暗黒物質)」の正体かもしれない。宇宙を観測した結果から計算すると、我々が知っている物質やエネルギーを全部足し合わせても、宇宙全体のたった約4%にしかならない。残りは何なのか分かっていない。20数%がダークマター、70数%がもう1つ別の謎の「ダークエネルギー」と考えられている。もし超対称性粒子が存在すれば、ダークマターを説明できる。

 ヒッグス粒子は、素粒子に質量を与える理由を説明するヒッグス場理論から生まれた。ヒッグス場は、1964年にエディンバラ大学のピーター・ウェア・ヒッグスが提唱した。ヒッグス場によって質量が生まれるメカニズムはヒッグス機構といわれている。

*(自発的対称性の破れについて) 通常の電子はマイナスであるが、今はプラスの電子も発見され「陽電子」といわれる。これは、がんの診断に使われているPETという装置にも応用されている。宇宙にはなぜか電子はマイナスがほとんどであり、プラスの電子は圧倒的に少ない。宇宙生成の時はプラスの電子とマイナスの電子の総数が本来は同じはずなのに、プラスの電子の多くが消え去り、宇宙が進化してきた。プラスとマイナスの電子が同じ数のままならばプラスの電子とマイナスの電子がぶつかって光となり今の宇宙が存在しないことになる。プラスの電子の多くは消えていった。ノーベル賞受賞の南部陽一郎氏はプラスの電子が消えていった理由を対称性(プラスの電子とマイナスの電子の総数は本来同じ)の自発的破れと説明した。

 宇宙の初期の状態においてはすべての素粒子は自由に動きまわることができ、質量がなかった。それが、自発的対称性の破れが生じ、真空に相転移が起こり、真空にヒッグス場の真空期待値が生じて、ほとんどの素粒子がそれに当たって抵抗を受けることになる。これが素粒子の動きにくさとなり、それが質量となった。質量の大きさとは宇宙全体に広がったヒッグス場と物質との相互作用の強さだ。ヒッグス場というプールの中に物質が沈んでいるからこそ質量が生まれたといえよう。ただし、光(光子)の場合は、ヒッグス場からの抵抗を受けず、相転移後の宇宙でも自由に動きまわれたので質量がゼロなのだ。

 この世のすべての物質はすべて原子の組み合わせからできている。原子の中に陽子と電子という粒子があり、さらに陽子の中にクオークという素粒子がある。クオークは何種類あるかを解き明かしたのがノーベル賞受賞の小林誠と益川敏英の両氏だ。1970年代は実験からクオークは3種類と信じられていたが、宇宙にはマイナスの電子があっても、プラスの電子がきわめて少ない(非対称性)。計算を進めてゆくとクオークは6種類でないと論理的につじつまが合わないことがわかり、その後、素粒子実験で予言どおり、残りの3種類のクオークが発見され、小林、益川の両氏の予言が実証された。


 ノーベル物理学賞の対象となったのは、質量の起源を解明し、宇宙の成り立ちを根本から説明する研究だった。ヒッグス博士らの理論は、国際チームの実験で裏づけられ、スピード受賞となった。この研究の出発点となったのは、同賞を2008年に受賞した南部陽一郎博士(92)の理論だった。「ビッグバン」と呼ばれる宇宙誕生の瞬間、あらゆる素粒子は質量がなく、光の速度で飛び回っていた。その直後に宇宙は急膨張して冷え、ヒッグス博士らは、素粒子を動きにくくさせる海のような「場」が生まれたと考えた。飛び回っていた素粒子は、この影響でブレーキがかかって動きづらくなった。この動きにくさが質量の正体で、ブレーキのかかり具合によって、質量の大きさが決まった。ヒッグス博士とアングレール博士がそれぞれ独自に理論を提唱してから半世紀近い間に、現代物理学の「標準理論」で予言された17種類の素粒子のうち、クォークやレプトンと呼ばれる素粒子が次々と見つかったが、この「場」を作るヒッグス粒子だけは見つからず、「神の粒子」とも呼ばれていた。スイス・ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で陽子同士の衝突実験を繰り返し、11~12年の膨大なデータを分析した結果、ヒッグス粒子の存在が確実になり、ヒッグス博士らの理論が正しいことが証明された。


1 コメント

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興味深い本ですね。 (H.T)
2015-07-26 09:43:34
宇宙空間に人間が飛び出してゆく時代でもあり、興味深い話です。 空間の中に物質があるのではない。物質の詰まりぐあいが空間なのだ。その空間は空間として単独にはない。空間は時間に連続して重力の性質をつくっている。重力の分布こそが空間であって時間だ。光はこれらの時空の性質に沿って動き、そして時空の特異点のなかで幽閉される。アインシュタインが提示した世界観は破天荒なものだった。ここから一般相対性理論は重力場の理論を明らかにし、重力波を予告し、中性子星の宿命やブラックホールの特異な性質を予測。アインシュタインの著書とそれを解釈しようとした研究書や解説書、いかにアインシュタインが提示した世界観によって従来の自然像や物質観が揺らいでいったかが見えてくるというのは面白い。
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