
2005年山形国際ドキュメンタリー映画祭で、コミュニティシネマ賞、審査員特別賞を受賞した作品。この映画はタンザニア第二の都市ムワンザを舞台としており、その町に関係する人々へのインタビューで構成されている。最近NHK BS1でも放送された。
タンザニアのヴィクトリア湖に外来魚ナイルパーチが 放流されたのは、半世紀ほど前と思われている。この肉食の巨大魚は湖で増殖し続け、魚に目をつけた企業家は湖畔に工場を作る。ナイルパーチを加工し海外に 輸出する一大魚産業が成立する一方、同時に経済発展に取り残され売春や貧困、エイズに苦しむ者もいる。ストリート・チルドレンはナイルバーチを入れる容器 を燃やしてつくる液体を、シンナーのように嗅いで酔っている。
加工したナイルパーチを飛行機で運ぶのは旧ソ連出身のパイロット。飛行機 は魚だけを運ぶためにアフリカと欧州を往復しているのではなく、まず欧州から武器弾薬をアフリカに輸送し、積み荷を降ろした後で魚を詰め込んで再び欧州に 向かう段取りなのが、パイロットとのインタビューで分かる。町の売春婦はパイロットたち相手に商売している。
国連の食糧支援もなにやら怪しい裏があるのを臭わせるシーンがある。特に飢饉も戦争もないのに、先に飢餓に直面しているかのような情報を流し、先進国からの援助食糧が届くも、企業が食料を売りたいビジネスとなっているのを伺わせる。
タンザニアと言われても、日本ではよく知らない方が大半だろう。予備知識もない人がいきなりこのドキュメンタリーを見れば、タンザニアとは何とひどい状態になっているのかと思うのも無理もない。しかし、この映画についてネット検索してみたら、「ダルエスサラーム便り」という実に興味深いサイトがあった。タンザニア滞在の日本人・根本利通氏が「ダーウィンの悪夢」について論評しており、舞台となったムワンザの事情も紹介されている。これを読んで、映画のからくりを思い知らさせた。
根本氏が記事で書かれた中で、私が愕然とさせられたことの一部抜粋したい。
「さまざまな事実をどう選択し、どう羅列するかは、製作側の意図である。ドキュメンタリー映画とはいえ、監督の主張、作品であることを忘れてはいけない…事実を淡々と並べる手法。それは映像効果を狙った監督の作品なのであって、それを純真に「これがタンザニアの現実だ」と思い込む方がおかしい…ヨーロッパから発信された、ヨーロッパ人の目のフィルターを通したアフリカ像を鵜呑みにしてはいけないと思う」
映像は実に衝撃的だ。風吹けば、とばかりナイルパーチをクローズアップして、環境破壊、貧困、グローバリズムの弊害に結び付けようとする流れ。かなり意図 的な効果を狙った作品だったのだ!根本氏はフランス・ブルターニュ在住の日本人女性ブロガーの感想を例として挙げているが、あまりにも感傷的、情緒的と一 蹴するのも酷かもしれない。私はタンザニアはもちろんブルターニュにも行ったことはないが、ブルターニュも自然はともかく麗しいばかりの土地でもないだろ う。この世にパラダイスなど存在しないのだから。
もし、ヴィクトリア湖にナイルパーチが放流されなかったとしたら、ムワンザ及びタンザニアはどうなっていたのだろう。売春や貧困、エイズと無縁だったとは到底思えない。ムワンザ在住のタンザニア人ジャーナリストの意見は重い。
「映画は監督の作品で、監督が選んだ事実を使うのは自由だ。だが、ナイルパーチ産業が30万人の雇用を創出したことは事実で、環境汚染の問題はまた別の問題だ」
最近の映画を見ていて、よく「これは事実に基づいている」というクレジットを見かける。このドキュメンタリーも嘘やヤラセではないと思うが、暗部だけを並べてしまえば、事実に基づいたフィクションも成立可能だ。ここに映像の恐ろしさがある。
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タンザニアのヴィクトリア湖に外来魚ナイルパーチが 放流されたのは、半世紀ほど前と思われている。この肉食の巨大魚は湖で増殖し続け、魚に目をつけた企業家は湖畔に工場を作る。ナイルパーチを加工し海外に 輸出する一大魚産業が成立する一方、同時に経済発展に取り残され売春や貧困、エイズに苦しむ者もいる。ストリート・チルドレンはナイルバーチを入れる容器 を燃やしてつくる液体を、シンナーのように嗅いで酔っている。
加工したナイルパーチを飛行機で運ぶのは旧ソ連出身のパイロット。飛行機 は魚だけを運ぶためにアフリカと欧州を往復しているのではなく、まず欧州から武器弾薬をアフリカに輸送し、積み荷を降ろした後で魚を詰め込んで再び欧州に 向かう段取りなのが、パイロットとのインタビューで分かる。町の売春婦はパイロットたち相手に商売している。
国連の食糧支援もなにやら怪しい裏があるのを臭わせるシーンがある。特に飢饉も戦争もないのに、先に飢餓に直面しているかのような情報を流し、先進国からの援助食糧が届くも、企業が食料を売りたいビジネスとなっているのを伺わせる。
タンザニアと言われても、日本ではよく知らない方が大半だろう。予備知識もない人がいきなりこのドキュメンタリーを見れば、タンザニアとは何とひどい状態になっているのかと思うのも無理もない。しかし、この映画についてネット検索してみたら、「ダルエスサラーム便り」という実に興味深いサイトがあった。タンザニア滞在の日本人・根本利通氏が「ダーウィンの悪夢」について論評しており、舞台となったムワンザの事情も紹介されている。これを読んで、映画のからくりを思い知らさせた。
根本氏が記事で書かれた中で、私が愕然とさせられたことの一部抜粋したい。
「さまざまな事実をどう選択し、どう羅列するかは、製作側の意図である。ドキュメンタリー映画とはいえ、監督の主張、作品であることを忘れてはいけない…事実を淡々と並べる手法。それは映像効果を狙った監督の作品なのであって、それを純真に「これがタンザニアの現実だ」と思い込む方がおかしい…ヨーロッパから発信された、ヨーロッパ人の目のフィルターを通したアフリカ像を鵜呑みにしてはいけないと思う」
映像は実に衝撃的だ。風吹けば、とばかりナイルパーチをクローズアップして、環境破壊、貧困、グローバリズムの弊害に結び付けようとする流れ。かなり意図 的な効果を狙った作品だったのだ!根本氏はフランス・ブルターニュ在住の日本人女性ブロガーの感想を例として挙げているが、あまりにも感傷的、情緒的と一 蹴するのも酷かもしれない。私はタンザニアはもちろんブルターニュにも行ったことはないが、ブルターニュも自然はともかく麗しいばかりの土地でもないだろ う。この世にパラダイスなど存在しないのだから。
もし、ヴィクトリア湖にナイルパーチが放流されなかったとしたら、ムワンザ及びタンザニアはどうなっていたのだろう。売春や貧困、エイズと無縁だったとは到底思えない。ムワンザ在住のタンザニア人ジャーナリストの意見は重い。
「映画は監督の作品で、監督が選んだ事実を使うのは自由だ。だが、ナイルパーチ産業が30万人の雇用を創出したことは事実で、環境汚染の問題はまた別の問題だ」
最近の映画を見ていて、よく「これは事実に基づいている」というクレジットを見かける。このドキュメンタリーも嘘やヤラセではないと思うが、暗部だけを並べてしまえば、事実に基づいたフィクションも成立可能だ。ここに映像の恐ろしさがある。
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僕がこの映画を観た動機は絶滅動物を調べているとヴィクトリア湖における水棲生物の絶滅数が飛躍的に多かったのでその生態系を乱した元凶を知りたかったからです。
しかし映画の方は次第に環境問題から社会問題に刷り変わっていき最初の問題が希薄になっている感が否めません。
なるほど、そういう裏があったんですね。
私はこの映画を見逃してしまい、少し前にNHK BS1で放送していたのを録画して見ました。
見た後ネット検索したら、タンザニア滞在の日本人のサイトを発見して、映画とは違う裏も知り、映画館に行かなくてよかった、と思いましたね。
ドキュメンタリーといえ、「映像効果を狙った監督の作品」だったのです。この手のドキュメンタリーが啓蒙運動に使われるのは、違和感を感じます。