トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

禁断の中国史 その一

2022-12-11 21:30:21 | 読書/東アジア・他史

 タイトルだけで怖いもの見たさと好奇心が刺激される本がある。『禁断の中国史』(百田尚樹 著、飛鳥新社)がまさにそれで、まえがきで著者が開口一番述べた、「世界の中で日本人ほど中国を誤解している民族はいないのではないでしょうか」は、必ずしも極論ではなかった。
 著者はあの百田氏、保守派にも「煽動的ウヨク」と敬遠する人がいるほどの作家なので、本書は買わず、図書館で借りるつもりだった。しかし中国史にさほど感心のない友人が購読、面白かったというので、友人の本を借りて読んだ。やはり腰帯にあったコピー、「全篇、あまりに衝撃的な史実満載」は誇張ではなかった。

 本書を貸し出す時、私が歴女であることを知っている友人は、「もしかすると、既知の話が多いかもね」と言っていたが、読了後は知らないことが多かったのに遅まきながら気付いた。本書は全八章で構成され、以下はその章題。
一章 中国四千年史あるいは虐殺全史
二章 刑罰
三章 食人 
四章 宦官
五章 科挙
六章 纏足
七章 騙しのテクニック
八章 中国共産党の暗黒史

 本書の表紙裏には以下の文章がある。
本書を読めば、読者の皆さんは「中国」と「中国人」の本質を知ることになるでしょう。あなたの中の誤った中国像が音を立てて崩れていくかもしれません。しかしこれが中国の真の姿なのです。(まえがきより)

「あとがき」で著者が述べていることは、読者に大いに考えさせられたはず。
まえがきでも述べましたが、日本人ほど「中国」を誤解している国民もいません。おそらく世界の国々の中で、日本は「中国」に対して最も誤った認識を持つ国でしょう。
 その一番の理由は、これまた本書でも書いたように、遣唐使以来、中国こそ「我が師」であるという刷り込みが、私たちの脳裏になされたからです。また近代にいたっても、中国史学者の多くが、中国の悪しき伝統、おぞましい悪弊、身の毛もよだつような風習を紹介してこなかったことにあります。「これぞ中国史」と言える『資治通鑑』の全訳がいまだにわが国では翻訳出版されていないのがその証左です。

 また本邦では『三国志』や『水滸伝』、それに『史記』から題材をとった小説が読書人の人気を集めています。吉川英治以来、多くの有名作家が、そうした作品を書いています。それらを読んだ人は「さすが中国、魅力的な英傑が綺羅星のごとく出てくるなあ」と感心し、中国文化および中国人に対する尊敬と憧れの念をより一層持つようになりますが、これは大いなる勘違いとしか言いようがありません。
 私はここではっきり言います。日本人作家が書いた『三国志』や『水滸伝』、あるいは『史記』をもとにした小説に登場する主人公のほとんどは、日本人好みのキャラクターに作り変えられたものだと。彼らのおぞましい所業や醜い言動などは、往々にして削除されるか、都合のいいように書き換えられています。(220-21頁)

 例えばスケールの大きな人物のイメージのある劉邦に対しても、百田氏は「大した能力もないのに、実に残忍の男」と切り捨てる。天下を取った後の劉邦が、かつての功臣たちを次々に粛清したことは意外に知られておらず、それも小説や漫画などではこうしたエピソードは殆ど触れられていないから。粛清といえ功臣個人が処刑されるのではなく、一族郎党皆殺しである。
 司馬遼太郎の歴史小説『項羽と劉邦』でも、後者はスケールの大きな人物として描かれていたが、これも日本人の中国に対する大いなる勘違いに貢献した作品だったのやら。

 かつての右腕を粛清したのは劉邦に留まらず、の開祖・朱元璋太平天国の乱の指導者、洪秀全も行っている。前者は2人の忠臣を処刑した時、一族郎党ら約3万人を虐殺したという。洪秀全に至っては、№2粛清時に一族郎党、関係者と家族4万人が殺されたそうだ。一方、チンギス・ハーンが重臣を粛清したという話は聞いたことがない。
 尤も中国に対して大いなる勘違いをしていたのは日本人に限らない。過去記事にも書いたが、インド初代首相ネルーもその一人だったし、中印国境紛争における大失態に繋がった。
その二に続く

◆関連記事:「聊斎志異
蒼穹の昴
「打落水狗」水に落ちた犬は叩け-魯迅
中国幻想を抱き続けたインド政治家

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る