インド映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』のDVDを見た。インド映画らしくハッピーエンドとなるのは観る前から想像がついたが、それでも久し振りに質の良いおとぎ話だった。以下は映画.comでのストーリー紹介。
―インド人青年と、声を出せないパキスタンから来た少女が、国や宗教を超えて織り成す2人旅をあたたかく描き、世界各国でヒットを記録したインド映画。幼い頃から声が出せない障がいを持つシャヒーダーは、パキスタンの小さな村からインドのイスラム寺院とに願掛けにやってきた。
しかし、その帰り道で母親とはぐれてしまい、1人インドに取り残されてしまう。そんなシャヒーダーが出会ったのは、正直者でお人好しなパワンだった。ヒンドゥー教のハヌマーン神の熱烈な信者であるパワンは、ハヌマーンの思し召しと、シャヒーダーを預かることにするが、彼女がパキスタンのイスラム教徒だと分かり驚がくする。
長い年月、さまざまな部分で激しく対立するインドとパキスタン。しかし、パワンはシャヒーダーを家に送り届けることを決意し、パスポートもビザもない、国境越えの2人旅がスタートする。主人公パワンをインド映画界の人気スター、サルマーン・カーンが演じる。
シャヒーダーの故郷はカシミールにあるスルターンプリ村で、願掛けにやってきたのはデリーのニザームッディーン廟。印パが長年激しく対立しているのは元からの宗教対立に加え、カシミール領有権をめぐる争いもあり、何度も軍事衝突が起きている(カシミール紛争)。日本では意外に知られていないが、カシミールは印パ両国のみならず、中国もカシミールの一部を支配している。
インドの神々は複数の名を持つことが多いが、バジュランギはハヌマーン神の別名のひとつで、主人公パワンは熱心なハヌマーン信者ゆえに周囲からバジュランギと呼ばれている。
パワンの父は街の名士だが民族義勇団メンバーでもあり、父の友人も同じく民族義勇団団員。現代の民族義勇団は社会運動団体でもあるが、かつてはガンディー暗殺者を出したこともあり、日本の右翼団体など足下にも及ばないガチガチの極右組織と言ってよい。しかも泡沫団体どころか全国規模の巨大組織であり、現インド首相モディもメンバーの1人。
映画の子役が可愛いのは当然だが、シャヒーダー役のハルシャーリー・マルホートラは5,000人のオーディションの中から起用されただけあり、天使のように愛くるしいという表現がオーバーでないほど。これほど無垢で愛らしい少女ならば、パワンならずともひと肌脱ごうという気分になってもおかしくない。
もちろん本作には幼女でも食い物にしようとする悪党は登場するし、6歳児でも売春宿に売り飛ばそうとする。シャヒーダーが連れてこられたインドの娼館の内部は安っぽくともド派手そのもので、やはりインド人は派手好きらしい。
パワンとシャヒーダーの国境越えとはズバリ密入国で、いくらパワンがシャヒーダーを家に送り届けると言っても、パキスタンの国境警備隊が鵜呑みにするはずがなく、初めはスパイ扱いする。しかし、パワンの真摯な態度からパキスタン人側でも信用したり、手助けする人々が出てくる。
そしてラストはインド映画らしい大団円で、シャヒーダーは無事に家に戻れた上、声も出せるようになった。シャヒーダーはパワンに“おじさん”と叫ぶ。
映画の半ば頃、意味深いセリフがあった。「人々は憎しみには耳を傾けるのに、愛には反応しない」。インド・パキスタン分離独立は両国の対立を決定づけたのは確かでも、wikiの「インド・パキスタン関係」だけで複雑極まるのが知れよう。
本作のように国や宗教を超えての人類愛がテーマの作品が制作されること自体、現実では正反対という事情があるのだろう。せめて映画の中では、敵国の少女でも助けようとする底抜けの善人が登場するのが望ましい。インド・パキスタン両国ともお花畑平和主義とは無縁だから。
日本のメディアではインドにおけるムスリム差別は割と取り上げるが、パキスタンでの異教徒迫害は報じない。『イスラム教再考』(飯山陽 著、扶桑社新書)に、パキスタンでは毎年数百人のヒンドゥー教徒の少女がイスラム教徒に誘拐され、強制的に改宗されられた上で結婚を強いられている他、身代金目当ての誘拐、略奪、暴行などの標的とされていることが載っている。(101頁)
標的となっているのはキリスト教徒の少女も同じで、毎年千人ものキリスト教徒、ヒンドゥー教徒の少女たちが被害に遭っているにも関わらず、「少女の教育を受ける権利」を主張し、2014年にノーベル平和賞を受賞したパキスタン人のマララ・ユスフザイが、この問題を無視していることを批判する声が上がっているという。(178頁)
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少し前までのインド映画は踊りと歌が中心のおバカ映画と思われていましたが、今ではハリウッドに勝る作品を生み出しています。残念ながら今の惨状では邦画はかなり難しいでしょう。