トーキング・マイノリティ

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007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 2021/英米

2021-10-26 21:30:28 | 映画

 コロナ禍により公開が遅れに遅れた007シリーズ最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」、先日のレディース・ディでやっと鑑賞できた。何しろダニエル・クレイグジェームズ・ボンドを演じる最終作でもあるので、007ファンには絶対に見逃せない。
 本作品への評価はファンの間でも賛否両論だろうが、私的にはダニエル・クレイグ主演最終作に相応しい内容で満足させられた。しかし、そのラストに衝撃を受けたファンが大半だったかもしれない。タイトルが「ノー・タイム・トゥ・ダイ(死ぬ時ではない)」にも関らず、ボンドが死んでしまうのだから。

 今回のボンドガールは前作に続きマドレーヌ。マドレーヌ役のレア・セドゥは本作のヒロインにも関らす、私的には最も印象の薄いボンドガールだった。むしろ出番の少ない新人CIAエージェント、パロマの方が印象的だし、演じたアナ・デ・アルマスがキューバ出身でラテン系のためか、実にセクシー。
 ボンドガールとは言えないが、ボンドの引退後、007番号が割り当てられた新女性エージェント、ノーミも同性から見てもカッコいい。かつては白人女性が演じていたマネーペニーも今や黒人女優なので、黒人女性の007が登場するのも時代の流れか。黒人と言え、ノーミ役のラシャーナ・リンチは英国籍である。どうりでアメリカ黒人とは雰囲気が違うワケだ

 今回の敵役はラミ・マレック扮するサフィン。映画『ボヘミアン・ラプソディ』で一躍知られるようになったマレックだが、どうも繊細で近年の敵役で最も影が薄かった。ただ、冒頭でサフィンは能面を付けて登場しており、登場時にはインパクトがあった。ずっと能面を付けたまま出ていた方が良かったかも。
 本作の真の敵役はサフィンよりも、細菌兵器「ヘラクレス」だろう。この細菌兵器は触れるだけで感染させることができ、DNAを指定した人のみを殺すこともできるという恐ろしい兵器。少し前ならこんな細菌兵器はSFの世界にしか出てこなかったが、現代の科学ではパンデミックを引き起こすウイルスが製造可能となっている。

 しかも「ヘラクレス」開発に携わったのはスペクターの様な巨悪犯罪組織ではなく、ボンドの上司であるMが関与していた。
 細菌兵器の開発は純粋に国防のためと確信していたMだが、首相の承諾を得ておらず独断専行だった。首相から電話がかかってきた時も、後にしろと部下に命じたり、「ヘラクレス」が世界に拡散しようとする危機で、ようやく首相に相談しようという始末。高級官僚が首相を蔑ろにするのは極東の島国だけではないようだ。

 サフィンの秘密基地は日本とロシアが領有をめぐり対立している島にあり、日本人なら「北方領土」と解るが、この島には膨大な量の細菌兵器が培養されていた。さらに島にはマドレーヌとボンドとの間に産まれた娘マチルドが監禁されており、2人の救出と基地壊滅に向かうボンド一行。
 しかし、基地を内部から爆破するだけでは壊滅できないことを知ったボンドは、近海に配備されている英国軍の艦からミサイルを発射するようMに提言するが、国際問題を避けたいMは却下する。やはり首相は提言対象外なのか。Mは日本やロシア、アメリカからの抗議を危惧していたが、私と同行した友人は、日本の抗議など問題にもならないだろう、せいぜい「遺憾」で済ませる程度、と鑑賞後に言い合った。
 
 秘密基地でボンドがサフィンと対峙した部屋は畳敷きだった。冒頭の能面といい、妙に和式テイストが入るのは監督キャリー・フクナガが日系アメリカ人ゆえか。娘を殺さないようボンドが土下座するシーンもあるが、反撃する機会を伺っていたからさすが007だ。
 サフィンを始末するも、その際に感染者は触れる者全てを感染させ、それは死ぬまで続く細菌兵器に感染してしまうボンド。もうマドレーヌや娘マチルドと触れることも出来ない。

 サフィンを始末する前、ボンドに押し切られ、ついにMはミサイル発射を許可していた。本来だったら島を脱出するつもりだったが、その手段も尽き、感染に絶望する。最後にマドレーヌと会話を交わし、「マチルドの目は自分と同じ青色」といい、娘がいたことに感謝するボンドだった。
 ミサイルが島に着弾する前の光景は、何本もの光の矢が放たれたようで、ふと昔のアニメ「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」での拡散波動砲を思い出してしまった。

 後日MI6の一室ではM以下同士たちが集い、ボンドに献杯を行う。本当にボンドは死んでしまったのだ。前々作「スカイフォール」でも女性上司Mが殉職しているが、主人公007が死ぬラストは想像もつかなかった。但しラストクレジットには「JAMES BOND WILL RETURN」とあり、そのうち新作は制作されるだろう。

 人間的なボンドと評されたダニエル・クレイグ007だが、娘がいた等、最後も人間的で救われた。ただ、あのボンドが儲けた子供は1人だけ?、と思ったファンは少なくなかっただろう。ダニエル・クレイグの軌跡を総おさらいした特別映像の動画もある。



 女性のシルエットが特徴の007シリーズのオープニングだが、ダニエル・クレイグ主演第一作「カジノロワイヤル」は珍しくそれがなかった。しかし歴代007シリーズの中で最高によかったと評価が高い。

◆関連記事:「007/カジノロワイヤル
007/慰めの報酬
007 スカイフォール
007 スペクター

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2 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobili)
2021-10-27 19:01:59
私はダニエル・クレイグの風貌が嫌いなので最近映画館で見ていません。最初に見たとき『こりゃロシア人❔まるでKGBのスパイだろっ❗』って思ってしまいました。
シリーズものの主人公は永劫回帰が宿命なので事件が終わると何事もなかったように元の状態に戻っていくものです。いわば永遠の『地獄巡り』をさまよう人生なのです。そこから考えると『主人公の死』は究極の『地獄巡り』からの脱却ではあります。
考えてみればゼロゼロナンバーでジェームス・ボンドを名乗るエージェントなんか何人いてもオケですから、替えが効くに違いありません。科学が進めばそのうちクローンで何人も替わりがいるエージェントなんて出てくるかもです。
もはやカラダをはるエージェントが活躍する時代ぢゃないのでしょう。『007なんて時代劇❔』と言わかねない状況です。
私は次の007はベネディクト・カンバーバッチにやって欲しいです。やっぱジェームス・ボンドはおちゃめでなくっちゃ。
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mobilis-in-mobiliさんへ (mugi)
2021-10-28 21:58:25
 ダニエル・クレイグは映画『ミュンヘン』で初めて知りました。モサド暗殺チームの中で主人公と共に最後まで生き残るタフガイだったし、その彼がボンド役に抜擢されたことには違和感がありましたね。
 ダニエル・ボンドは敵役よりも悪人面だし、英国人でも最後までスーツが似合わなかった。それでも映画館の大画面でみると、思ったよりもサマになっていました。私的にはピアーズ・ブロスナンよりも好みです。

 クローンで何人も替わりがいるエージェントという発想は実にSF的ですね。ただ、国際謀略小説『ザ・フォックス』には、最近は昔ながらのエージェント接触方が見直されていることが載っていました。
 次回のボンドが誰になるのかは不明ですが、ベネディクト・カンバーバッチといえば、私的にホームズのイメージがあります。
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