トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

嫉妬の世界史 その一

2021-10-30 22:00:08 | 読書/日本史
 暫くぶりに面白い歴史エッセイを読んだ。『嫉妬の世界史』(山内昌之 著、新潮新書91)がそれで、初版は2004年でも全く古びていない。嫉妬の文字はどちらも「ねたむ」という意味があるが、双方ともに女偏が使われており、嫉妬は女特有のものとする儒教の男尊女卑思想の表れなのだ。ならば男は嫉妬に無縁と思いきや、とんでもない。本書の表紙裏には以下の紹介が載っている。 ―喜怒哀楽とともに、誰しも無縁ではいられ . . . 本文を読む

イケメンに嫁いだ姫君の悲劇

2020-09-11 21:10:27 | 読書/日本史
 何時の時代も女はイケメンと結婚する夢を見る。実際にイケメンをゲットしてハッピーになった女性もいるが、逆に不幸な人生を送る羽目になったケースもあるのだ。先日見た『日本史の探偵手帳』(磯田道史著、文春文庫)にはそんな実例が載っており、「イケメン大名の悲劇」というコラムは以下の文章で始まる。「イケメンの話をしたい。わたしなどがいうと、やっかみになるが、美男美女とて幸せになるとは限らない。そこそこが一番 . . . 本文を読む

江戸のアイドルブーム

2020-09-03 22:30:26 | 読書/日本史
 令和の時代になってもアイドルに熱中する日本男性は後を絶たない。いい年をした社会人がアイドル会いたさに行列を作り、グッズを買い揃えるのはネットでもアイドルオタと揶揄されており、理解不能と感じる方もいるだろう。この現象を戦後日本の男性のひ弱さと捉える向きもあるが、既に江戸時代にも現代と同じくアイドルヲタが存在していた。 先日見た『日本史の探偵手帳』(磯田道史著、文春文庫)には、「江戸の「会いに行ける . . . 本文を読む

丹後局/大型よろめきマダム

2020-06-04 22:09:14 | 読書/日本史
 コロナ禍で巣ごもり生活を強いられる折、自宅での過ごし方は各人によってそれぞれだろう。私的には読書時間が増え、最近は既読の本を再読している。 先日見た『歴史をさわがせた女達~日本篇』(永井路子著、文春文庫)の中で、特に面白かったのは「丹後局(たんごのつぼね)」。丹後局を著者は「大型よろめきマダム」と表現しているが、確かにスケールの大きなよろめきマダムだ。 丹後局の本名は高階栄子(たかしな の えい . . . 本文を読む

日本人と日本文化 その⑤

2019-04-11 21:10:14 | 読書/日本史
その①、その②、その③、その④の続き  切死丹/キリシタンについての対談でキーン氏は、当時のポルトガル人やスペイン人宣教者にかなり好意的な話をしている。氏は彼らが書いた手紙を英訳でかなり読んだそうだが、日本人は我々とは違う人種とは誰ひとり書いてなかったという。日本女性は欧州人より色が白いとか、そんなことまで言っていたとか。  はじめのうちはポルトガル人が来日しても、日本は欧州と殆ど変わらない、もっ . . . 本文を読む

日本人と日本文化 その④

2019-04-10 22:00:16 | 読書/日本史
その①、その②、その③の続き  儒教が日本社会に与えた影響について、キーン氏と司馬遼の見解の違いは興味深い。江戸時代に案外広まり、現代(1970年代初頭)でも相当根強い、というキーン氏。日本に道徳があるとすれば、それは仏教的な道徳ではなく、明らかに儒教的なそれでしょう、と断言する。儒教は日本人のモラルの根底になっているとまで考えているのだ。  一方、司馬はそれにはかなり懐疑的である。律令体制でも国 . . . 本文を読む

日本人と日本文化 その③

2019-04-09 22:00:44 | 読書/日本史
その①、その②の続き  それでもキーン氏は、日本としていちばんの危機はおそらく奈良朝の次の世紀、つまり西暦でいうと9世紀だという。当時は最も中国文学が流行っており、場合によっては日本文学がそこで消えたかもしれない時期と見ている。  しかし、どうしたものかまた日本文学が強くなり、9世紀の終わり頃には『竹取物語』や『古今集』などの文学が生まれたが、一時的には非常な危機だったはず、とまで述べている。こと . . . 本文を読む

日本人と日本文化 その②

2019-04-06 22:40:20 | 読書/日本史
その①の続き  キーン氏が指摘した日本での外国文化の受け入れ方は、結構耳が痛かったが的をついているのは確かなので引用したい。 「日本の歴史を眺めておりますと、あらゆる面に外国文化に対する愛と憎、需要と抵抗の関係があるように思われます。たとえば『源氏物語』を読みますと、「唐(から)めきたり」という形容詞がありますが、これは悪い意味です。  本来はいい意味のはずですけど、私の理解したかぎりでは悪い意味 . . . 本文を読む

日本人と日本文化 その①

2019-04-05 21:10:25 | 読書/日本史
 今年2月24日死去したドナルド・キーン氏にちなみ、私行きつけの図書館の特性コーナーにはキーン氏の著作が何点か置かれていた。そのひとつ 『日本人と日本文化』(中公文庫)は司馬遼太郎との対談集だったので、面白そうだと思い借りて読んでみた。文庫自体は初版が1984年4月だが、この書は昭和47(1972)年5月に中公新書285から出ている。 詠んでみて驚いたのは、キーン氏の博学ぶり。いかに日本文学研究の . . . 本文を読む

昭和初年の美容整形

2018-07-11 21:10:07 | 読書/日本史
『日本史の内幕』(磯田道史著、中公新書)を先日読んだ。本の帯のコピー「古文書の達人だけが知る歴史のウラ側、教えます」どおり、古文書の調査や読み方にはさすがに歴史学者と唸らせられる。新書の副題は「戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで」となっているが、新書ということもあるのか読み易い歴史エッセイとなっている。 私的に最も面白いと感じたのは第4章の記事「昭和初年の美容整形」(161-164頁)だった。美 . . . 本文を読む