ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【身辺雑記2こむらがえり】難波先生より

2015-06-29 15:23:47 | 難波紘二先生
【身辺雑記2こむらがえり】
 「腓返り」と書く。「こむら」は和語で、脛(すね)の後のふくらみ「ふくらはぎ」をいう。
筋肉の突然のけいれん(痙攣)はここに起こりやすく、有痛性の持続的な筋肉のつっぱり(強直性痙攣)を「こむらがえり」と呼ぶ。俗語である。

 『最新医学大辞典』には「こむらがえり」にTwistという英語をあてているが、これは間違い。ツイストは「捻挫」のことで、英語では「Cramp in the calf」(ふくらはぎのひきつり)という。水泳中に起こるものが「Swimmer’s cramp」である。
 手や指に有痛性のひきつりが起こることがあり、「書痙」(writer’s cramp)という。上記事典では、「Cramp」を「有痛性痙攣」とし「→痙攣(spasm)」の項に振っている。『ドーランド医学大辞典』でも和訳にはcramp, spasmともに「痙攣」の訳語があてられている。
 日本語の大野晋「類語国語辞典」、柴田武「類語大辞典」にも「引き攣り」をあらわす単語が「痙攣」しかない。これは日本医学用語の不備だと思う。

 英語のクランプもスパスムも、ドイツ語ではともに「クランプ(Krampf)」となり、区別されていない。おおかたドイツ医学優勢の戦前にKrampf=「痙攣」と訳され、戦後もそれが持続しているのであろう。「岩波・生物学辞典」ではconvulsionまで「痙攣」になっていた。
 患者が引きつけ(全身けいれん=コンバルジョン)を起こすとは言っても、細胞レベルの筋線維の収縮なら「スパスム」と英語ではいう。
 医学科学用語は正確でなければいけない。
 生理学の入澤宏教授は筋繊維の収縮を「攣縮(れんしゅく)」と呼んでいたが、せめて全身性の「ひきつり」と局所性ものを、たとえば、それぞれ「痙攣」と「攣縮」のように、用語を変えることはできないものか…。

 先日、坂出市で西光雄先生からおいしいステーキ店でご馳走になった。目の前の鉄板で焼くので、「私はネコ舌だから…」といったら、店主が冷たい平皿に切り分けて並べてくれた。
 食べながら生ビールを飲みながら、70歳になったという店主の話を聞いた。身体がしんどいので近々、店を閉めるという。
 具体的には、脚のふくらはぎや趾(ゆび)にこむら返りが起こるようになった、手の指にもときどき起こるという。立って包丁を使うのが仕事だから、これでは困るだろう。
 上肢と下肢の筋肉に多発性に「れん縮」が起こるというのは、整形外科的な要因では説明しにくい。「ひょっとしたら血液の電解質異常があるかもしれないので、脳神経内科に受診したら」というような話をした。

 数日前、家内にその話をしたら、「自分にも起きる」という。但し下腿だけで、夜寝ている時、朝目が覚めた時に起こることがある、という。ふくらはぎが痛く、母趾が引きつるそうだ。母趾は足底を向いて引きつるのか、足背を向くか訊ねたが、「よく覚えていない」という。
 彼女の場合も、仕事で立って店内を歩きまわる。

 その翌日(6/3)、ソファーに寝ころんで足を反対側の膝持たれにかけた座布団の上に乗せて、本を読んでいたら、うたた寝した。突然、左足に激痛を覚えて目がさめた。
 見ると、左母趾が思い切り足背に向けて反り返り、白い腱が際だっている。第2趾以下は左にそれて扇状に開いている。
 〔付記1=これは「バビンスキー反射」といって、大脳の運動野から筋肉まで刺激を伝える「錐体路」が脳内で遮断されると生じる。脳出血で「内包部」がやられるとこの反射が陽性になる。〕

 とっさのことで、激痛が先に走り、ともかく痛みとれん縮を解除するのが先決で、写真も撮影できなかった。母趾を無理に元に戻すと、今度は母趾屈筋がれん縮、足指全体が足底にむかって曲がってしまった。
 下肢の骨(脛骨)の左側にある前脛骨筋とその外側下側にある長母指伸筋を触ってみると(皮下脂肪がないから、これができる)、いずれも凝っていて、指で押すと圧痛がある。

 「あ、これが原因か…」とわかったので、右手を使って筋肉を縦横につよくマッサージした。脛骨の骨頭部、外側下部に窪みがある(膝関節の膝蓋骨下端から5cmほどのところ)。
 これが「三里のツボ」で、亡くなった伯母が50代の頃、よくここにお灸を据えていた。伯母も足がつっていたのかな、と思った。
 ここにも圧痛があるので、同様にマッサージした。
 おそらくここは指圧のツボでもあるのだろう。昔、大きな親指をしたマッサージ師が「指圧のこころ、母心」と、テレビで言っていたのを思い出した。
 しばらくすると、「れん縮」は消えたが、脛骨の中ほど左側の筋肉(前脛骨筋と長母指伸筋)には、しばらく圧痛が残った。(今はない。)

 医学生理学書を調べてみると、錐体路に障害がある時は、バビンスキー反射が陽性になるだけでなく「踏み直り反射」(躓いた時や、固い石の上に乗った時の姿勢立て直し)や「跳び直り反射」(目をつむっての片足跳び)ができなくなる、とあった。
 そこで前の芝生斜面を利用して、目をつむってぐるぐる回ることと、母屋の二階から目をつむって一階まで、らせん階段を降りる試験をしてみたが、いずれも異常がなかった。姿勢制御反応は正常である。

 というわけで、この「バビンスキー現象」は錐体路障害によるものでなく、腰部脊髄と知覚・運動神経、前脛骨筋・拇指伸筋を結ぶ、脊髄反射弓の間で一過性に生じたものと思われた。
 「こむら返り」の病因・発生機序については確たる説がない。この姫路市「みやけ内科」の説明はWIKI「こむら返り」よりよくできていると思う。
 http://www.miyake-naika.or.jp/03_katei/otona_komura.html

 今回の発作を経験してみて、こむら返りは「狭心症の発作」とよく似ているな、と感じた。あれは心臓の筋肉が部分的に痙攣を起こすために、胸に激痛が来る。
 心筋硬塞では、心臓の筋肉に血液を供給する冠状動脈が閉塞する。閉塞部より先には血液が行かない「絶対的循環障害」であり、血栓や栓子により血流を断たれた血管下流域の心筋は壊死する。
 これに対して狭心症は「相対的循環障害」で、心臓が過度に運動を強いられると、心筋がストライキを起こし、部分的にれん縮をする。
 これは冠状動脈の硬化があり、血管内腔が細くなっている心臓に起こりやすいが、それがなくても急激に過剰な運動をすると起こることがある。つまり心筋の酸素需要量に応じた血流が伴わず、供給量の相対的バランスが失調すれば、疼痛をともなって狭心症がおこる。これは「心筋の悲鳴」で、一種のアラームである。

 私の場合、ソファーで両足を肘掛けに載せ、しかも左足首を右足に乗せて、足を組んだ状態でうたた寝をした。(というのも、左かかとに魚の目があり、逆に組むと痛い。)
 この状態では左足指に行く血流は、坐った時やベッドに寝た時よりも、重力に逆らう分だけ少なくなるに違いない。足の筋肉が悲鳴をあげて、「バビンスキー反射型」のこむら返りが起こったと考えると、説明はつく。
 だがこれには「再現性」がないから、単なる憶測にとどまる。
 しかし、こればかりは「再現」してほしくないなあ…

 追記1=ところが、6/13の朝、7:30頃眼を覚まして、右枕元の向こうにあるシャッターの紐を引こうと手を伸ばした時に、下肢が反射的に伸び、そのとたんに両脛にこむら返りが起きた。触ってみると、「前脛骨筋」と「ひらめ筋」の両方(伸筋と屈筋)が吊っている。
 さっそく左脚の「三里のツボ」を左親指でつよく押さえてマッサージした。ここに圧痛がある。すると左脚のこむら返りが徐々に解除すると共に、不思議なことに右足のそれも消えて行った。
 この「三里のツボ」の位置は、写真1(右脚)のように膝の皿(膝蓋骨)の右下に斜めに走る凹みがあり、その向こうに脛骨骨頭による高まりが見える。
(図1)
 対角線上で脛骨骨頭の外側に浅い凹みが斜めに走っている。この位置が「三里のツボ」である。脚のこむら返りは、ここを指圧してマッサージすれば、すぐに解消することがわかった。
 両方に同時に起こり、片方でここを指圧すると、他方も消える現象は前に一度、経験した。マッサージすると10秒もしないで元に戻った。

 この現象をうまく説明する理論(仮説)は、「脚のこむら返りは腰髄レベルの運動ニューロンの反射異常で、両側性に起こった場合は、他方が正常化すれば反対側の変化も正常化する」というものであろう。左右の脊髄前角の運動性ニューロンの間には、脳梁と同様に左右をつなぐ「灰白交連」が存在する。(藤田恒夫「入門人体解剖学・改訂5版」,南江堂, 2012/1)
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