【なりすまし】「読売」が「健康診断をしたニセ医師」について、以下のように報じている。
<医師なりすまし男逮捕…病院事務3か月経験のみ
読売新聞 9月24日(月) 配信
東京都板橋区の高島平中央総合病院で医師になりすました男が区民健康診断をしていた問題で、警視庁と長野県警の合同捜査本部は24日、世田谷区中町、自称医師、黒木雅(みやび)容疑者(43)を詐欺や医師法違反(医師の名称使用制限)などの疑いで逮捕した。
黒木容疑者は健康診断などの医療行為のほか、長野県内の医療機関でも健診をしていた疑いが持たれており、同庁などで捜査を進めている。
発表によると、黒木容疑者は09年6月、都内の人材紹介派遣会社に「黒木良太」の偽名で登録し、「山梨医科大医学部卒」とウソをつき、偽の医師免許のコピーを提出。同社の紹介で10年6月-11年11月、高島平中央総合病院に非常勤医師として勤務し、区民の健康診断を行い、病院から報酬計約260万円をだまし取った疑い。
黒木容疑者は山口大教育学部を中退後、横浜市内の病院の事務を3か月間していたが、医師や看護師の国家資格は持っていなかった。調べに対して容疑を認め、「生活費にあてたかった。健康診断ぐらいならできると思った」と供述しているという。>
「読売」だけでなく、他の新聞もテレビも「医師なりすまし男」と報じていて、「ニセ医者」としていないのはなぜだろう?続報では東京板橋だけでなく、長野県でも「健康診断医」として働いており、合計1万数千人を検診しているという。これをやり直すとなったら大変だ。
「医師法」は医師に対して「医業の業務独占」と「医師の名称独占」を認めている。「医師」とは「医師国家試験に合格し、医籍に登録の手続きをおこなったもの」をいう。これを行うと「医師免許」が交付される。医師でないものが、医師と紛らわしい名称を使用することは同法第18条により、「医業」をおこなうことは第17条により禁止されている。これを医師の「名称独占」及び「業務独占」という。
「読売」記事は、「医師の名称使用制限」(第18条)違反を容疑としてあげているが、「健康診断などの医療行為」は書いているものの、第17条「無資格医業の禁止」違反の容疑については書いていない。これも例によって記者の不勉強、警察の記者クラブ発表のたれ流しによるものであろう。もし本当に、警視庁と長野県警が第17条違反を問題としていないのなら、実はそちらの方が大問題である。
第17条の「医業」とは「医行為」を反復して行うことをいう。それによって報酬をえるかどうかは、関係ない。
では「医行為」とは何か? それによって人間の健康や病気の治療に影響を与えるような、検査の実施、意見の陳述、人体への侵襲、診断書または処方箋の作成・交付、薬物の投与などをいう。
実は、「病理診断科」が「診療科」(いわゆる標榜科)として認可してもらうための活動過程で、「病理検査及び病理診断書作成は医行為か?」ということに関して当時の厚労省担当者と大いに議論した。「病理業務の内容及び病理診断が、患者の治療に重大な影響を与えるだけでなく、病院機能の質的向上にも欠かせないもの」と厚労省が認識したから、「医療法」第70条に規定する「政令で定める診療科名」(「医療法施行令」第5条の11)に、「病理診断科」が2008年4月から取り入れられたのである。われわれが1987年に運動を開始してから、実に20年を要した。
上記、医業及び医行為の定義は、その間に厚労省健康政策局(当時)とのやり取りで、明確になったものである。実際に、私が専門としてきた「悪性リンパ腫の病理診断」などは、病理診断が正しく、それに基づいて適切な血液内科的治療がおこなわれると、がんのなかでも治癒率(寛解率)がきわめて高い疾患であり、今でも適切な血液病理専門医を求めて、血液内科医は「がん難民」になっている、と東北大学の一迫(いちのはざま)玲教授は、雑誌「医学のあゆみ」に書いている。
私も、数年前に腎移植患者に発生した胃の悪性リンパ腫標本を診て、「これはピロリ菌が原因で起こっていると思うから、化学療法をする前に菌の検査をし、陽性なら除菌療法をまずおこない、ついで免疫抑制剤を拒絶反応がおこらない程度に減量し、様子を見るように」と指示したところ、果たしてピロリ菌陽性であり、除菌して免疫抑制剤を減量したら腫瘍が自然消滅して、患者は腎臓を摘出しないですんだ、という例を経験している。
この場合、患者を診察したわけではないが、私の意見は臨床医に決定的な影響を与え、それによって患者の治療法に大きな影響を与えたわけだから、これは間違いなく「医行為」なのである。ひるがえって、この「なりすまし男」は、健康診断によって重大な病気を見落としたかもしれないし、健康な人間に「要精密検査」と判定を下し、その人の貴重な時間と医療資源をむだ遣いしたかもしれない。これらはれっきとした「医行為」である。
その医行為を反復しておこなったわけだから「医業」をやっていたのであり、医師法第17条違反は明白である。読売記者は「健康診断などの医療行為」と書いているから、健診が「医行為」であることは知っていたのであろう。しかしこれが「医師法」第17条に違反していることまでは、勉強していなかったのだろう。「記者クラブ報道」は優秀な医者を馬鹿にする。いわゆる大企業とは「優秀な若者を採用し、馬鹿に育てる」ところである。
ともかく医師の独占とされている「医師の名称」と「医業」を、医籍に登録していない素人が「名前を騙って、実行していた」のであるから、これを「ニセ医者」と呼ばないで誰がニセ医者になるのか? 信頼されるメディアの第一条件は、「正しい言葉を使うこと」である。あいまいな言葉によるごまかしは許されない。
<医師なりすまし男逮捕…病院事務3か月経験のみ
読売新聞 9月24日(月) 配信
東京都板橋区の高島平中央総合病院で医師になりすました男が区民健康診断をしていた問題で、警視庁と長野県警の合同捜査本部は24日、世田谷区中町、自称医師、黒木雅(みやび)容疑者(43)を詐欺や医師法違反(医師の名称使用制限)などの疑いで逮捕した。
黒木容疑者は健康診断などの医療行為のほか、長野県内の医療機関でも健診をしていた疑いが持たれており、同庁などで捜査を進めている。
発表によると、黒木容疑者は09年6月、都内の人材紹介派遣会社に「黒木良太」の偽名で登録し、「山梨医科大医学部卒」とウソをつき、偽の医師免許のコピーを提出。同社の紹介で10年6月-11年11月、高島平中央総合病院に非常勤医師として勤務し、区民の健康診断を行い、病院から報酬計約260万円をだまし取った疑い。
黒木容疑者は山口大教育学部を中退後、横浜市内の病院の事務を3か月間していたが、医師や看護師の国家資格は持っていなかった。調べに対して容疑を認め、「生活費にあてたかった。健康診断ぐらいならできると思った」と供述しているという。>
「読売」だけでなく、他の新聞もテレビも「医師なりすまし男」と報じていて、「ニセ医者」としていないのはなぜだろう?続報では東京板橋だけでなく、長野県でも「健康診断医」として働いており、合計1万数千人を検診しているという。これをやり直すとなったら大変だ。
「医師法」は医師に対して「医業の業務独占」と「医師の名称独占」を認めている。「医師」とは「医師国家試験に合格し、医籍に登録の手続きをおこなったもの」をいう。これを行うと「医師免許」が交付される。医師でないものが、医師と紛らわしい名称を使用することは同法第18条により、「医業」をおこなうことは第17条により禁止されている。これを医師の「名称独占」及び「業務独占」という。
「読売」記事は、「医師の名称使用制限」(第18条)違反を容疑としてあげているが、「健康診断などの医療行為」は書いているものの、第17条「無資格医業の禁止」違反の容疑については書いていない。これも例によって記者の不勉強、警察の記者クラブ発表のたれ流しによるものであろう。もし本当に、警視庁と長野県警が第17条違反を問題としていないのなら、実はそちらの方が大問題である。
第17条の「医業」とは「医行為」を反復して行うことをいう。それによって報酬をえるかどうかは、関係ない。
では「医行為」とは何か? それによって人間の健康や病気の治療に影響を与えるような、検査の実施、意見の陳述、人体への侵襲、診断書または処方箋の作成・交付、薬物の投与などをいう。
実は、「病理診断科」が「診療科」(いわゆる標榜科)として認可してもらうための活動過程で、「病理検査及び病理診断書作成は医行為か?」ということに関して当時の厚労省担当者と大いに議論した。「病理業務の内容及び病理診断が、患者の治療に重大な影響を与えるだけでなく、病院機能の質的向上にも欠かせないもの」と厚労省が認識したから、「医療法」第70条に規定する「政令で定める診療科名」(「医療法施行令」第5条の11)に、「病理診断科」が2008年4月から取り入れられたのである。われわれが1987年に運動を開始してから、実に20年を要した。
上記、医業及び医行為の定義は、その間に厚労省健康政策局(当時)とのやり取りで、明確になったものである。実際に、私が専門としてきた「悪性リンパ腫の病理診断」などは、病理診断が正しく、それに基づいて適切な血液内科的治療がおこなわれると、がんのなかでも治癒率(寛解率)がきわめて高い疾患であり、今でも適切な血液病理専門医を求めて、血液内科医は「がん難民」になっている、と東北大学の一迫(いちのはざま)玲教授は、雑誌「医学のあゆみ」に書いている。
私も、数年前に腎移植患者に発生した胃の悪性リンパ腫標本を診て、「これはピロリ菌が原因で起こっていると思うから、化学療法をする前に菌の検査をし、陽性なら除菌療法をまずおこない、ついで免疫抑制剤を拒絶反応がおこらない程度に減量し、様子を見るように」と指示したところ、果たしてピロリ菌陽性であり、除菌して免疫抑制剤を減量したら腫瘍が自然消滅して、患者は腎臓を摘出しないですんだ、という例を経験している。
この場合、患者を診察したわけではないが、私の意見は臨床医に決定的な影響を与え、それによって患者の治療法に大きな影響を与えたわけだから、これは間違いなく「医行為」なのである。ひるがえって、この「なりすまし男」は、健康診断によって重大な病気を見落としたかもしれないし、健康な人間に「要精密検査」と判定を下し、その人の貴重な時間と医療資源をむだ遣いしたかもしれない。これらはれっきとした「医行為」である。
その医行為を反復しておこなったわけだから「医業」をやっていたのであり、医師法第17条違反は明白である。読売記者は「健康診断などの医療行為」と書いているから、健診が「医行為」であることは知っていたのであろう。しかしこれが「医師法」第17条に違反していることまでは、勉強していなかったのだろう。「記者クラブ報道」は優秀な医者を馬鹿にする。いわゆる大企業とは「優秀な若者を採用し、馬鹿に育てる」ところである。
ともかく医師の独占とされている「医師の名称」と「医業」を、医籍に登録していない素人が「名前を騙って、実行していた」のであるから、これを「ニセ医者」と呼ばないで誰がニセ医者になるのか? 信頼されるメディアの第一条件は、「正しい言葉を使うこと」である。あいまいな言葉によるごまかしは許されない。
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