ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【廃用性萎縮】難波先生より

2014-10-23 19:07:06 | 難波紘二先生
【廃用性萎縮】10/20(月)21時NHKニュースで、「子供の3割に味覚異常」と東京医科歯科大の調査を報じていた。味の5要素「甘み、塩味、酸味、苦味、うま味」にはそれぞれに対応する味蕾が舌や口腔粘膜にある。「辛味」は末梢神経の痛覚の受容体が刺激されるヒリヒリ感で、味覚ではない。試みに皮膚や傷口に唐辛子エキスかキムチの汁をつけてみるがよい。カプサイシンにより痛みと熱さを感じるはずだ。
 軽度の痛みであるヒリヒリ感は「熱い」という感覚を引き起こし、身体が温まる。唐辛子は日本から朝鮮に伝わったものだが、キムチがあの国の食文化になったのは、痛覚を「味覚」と理解している科学オンチ(ノーベル科学賞はまだ一人もいない)と寒い気候のせいだ。
 味蕾は味細胞の集合体である。5基本味ごとに異なった味細胞がある。5番目に発見された「うま味」は昆布(グルタミン酸=池田菊苗)、カツオ節(イノシン酸=小玉新太郎)、椎茸(グアニール酸=国中明)とすべて日本人が発見し、その味細胞も特定された(都甲潔『味覚を科学する』角川選書, 2002)。魚類では体表にも味蕾がある。ヒトの味蕾は口のなかに3000個しかないが、ナマズでは20万個ある。だから味蕾は魚類で初めて発見された(藤田恒夫他『カラー版細胞紳士録』岩波新書, 2004)。和食が「世界文化遺産」になるのは調理人の努力だけではない。味の科学を研究してきた科学者たちの苦労も貢献している。
 「良薬は口に苦し」という。苦味の多くは植物アルカロイドの味で、アルカロイドの多くは毒である。だから「毒は薬」ともいう。一部はモルヒネ、コカインなどの麻薬、一部はビンクリスチンなどの抗がん剤、一部はニコチン、カフェインなどの嗜好品になっている。つまり苦味の感覚は毒物を食わないために、ヒトの進化の過程でもっとも重要であったので、第一基本味なのだ。
 苦味を感じないのを医学的には「味盲」(Taste Blindness)という。これはPTCテストという、苦味物質フェニールチオカルバミド(PTC)を用いて検出する。PTCテストによる味盲の出現率は米白人30%、米原住民10%、米黒人10%であり、多くは常染色体劣性遺伝する。
 西丸
哉が「台湾原住民の中には甘みを知らない部族もいる」と何かの本に書いていた。詳細は知らないが、これも遺伝性かあるいは獲得性のものであろう。台湾原住民のうち日本統治下に入らなかった部族は、サトウキビも砂糖も知らなかった。よって獲得性の甘味「味盲」である可能性がつよい。
 病理学の原則に「廃用性萎縮」がある。使わない臓器(脳や心臓など)や組織(筋肉、骨など)はおとろえ、使う臓器・組織は肥大するという原則だ。ラマルクの「用不用説」は、これを遺伝的に固定される進化の原理と考えたところに間違いがあったが、用不用で肥大と萎縮が起こるという現象は事実である。これは細胞のレベルでもおこる。脳の老化つまりボケも多くは廃用性萎縮がからんでいる。使わないと錆びるのと同じだ。
 医科歯科大とNHKの報道は、「子供の味覚異常」を安易にファーストフードの食習慣と結びつけているが、これは間違いだと思う。まず日本人の世代別の味盲率(苦味に対しては日本人で10%程度の味盲がいるはず)を明らかにし、他の4基本味に関してもちゃんと基礎検査をおこない結論を示唆すべきだ。いたずらなセンセーショナリズムは捏造の基本味だ。
 赤ん坊は体内で羊水を飲んで水分を補給する。母親の飲んだアルカロイドは羊水にも移行するから、水にも味がある。つまり味細胞の発達は胎児期に始まるのだろう。要は子供に好き嫌いをいわせないで、「何でも食べさせる」親によるしつけが重要だ。
 私見では酸味、塩味、苦味を家庭料理やファーストフードが避けているために、これら3基本味に対応する味細胞ないし味蕾が廃用性萎縮を起こしているのだろうと思う。まあ、たまにはドングリでもかじって渋みを味わうのもよかろう。
 ちなみに上記の都甲潔本によると、「渋み」はタンニン酸によるがこれは苦味細胞と痛覚レセプターの両方を刺激するという。渋は皮なめしに用いられるので、タンニン酸が表皮細胞や線維芽細胞やコラゲン線維との間に架橋を形成するのは間違いない。やはり口腔内では痛覚レセプターの膜タンパクにも結合するのであろう。
 「にがみばしったよい男」、「芸に渋みがでてきた」、「わび、さび、しぶみ」
 「子を甘やかす」、「物事を甘く見るな」、「大甘だった」
 どうも日本文化にはにがみ、渋みを評価して、甘みを低く見る傾向があるように思われる。この伝統を守れば糖尿病は激減する、というのは甘いか。
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1 コメント

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 (花職人)
2014-10-24 02:49:42
こんばんは。

ドングリの実によく似たシキミの実(猛毒)にご注意ください。 劇物指定の実です。非常によく似ています。北日本にはシキミは自生していないそうですが、関東以西の日本の山林でドングリ風に落ちていることがあります。




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