ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【STAP報道検証19】難波先生より

2014-07-13 22:27:08 | 難波紘二先生
【STAP報道検証19】
 7/10「レコード・チャイナ」が韓国「毎日経済」新聞の報道として<韓国人の若者の6割が国外脱出を希望>と報じている。この新聞は<台風8号の日本直撃は天罰>と報じたくらいだからまともな新聞ではない。が、閉塞状況のいまの韓国若者の気分は伝えていると思う。http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=90925&type=
 韓国の大学進学率は90%で、日本の50%よりはるかに高い。「大学全入」といってよいだろう。よい大学に入学するために2年3年浪人するのも当たり前、小学生から塾通いも当たり前だ。そのくせ大学を出ても、漢字の読み書きができないから、日本、台湾、中国での就職は無理で、韓国内で就職するか(語学力があれば)英語圏で働くしかない。

 大学を出ても韓国では就職率は50%程度で、不正規雇用は70%に達するという。(韓国の失業率、完全失業率などの労働統計は、国際定義と異なっていて実際よりよい値になっているという指摘もある。)
 韓国は建国以来、2世代60年で恐らく世界一の「学卒社会」を築き上げたわけだが、「競争(competition)」が入学試験や就職試験の原理である限り、「機会の平等」の保証は「結果=獲物」の平等を保証しない。もし伝統的な朝鮮社会の文化つまり「縁故採用」や「賄賂による」採用がはばをきかせるなら、政治経済の有力者や金持ちの師弟が優先的によい職にありつけるのは目に見えている。

 STAP事件の背景として、1991年開始の文科省による「大学院生倍増計画」の問題を「報道検証」として取り上げたメディアは一紙もなかった。「毎日」科学環境部は2003年に『理系白書:この国を静かに支える人たち』(講談社)を出して、「博士過剰」問題を取り上げていたので、期待していたが裏切られた。
 80年代半ばから「基礎科学の振興」が唱えられ、科学研究費の額は急増した。ライフサイエンス、バイオ、再生医療に巨額の研究費が投じられるようになった。この結果、「研究者が足りない」といわれ、大学院生の数を増やし、研究者の養成を図るために「大学院重点化」という新制度が91年から始まった。
 これは大学院をメインにし、学部をサブにすることを意味した。従来の学部の上に煙突形に存在する「◯◯大学(△学部)大学院△研究科」ではなく、複数の学部にまたがる大学院で「大学院◯◯研究科」の下に「△△専攻」と従来の学部名が付いた組織だ。
 教職員の「本籍」も大学院に移され、学部の教育や事務は「兼担」となった。これは1959年に「新制大学」が発足して以来の、高等教育における大変動である。文科省は「重点化」した大学には予算を25%アップする誘導策を導入した。口火を切ったのは文科省と結託した東大法学部で、他はみな東大にならって、雪崩のように「大学院重点化大学」へと追従した。

 18歳人口は1992年の205万人をピークに減少を始めた。これを既存の専門学校、短大、大学の方から見れば、学校経営上なにを意味するか?専門学校、短大の場合、「大学昇格」により、受験生の魅力を高め、同時に在学年数を4年に延長することで安定した授業料収入と文科省補助金を確保することである。
 既存の四大にとっては何を意味するか?大学院を新設することで、卒業生をそこに進学させ、さらに5年間の授業料を確保すること、すでに大学院を持つ大学では「重点化」することで、文科省からの補助金を増額することである。
 これを「18歳人口の長期減少」現象と重ね合わせるとどうなるか。18歳人口は、92年の205万人が2007年には75万人減少して130万人となり、今や120万人と推定されている。四大への進学率は52%だから、いまや「大学新入生」は63万人弱と見られる。
 他方、「大学院重点化」の結果、大学院生の数(修士、博士。法科大学院除く)は2012年度で24万3000人に達している。修士課程が約16.9万人、博士課程が7.4万人である。「法科大学院」関係の大学院生約2万人を合わせると、26万人を超えることになる。
 鳴り物入りで発足した法科大学院に「法化社会」の到来により弁護士の需要が増えると考えて、希望退職あるいは停年退職し、退職金をはたいて法科大学院に入学した大学院生たちの悲惨はどこも報じないが、いつの間にか「司法予備試験」が復活している。東大法学部というのは、いつの時代も悪魔のような悪知恵を出し、失敗しても責任を取らないところだ。まさに高級官僚の養成学校である。
 で、全国の大学院生数は91年の9.8万人から法科大学院を合わせると約3倍に増えた。文科官僚からみると「大学院生倍増計画」は十二分に達成されたわけである。

 が、ここに大きな陥穽が潜んでいた。需要予測を誤った法科大学院については7/9「産経」正論欄で早稲田大植村達男教授の「法科大学院はなぜ失敗したのか」が論じているので省く。http://sankei.jp.msn.com/life/news/140709/edc14070903120002-n1.htm

 上掲のグラフの上2つは専門分野別の修士課程、博士課程における大学院生の比率と実数を示している。このうち6年制である医学、歯学、薬学には原則として「修士課程」はない。また学部は専門職養成課程だから、国家試験に合格すれば「◯◯師免許」がもらえるので職場を選ばなければ就職難はない。「保健」のカテゴリーが修士は少ないのに、博士が多いのはそのためである。
 他の学部の場合、修士課程2年間、博士課程3年間が普通である。(保健系〈医歯薬〉は博士課程のみで4年間)。これは文科省の資料なので最下段のグラフの「学位在籍者」の学位には大学卒のしるしである「学士」が含まれている。(もっともこれを印刷した名刺を見たことがないが…)
 修士と博士の分野別比率を見ると、人文・社会・理学・農学の分野では多くの修士が博士課程に進学することがわかる。水月昭道『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)、榎木英介『博士漂流時代』(Discoverサイエンス新書, 2010)が問題にしているように、博士を量産した結果、やっと博士号をもらったものの就職先がないというのが現実だ。だから「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる生活がある。

 本当は、「大学院重点化」を行った際に「廃藩置県」だけでなく、既存の教員の「秩禄処分」を行い、全員を「期限付き雇用」にした上で、博士号のある教員、教育研究の指導能力と実績のある人材だけを終身雇用(テニュア制)として再契約すればよかったのだが、無能教授の既得権に妨げられてそれができなかった。
 その結果、大学では頭の古い教授や研究所ではすでに研究室長や所長・副所長などになっている幹部が終身雇用制となり、若い人は学位があっても「契約研究員(任期制職員)」となるという階層化が生じた。研究所でこのトップを切ったのは理化学研究所である。

 この話が「STAP細胞事件」とどういうつながりがあるか?と思われるかも知れないが、「世界三大科学不正」にランク付けされたこの事件は、「大学院生倍増」計画と「大学院重点化」計画がなければ生じていないのである。
 小保方晴子は18歳で早稲田の理工学部にAO入試で入り、22歳で理工系の大学院に入った。どこも大学院の学生定員を埋めるのに血眼だから、きちんとした入試などない。大学院での「学歴ロンダリング」は今や普通である。博士課程の途中で東京女子医大とハーバード系の「ブリガム婦人病院」へ留学した。小保方の生活実態についての確実な報道が乏しいが、要するに29か30歳で理研のPI(主任研究員)になるまで、定職がなかったのである。
 昭和の初めに「何が彼女をそうさせたか」という小説と映画が流行ったことがある。今回の事件でも「小保方晴子」を生みだした時代的背景にも目を向ける必要があると思う。

 「中央公論」八月号「時評2014」で佐倉統が、「潮」八月号の「ネット時代に異議あり」で作家の藤原智美が、それぞれに「STAP事件」を論じているが、データ捏造を生んだ根本的問題については触れられていないと思う。他のマスコミについても同様にいえる。
 ということは「事件はまたくり返す」ということを意味している。日本版ORIを設置しない限り恐らくそうなるだろう。
 たぶんこれが、この事件についての私の最後の発言になると思う。
コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【ヘビのウロコ】難波先生より | トップ | 【絞首刑?】難波先生より »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
感謝 (tomo)
2014-07-14 20:50:16
2月中頃よりずっと先生の『STAP細胞』論文についての考察を何度も繰り返して読んでおりました。会社を退職したての主婦ですが、世の不正というものが見過ごせない性質で、スタップ論文用のノートを作って自分なりに考えました。最近はスタップ論文不正のドロドロが、深入りする自分にも降りかかってくるようで、気分が悪くなりました。シェーン事件以上の様相ですが、今後は正義がどう貫かれるのかという視点で見ていくつもりです。最後かも知れないとのことですので、一言感謝の気持ちをお伝えしたくて、書き込みしました。ありがとうございました。
返信する
人口減少 (酒井重治)
2014-07-15 07:47:12
人口が減っていく事は、私は国土の狭さを考えれば望ましい事だと思っています。
しかし、減少すれば学生も減るのですから大学も減って行かねばなりません。
そして量よりも質の高い学生を作っていく事が今後日本の科学界をも充実させていくはずですし、第二の小保方事件などは例え起こったとしてもすぐに解決するでしょう。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-07-16 20:12:35
医学部も以前は大学院を出ていなくとも、大学に残り、助手、講師、助教授、教授と地位を得ることが出来ましたが、今は大学院を出ることが必須になりました。そのため、卒後臨床研修を終えて大学院に行くようになりました。(最初から基礎に進むと決めていれば、そのまま進学という人も居ます。) 医学部の教養課程の問題は、改善すべきだと思います。東京大学が一番長くて二年です。私立に至っては全く無いところもあります。一年次からすぐ解剖というように、国試に受かる事が最重要というカリキュラムの大学が多いでしょうし、大学の中に国試浪人の為の予備校があるという話も聞きました。(一方国公立は国試対策は原則自己責任です。)アメリカの様に、一度医学部以外の学部で学んでからというのは理想ですが、それが無理ならせめて教養課程をもっと充実させるべきではないでしょうか。
返信する
怒り心頭、憤懣やるかたない善良なる人々へ (老嬢)
2014-07-18 09:45:39
<難波先生のstap論文に関する全ブログの復読の勧め>

 *研ぎ澄まされた胆識による、事実にもとずいた理路整然とした冷徹な解明。まこと、快刀乱麻。(先生ご自身への無心の人間としての研鑽の賜物)

 *驚異に値する一般人?の専門、情報、並びに多岐多様にわたる知識。素晴らしい卓越した集合知

知識は行動を伴って初めて完成する.(知行合一)
今後は公の然るべきところに、素心をもって率直な意見投稿いたしましょう。(思い込み。憶測、揶揄,誹謗ではなく、品性ある意見。)

一人の意見は届かなくても、多数、無数になれば政府も動かせるでしょう。

厚顔無恥の愚者たちは、己の咎を咎と思うことは皆無.米つきバッタのように頭さげ、その場凌ぎの口先だけのまやかしの謝罪で一件落着させようとします.


日本の未来である子供達の育成の為に、我々一人一人が人間として,何が大切か、何を行うべきか教えなければなりません。

いつの世も,我利我利亡者の破廉恥な奇行、悪行,愚行の枚挙にいとまがない。

返信する
Unknown (Unknown)
2014-07-18 17:39:46
本当に安倍首相には困ったものです。お友達内閣もとんでもさんばかりで、このままではこれからの若い人達に申し訳ありません。私は老女ですが、ささやかながらも声をあげて行きたいと思っています。
返信する

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事