ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【エイプリル・フール】難波先生より

2014-04-01 19:48:21 | 難波紘二先生
【エイプリル・フール】
 夕食後、東広島市の広報誌を読んでいた家内が「これ見て」とある箇所を指して渡した。
 狂犬病の予防注射を「集合」(イヌだから「集団」といわない)でやるという広報記事で、中に「会場や道中で飼い主がフンをした場合は、必ず持ち帰ってください。」という文章があった。稚拙な間違いは明白だが、何ともいえぬおかしみがある。
 そこで「うん、明日はエイプリル・フールだからね」と答えたが、私以上に真面目人間の家内にはジョークが通じない。

 4月1日に、STAP細胞問題について、理研調査委の「最終報告」記者会見と理事長記者会見が行われた。STAP細胞の実在性についてはまったく触れず。これもジョークか。
 2Ch「生物板」で浅見という人(どういう人か知らない)がこう発言している。
<46 :浅見真規 ◆Xy1SDuGQ6I :2014/04/01(火) 11:19:14.00
[ 哺乳類の通常の成熟細胞でも不可能だった初期化をT細胞で達成したというウソ ]
 小保方は以前にT細胞以外の哺乳類の成熟細胞でstap細胞論文をnature誌に出して、「過去何百年の細胞生物学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」らしいが、最終的にnature誌にアクセプトされた論文では確認の過程から実質的にT細胞を使った事になっており、T細胞で初期化という更に困難な主張で信じがたいモノだったのだ。
 そういう不可能に極めて近い実験では本来は十分に注意して実験し論文作成されるべきなのに、不正転載(不正コピペ)や画像の不正流用があったので、イカサマは明白。>
 ほぼ正当な意見だと思う。

 実際、「ヒトの体内でも、骨髄の間葉系母細胞や皮膚の線維芽細胞の中には、単一細胞から培養しても集塊をつくり、三胚葉に分化する能力を示すものが10%程度ある」ということは、2010年に東北大学医学部から論文として報告されていた。(Y. Kuroda et al.: Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations. Proc. Natl. Acad. Sci. 107(19): 8639-43, 2010/5 )
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Kuroda+Y%2C+unique+multipotent+cells
この論文は現在までに主要雑誌掲載の論文に27回引用されている。また続報が6編出ている。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=kuroda+Y%2C+Muse+cell

 小保方論文に見られる図表の多用や実験手順や論理の構成は、2010年の黒田論文を下敷きにしているのは、間違いないだろう。そのくせ小保方論文には「黒田2010」論文は「成体の体内に多潜能幹細胞があるかどうか研究結果はまちまちである」という文章にくっつけて引用された7つの論文の1つ、文献8になっているにすぎない。また、MUSE細胞の作成法に関する重要な論文http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23787896
Nat Protoc. 2013;8(7):1391-415. doi: 10.1038/nprot.2013.076. Epub 2013 Jun 20.
Isolation, culture and evaluation of multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells.
Kuroda Y1, Wakao S, Kitada M, Murakami T, Nojima M, Dezawa M.
は、引用番号23として「ストレス耐性細胞からの単なる選択ではない(STAP細胞は誘導による)」という文章を強調するために引用されているにすぎない。
 そのくせ理研からの自己引用は、ざっと見ただけで全引用文献40のうち7本もある。
 およそ科学論文を書くものは、先行する研究者の論文に適切な敬意を払わなければいけない。ある説を否定するのなら、その根拠か理由をちゃんと述べなければいけない。が小保方はそれをしていない。

 黒田論文は「未分化間葉系細胞の中に、胚細胞に近い能力をもつ細胞(MUSE細胞)がある」と主張しているのに対して、小保方論文は「分化しきった体細胞がリセットされてSTAP細胞になる」と主張していた。
 「Multi-lineage-differentiating Stress Enduring cell」の略が「MUSE細胞」で、小保方らはこのストレスという語を意識的に避けて、「Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency」という用語を用い「STAP細胞」と略称した。
 要するに、実験のデザイン、論文の構造、細胞の名称は黒田論文のパクリないし模倣である。

 唯一オリジナルな点が、「分化しきった体細胞がリセットされてSTAP細胞になる」という点だった。その証拠として「遺伝子再構成」を終えたT細胞が「STAP細胞になる」として、DNAの電気泳動写真を示した。実験のミソであるこの写真が捏造だったのだから、小保方論文のノイエスである「STAP細胞の実在性」を支える支柱は崩れたといえる。
 どうしてこの「MUSE細胞」の論文がこの間にメディアで取り上げられなかったのだろうか。不思議である。日本メディアの科学部は実に弱いと痛感する。
 
 この黒田論文では「考察」の最後で、「もしMUSE細胞が、皮膚の線維芽細胞のように、正常の成人組織中に存在するとすれば、その増殖は厳密に調節されているに違いない。さもなければ、身体のいたるところで容易に腫瘍が生じるだろう。
 線維芽細胞と骨髄幹細胞(MSC)とに含まれるMUSE細胞の起源、存在位置、その生理学的役割に関する疑問の解明にはさらなる研究が必要である。」
 と非常に謙虚な態度を崩していない。

 これに対して小保方論文の「結果」の結語はこうなっている。
 「かくして、STAP細胞は、ES細胞の特徴に匹敵する増殖しえる細胞株を樹立できる、という能力をもっている」。
 こういう別な結語もある。
 「かくして、STAP細胞は生体内(キメラマウスのこと)で、胚細胞系列のみならずすべての体細胞系列の細胞に分化するという発生学的な能力を持っている。」
「考察」の末尾はこうなっている。
 「かくして、われわれの結果は、多細胞生物における多様な細胞の状態の生物学的な意味について、新しい照明を与えるものである」。
 ここには動物の身体の細胞が、ゲーテ草(セイロンベンケイソウ)のように、ストレスによって勝手に自己増殖を始めたら、全身に容易にがんができるだろうとか、ベトちゃんドクちゃんのような「シャム双生児」が容易に出来るだろうという、自説の論理的帰結として生まれるものへの配慮がまったくない。

 「インド大魔術」という稿で指摘したように、世の中に害毒を流すのはこみ入った説明ではなく、素人受けしやすい一般化されたこういう言明である。
 これらの一般命題が真か偽かが問題なのだが、調査委員会は肝心な点で判断をさけた。メディアも「STAP細胞はあるかどうか」という本質的でない質問ばかりしていた。
 これらの命題が偽ならSTAP細胞は存在しないに決まっている。

 MUSE細胞やその実在性について私の知識ではなんともいえないが、慢性骨髄性白血病における染色体異常は線維芽細胞にもあることが見つかっており、「間葉系母細胞」が成体にも存在すること、ここから各種の多潜能幹細胞が作られ、必要に応じて臓器に配分されていることは、最近の幹細胞研究からあきらかだと考える。
 長期腎移植の例では20年も経つと、移植した腎臓の細胞がレシピエントの細胞に入れ替わるという事実がある。(小径腎癌切除後にまれに移植腎に腎がんが発生するが、それはDNA検査によればレシピエント細胞由来である。これが「修復腎移植」の医学的基礎になっている。)

 10億年以上前に、最初の動物性多細胞生物ができた時に、三種類の細胞が必要になった。消化や吸収などに特化した体細胞、子孫を残すための胚細胞、多細胞生物としての統一を保つための「遊走貪食細胞(大食細胞)」である。胚細胞と大食細胞ははじめ一緒で、普段は異物の除去や体内に発生するがん細胞の除去をやり、必要なとき(環境の悪化など)に、胞子や芽胞をつくる生殖細胞に変わっていた。だから大食細胞には再生能力もある。
 ミミズの親戚である紐形動物(線虫)になると、血管系が出現し血球が現れるが、骨髄のような造血部位はなく、浮遊状態で細胞が増殖する。
 このあたりから永続的な胚細胞と血液細胞が分かれる。しかしミミズの再生でも遊走性の大食細胞が関与している。その後、血液細胞は酸素を運ぶ細胞(赤血球)、血液凝固に関与する細胞(血小板)、生体防御に関与する細胞(好中球、リンパ球、肥満細胞)と分かれていくが、基本は「間葉系母細胞」が分化したものだ。だから臓器の「幹細胞」が骨髄中にあっても不思議でない。
 リンパ組織の働きは「免疫系」として、外敵を防ぐ軍隊の役と内部の反乱(がんや自己免疫クローン)を防ぐ警察の役割をしている。それががん化したものが「悪性リンパ腫」で、この研究が多くの血液病理学者の関心を惹くのは、そこに「がんそのもの」を解き明かすカギが潜んでいる可能性が高いからだ。

 「MUSE細胞」論文はこの間葉系母細胞があると主張しているのだから、さほど奇異な主張ではない。後は、十分に実証することだ。ところが、「STAP細胞」はすべての体細胞がストレスにより簡単に、多潜能のある幹細胞になると主張しているので、ことはさほど簡単でない。
 およそ仮説なら何を唱えてもよいというものではない。「科学的仮説」には、K. ポパーがいう、実証性、検証可能性、反証可能性という3つの条件が含まれていないといけない。ところが小保方論文にはこれがまったく含まれていない。これを理研は「科学論文」として、研究者の自由発表にまかせるのか?というのが今回の事件のもうひとつのポイントだ。

 昼のニュースショーで小保方が顕微鏡を覗いている資料映像が出て来た。(テレビを見ないから初見。)立ったまま、眼を接眼レンズから離して中腰で覗いていた。これはアマチュアである。顕微鏡の使い方のトレーニングさえ受けていないのが明瞭だ。
 顕微鏡はまず「瞳孔間距離」(左右の接眼レンズの幅)を合わせないといけない。次ぎに左右の「視度補正」(左目と右眼の焦点距離を同じにすること)をしないといけない。そのために接眼レンズは筒が回転するようになっている。ついで眼を接眼レンズにくっつけないと左右の視野が一致しないから、両眼視ができない。だから観察するには椅子にかけて、眼をレンズにくっつけてのぞき込む必要がある。眼を話すと視野が揺らいで正確な観察はできない。
 扱っている細胞は培養液の中の浮遊細胞だから、ブラウン運動がある。視野が揺らいでは、動いている細胞が正確に観察できるはずがない。
 この動画を見ただけで、彼女の顕微鏡がらみのデータはまったく信用できないと思った。

 理研はこの期に及んでも、<野依氏は自身の責任について「場合によっては私を含む役員全員の責任を明らかにしないといけない」と語った。>(日経)とある。
 2005年の理研論文不正事件の後で理事長に就任し、「科学者の不正」を厳しく糾弾してきた人だ。科学者不正に関する論文などもある。二流政治家みたいに責任を後伸ばしにしないで、「論文撤回」の業務命令を出し、潔く身を引くのが学者の花道だと思う。

 「日本版研究公正局(ORI)」設置の話も、一向に進展しない。が、そういうものを設置して、内部外部からの告発を(告発者を保護して)受け付ける体制をつくらないと、同様の事件はまたどこかで繰り返されるだろう。理研が「STAP細胞」を完全に否定しておかないと、そのうち天才的詐欺師がこれをネタに、欲ボケした老人を相手に、「夢の幹細胞」で大もうけする話を持ちかけて巨額の出資を引き出すというような事件が起こるかも知れない。「理研は重要な国家機密なので、あの時はああいわざるを得なかったが、実は…」というような枕をふれば、大抵は信じるだろう。そういえば、今日はエイプリル・フールか…
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7 コメント

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Unknown (Unknown)
2014-04-01 23:21:02
>理研は重要な国家機密なので

仮説の定義、STAP細胞細胞の自己矛盾、貴兄ネズミのお話大変面白く拝読、私のブログに引用させていただきました。

さて、本日のSTAP最終報告で小保方さんが私物のパソコンを理研内に持ち込んで仕事をしていたとのことで、唖然としました。

パソコンを盗難等で紛失すれば国家機密がバレバレです。
理研のこのような甘い管理体制が今回の大事件を起こしたのだと思います。

STAP現象マスコミ発表は、世界に話題騒然となることは、分かっていたはずで、発表前に野依理事長へのプレゼンテーション及び承認を得ていたはずで、上東大専任教授がおっしゃるようにマルチステップで確認の上にも確認をして発表すべきで、世間を騒がせた野依さんの責任は非常に大きいと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-04-02 13:43:13
浅見真規を正当とかいうと名誉に関わりますよとお伝え下さい
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85:%E6%B5%85%E8%A6%8B%E7%9C%9F%E8%A6%8F
http://www.logsoku.com/r/taiwan/1033010065/
返信する
Unknown (Unknown)
2014-04-02 13:48:53
顕微鏡の点もイチャモンを付けたいだけと思われてますからやめるようお伝え下さい

199 名前:名無しゲノムのクローンさん[] 投稿日:2014/04/02(水) 13:30:45.16
>>195
TV用に撮影した姿を実験中と勘違いする馬鹿がいるとはwww
205 名前:名無しゲノムのクローンさん[sage] 投稿日:2014/04/02(水) 13:33:39.75
>>195
TVや雑誌のは、広報用のやらせ写真・映像だよ
ちょっと実験してるふうに撮りたいんですけどーお願いしますーみたいな
ほんとに実験素人みたいなんだけど、広報用は割り引いて考えてあげてよ
235 名前:名無しゲノムのクローンさん[] 投稿日:2014/04/02(水) 13:40:51.68
>>195
座らなきゃ見れない人は素人だろ・・
プロは中腰でも見れますよ
http://ai.2ch.net/test/read.cgi/life/1396403403/
返信する
エイプリルフール (UCSFデーヴィス校)
2014-04-03 07:02:42
理研の発表内容の方がエイプリルフールなのかもですよ!
難波先生の最初の方の記事(マスメディアが論文著者達に対して中傷を始める前)はとても面白かったです。マスメディアに踊らされず、これからもinsightfulな記事を読むことを楽しみにしております。o(^v^)o 頑張ってください。
返信する
小保方事件には、批判、皮肉が当然!! ()
2014-04-03 10:03:59
元病理医で研究者の端くれですが、

プロの病理医で中腰で見る人はいないですね。
>>195さんは、何のプロやらを意味しているのか?

何事も落ち着いて仕事する時は、中腰では無理ですよ!


まだ、「撮影用だから中腰でいい加減になら」理解できるが!

いずれにせよ、小保方の捏造、ES細胞混入(故意、意図的?)は、確実。
そしてそれを検証しなかった理研は、お取りつぶしになってもおかしくない。

学問をしっかりした人なら、この状況を批判して、嘆くのは当然。
それを、擁護したり、批判意見に対する批判意見を書く人は、トーシーローですね!!

実験の再現性は、1回失敗・99回成功/100回ぐらいの確率でないと。
私は、そのように実験してきましたが。





>>195
座らなきゃ見れない人は素人だろ・・
プロは中腰でも見れますよ
http://ai.2ch.net/test/read.cgi/life/1396403403/
返信する
コピペうざい (コピペうざい)
2014-04-07 23:25:38
8 :名無しゲノムのクローンさん:2014/04/07(月) 22:18:46.12
難波紘二が浅見真規を賞賛
http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/2e073b81a76adaf3bc1587220151118a

浅見真規とは
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85:%E6%B5%85%E8%A6%8B%E7%9C%9F%E8%A6%8F
返信する
Unknown (またまた)
2014-06-06 00:50:19
デービスだけ日本語、、、
返信する

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