ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【シギ立つ沢】難波先生より

2013-02-04 12:15:53 | 難波紘二先生
【シギ立つ沢】福山市のHさんが、シギの写真を送ってくれた。チドリ目シギ科に属する中型の野鳥だが、くちばしと足と足指が長く、水鳥の形態を備えている。「野鳥図鑑」を見ると、尾の先端が赤くないから「オオジシギ」ではなく、「タシギ」ではないかと思う。本物は見たことがない。秋口に日本に渡来する。(添付)


 「シギ立つ沢の何とか」という歌があったなあ、と思うが思い出さない。
 近頃は「出典探し」に時間をとられる。それというのも、「万葉集」、「古今集」、「新古今集」ともにろくな索引がないからである。「発句索引」はあるものがあるが、中句とか動物・植物名に索引がない。昔のひとも今のひとも、脳細胞の数は同じなのに、全部を丸暗記しなければいけなかったので、文学や和歌をやればバカになるはずだ。脳細胞をぜんぶそれに使っちゃうんだから。


 佐佐木信綱(校訂)「新古今和歌集」という、表題が右横書きになっている昭和7年刊行の岩波文庫(今と違いラージブック)まで引っぱり出したがお手上げだ。
 アプローチの方法は二つある。
 ひとつは大型の国語辞典で「シギ」を引き、用例を調べる方法。「百科事典」でもよいだろう。
 もうひとつは梶島孝雄「資料・日本動物史」で「鳥類シギ」の項を見ることだ。


 「広辞苑」で「シギ」を調べたら「シギ立つ沢」も載っていた。電子版なのですぐそこへとべる。
 大磯にある池の名前で、西行法師が「心なき身にもあわれは知られけり しぎ立つ沢の秋の夕暮れ」と読んだ場所だそうだ。
 これが思い出せなかった和歌だ。ところが出典が書いてない。


 「日本動物史」には「新古今集巻四、362」と歌番号まで書いてある。信綱本「新古今集」には歌番号がないから、「秋歌、上下」を全部見た。歌は上手いかも知れないが、編集のセンスがない男だ。


 ついでに、「きりぎりす」を詠んだ西行の歌も見つけた。
 「きりぎりす夜寒に秋のなるままに 弱るか声の遠ざかり行く」
 これは明らかにコオロギを詠んだもので、彼もキリギリスとコオロギを混同していたと知れる。
 しかし、「新古今集」はみな歌が下手だね。これじゃ正岡子規に「貫之は下手な歌詠みにて候」と書かれてもしかたがないだろう。
 (いや、間違いました。紀貫之は「古今集」、「新古今集」は藤原定家らの編纂でした。)


 梶島本によれば、シギの骨は貝塚から見つかるそうで、縄文時代から食料にされていた。
 シギは秋に来る鳥なので、「武家調味故実」という本に「漬けたナスの実をくり抜いて、そこにシギの肉を詰めこむ」という「シギの柴漬け」という調理法が載っているという。京料理に「焼きナスのエビ真薯(しんじょ)」というのがあるが、それと似たような料理だろう。「シギの柴漬け」は天皇も食った高級料理のようだ。
 江戸時代には「不忍池」がシギの名所だったそうだ。
 それにしても「食う楽しみ」を詠った歌がないのはなぜだろう? セックスもないな。
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