この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#790 「愛されたもの」イーヴリン・ウオー作 中村健二・出淵博訳 2

2013年04月10日 | 英米文学

#789 「愛されたもの」イーヴリン・ウオー作 中村健二・出淵博訳 1 より続く。

この本をめくっていて「あれ!」と思った。この本の原題は「The Loved One」というのである。そして作者はEvelyne Waugh.

この小説は私が大学に入学した時に教養課程のクラスの英語の授業のテキストとして最初に使った2冊のうちの1つではないか。なあ~んだ、これだったのか。「愛されたもの」という題では全く聞きなれない小説と思っていたのに、みんなで苦労した小説ではないか。

loved one というのがthe corpse of a deceased person のことも意味ある。に私がたまたま今持っているSlang and Euphemism という本(辞書?)を見てはじめてわかる訳語で、授業の時には、本の題まで訳せと指名されることはないのでそのままになっていた。

教えて下さった先生は、宮部菊男先生だったと思う。ちょっと皮肉っぽくて私達学生はきりきり舞いをさせられた。

私達が教室で教えて頂いたのは1950年代であり、この岩波文庫の本の解説に書いてある同じ両氏による金星堂版の対訳の出版(1969年版)はそれより大分後であり、私達はその恩恵を受けていない。

同じクラスの学生の内、誰がきちんと訳し誰が訳せなかったかなどということは、昔のことなので、記憶に残っていないし、残っていたとしても正確ではないであろう。

しかし、言えることは、先生からの突然の指名や質問に対し首をすくめていた私達に対し常にきちんと答えていたのは、最近まで米国コーネル大学の教授をしておられたKyoko Selden Iriye女史と今は亡き川守田莞璽氏などである。この人達は英語の実力もあり丁寧に予習をしていて私達の心強い防波堤になってくれていたような気がする。

それ以外にも英語の実力も十分にあり余裕をもって授業に出た学生たちは多かったことであろうが、私は自分では授業中おろおろしていたので、他の諸君も同じだったのではないかとつい考えてしまう。

私達のクラスからは後に著名な学者になった人達もいる。これらの人たちはどうだったのか。今は私のの記憶の外と言っておくのが無難であろう。それに残念ながら今は故人となって反論のできない人達もいる。

今は亡き広松渉氏氏(元東大教授、哲学者)同じく今は亡き坂部恵(元東大教授、哲学者)なども同じクラスでこのテキストで苦労した仲間ではなかったろうか。いや、共に楽しんだ仲間というべきなのかも知れない。(笑)でもちょっと?嘘になるかも。(笑)

健在の免取慎一郎氏(元山梨大教授 哲学者)はどうであったろうか。真面目な学生だったから、きっと予習をきちんとやって、先生ともうまく受け答えをしていたのだろう。現在、古代ギリシャ語を苦もなく読んでいるようである。

その後、英米文学でメシを食うようになった古平隆氏(元 東洋大教授 英米文学者)はどうだったろう。そんなこと俺に聞くだけ無駄だよ、言うかも知れない。

聖書の真実を証明してくれると私達クラスメートに宣言していた 常葉謙二氏(元熊本大教授)は、この授業中どうだったろうか。(いかにも東京の坊ちゃんという感じだった同氏は今やすっかり熊本の人である。)

学園祭ではシナリオを自ら書き、クラスメートの多くを指揮して演劇を上演し、後に映画監督になっていろいろな問題作品をつくった中島貞夫氏などは教室に現れていたのだろうか。

dateという英語が男女が約束して会うことだと覚えたのは、このテキストによってではないかと私は思っている。あるいは記憶違いかもしれないが。東京出身の学生は知っていたようだ。私のような田舎出身の学生は、はじめて聞く言葉であった。

このテキストは小説の筋からして私にはむつかしかった。何を言っているのかわからなかった。今でも訳書を読んでいてもすぐには筋を追っていけない。それに登場する男女との雰囲気がよくわからない。

半世紀まえに使ったテキストを私はどういうわけか今でも自分で持っているはずだ。と思い今家の中を探しているのだが、整理が悪くまでみつけられていない。

なぜ,持っているはずだと言えるかというと、今から10年あまり前に、川守田氏と私がこのクラスのクラス会の幹事をした時、余興として彼と私とがテキストを持って行って、みんなに数行づづ訳してもらったことがあったからだ。

その結果は?言わずもがなということであった。

頭の鋭くよく切れ、繊細な出淵博氏などが訳すのはもってこいの小説ではなかったろうか。またちょっと皮肉な?宮部菊雄先生が受験勉強が終わったばかりの新入生の頭を鍛えるのに、また大人の頭に鍛えるのによい教材だったのかも知れない。

出淵夫人のご手配で送って頂いた中村健二、出淵博氏の共訳の新版になるこの本を見ながら、私はいろいろな懐かしい昔のことを楽しく思い出した。 (おわり)

画像:筆者撮影

 

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