二軒目も筋書き通りに「銀次」の暖簾をくぐりました。何度も通うにつれてマンネリズムの域に達した感があるのは、「中央酒場」と全く同様です。マンネリズムの中に新たな発見があるということも。
新たな発見とは、この店の真骨頂というべき古びた味わいのある日本家屋が、実はそれほど立派なものではないということです。例えば梁と柱は頼りなく、カウンターは薄い一枚板、天井から下がるのは裸電球で、つい先日訪ねた松本の「しづか」と比べれば、その違いは歴然としています。要は静岡の「多可能」などと同様、戦後の貧しい時代を偲ばせる建物ということで、少なくとも重厚であるとか威風堂々といった形容はこの建物に似合いません。
もっとも、ただの安普請なら現代まで残ることなどおそらくなかったわけです。古い建物には、丈夫に造って永く使い続けるという我が国古来の美徳が体現されており、現代の建物には考えられない手間と暇が注がれています。その一端を示すのが、窓にはめ込まれた木のサッシを上下に隔てる横桟です。何が心憎いかといえば、桟の高さが皆揃っており、間口から壁際を通って奥の座敷のガラス戸に至るまで、あたかも一本の細い帯が建物を囲んでいるかのように見えることです。これは、建具の上端下端の位置にかかわらず、横桟だけは全て同じ高さになるよう一つ一つ設えているということでもあります。現代の建物で、これほど凝った造りをしたものがどれだけあるのでしょうか。
間口の脇に張り出した揚げ場の窓は、正面ばかりか側面まで開閉するように造られており、細部の造りにも妥協しない職人気質がありありと感じられます。風格を感じるのが「しづか」の建物だとすれば、古い日本家屋の風情と情緒に満ちているのがこの建物とはいえないでしょうか。一度足を運んだだけでは、こんな細々したことにもおそらく気付かなかったのですから、マンネリを承知で通った甲斐はあったようです。
盛りを過ぎたといっても、外の蒸し暑さはかなりのものです。しかし草むらでは秋の虫が大合唱をしています。あと少しすればこの大きな窓が開け放たれ、吹き込む夜風とともに虫の声が聞こえてくるでしょう。そんな季節に一度はここを再訪してみたいものです。
★銀次
横須賀市若松町1-12
046-825-9111
1600PM-2300PM(第四土曜除く土日祝日定休)
酒二合
お通し(糠漬け)
カツオさしみ
にこみ
ぬた
新たな発見とは、この店の真骨頂というべき古びた味わいのある日本家屋が、実はそれほど立派なものではないということです。例えば梁と柱は頼りなく、カウンターは薄い一枚板、天井から下がるのは裸電球で、つい先日訪ねた松本の「しづか」と比べれば、その違いは歴然としています。要は静岡の「多可能」などと同様、戦後の貧しい時代を偲ばせる建物ということで、少なくとも重厚であるとか威風堂々といった形容はこの建物に似合いません。
もっとも、ただの安普請なら現代まで残ることなどおそらくなかったわけです。古い建物には、丈夫に造って永く使い続けるという我が国古来の美徳が体現されており、現代の建物には考えられない手間と暇が注がれています。その一端を示すのが、窓にはめ込まれた木のサッシを上下に隔てる横桟です。何が心憎いかといえば、桟の高さが皆揃っており、間口から壁際を通って奥の座敷のガラス戸に至るまで、あたかも一本の細い帯が建物を囲んでいるかのように見えることです。これは、建具の上端下端の位置にかかわらず、横桟だけは全て同じ高さになるよう一つ一つ設えているということでもあります。現代の建物で、これほど凝った造りをしたものがどれだけあるのでしょうか。
間口の脇に張り出した揚げ場の窓は、正面ばかりか側面まで開閉するように造られており、細部の造りにも妥協しない職人気質がありありと感じられます。風格を感じるのが「しづか」の建物だとすれば、古い日本家屋の風情と情緒に満ちているのがこの建物とはいえないでしょうか。一度足を運んだだけでは、こんな細々したことにもおそらく気付かなかったのですから、マンネリを承知で通った甲斐はあったようです。
盛りを過ぎたといっても、外の蒸し暑さはかなりのものです。しかし草むらでは秋の虫が大合唱をしています。あと少しすればこの大きな窓が開け放たれ、吹き込む夜風とともに虫の声が聞こえてくるでしょう。そんな季節に一度はここを再訪してみたいものです。
★銀次
横須賀市若松町1-12
046-825-9111
1600PM-2300PM(第四土曜除く土日祝日定休)
酒二合
お通し(糠漬け)
カツオさしみ
にこみ
ぬた