日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

京浜沿線はしご酒 2013初秋

2013-08-24 20:46:59 | 居酒屋
二軒目も筋書き通りに「銀次」の暖簾をくぐりました。何度も通うにつれてマンネリズムの域に達した感があるのは、「中央酒場」と全く同様です。マンネリズムの中に新たな発見があるということも。

新たな発見とは、この店の真骨頂というべき古びた味わいのある日本家屋が、実はそれほど立派なものではないということです。例えば梁と柱は頼りなく、カウンターは薄い一枚板、天井から下がるのは裸電球で、つい先日訪ねた松本の「しづか」と比べれば、その違いは歴然としています。要は静岡の「多可能」などと同様、戦後の貧しい時代を偲ばせる建物ということで、少なくとも重厚であるとか威風堂々といった形容はこの建物に似合いません。
もっとも、ただの安普請なら現代まで残ることなどおそらくなかったわけです。古い建物には、丈夫に造って永く使い続けるという我が国古来の美徳が体現されており、現代の建物には考えられない手間と暇が注がれています。その一端を示すのが、窓にはめ込まれた木のサッシを上下に隔てる横桟です。何が心憎いかといえば、桟の高さが皆揃っており、間口から壁際を通って奥の座敷のガラス戸に至るまで、あたかも一本の細い帯が建物を囲んでいるかのように見えることです。これは、建具の上端下端の位置にかかわらず、横桟だけは全て同じ高さになるよう一つ一つ設えているということでもあります。現代の建物で、これほど凝った造りをしたものがどれだけあるのでしょうか。
間口の脇に張り出した揚げ場の窓は、正面ばかりか側面まで開閉するように造られており、細部の造りにも妥協しない職人気質がありありと感じられます。風格を感じるのが「しづか」の建物だとすれば、古い日本家屋の風情と情緒に満ちているのがこの建物とはいえないでしょうか。一度足を運んだだけでは、こんな細々したことにもおそらく気付かなかったのですから、マンネリを承知で通った甲斐はあったようです。

盛りを過ぎたといっても、外の蒸し暑さはかなりのものです。しかし草むらでは秋の虫が大合唱をしています。あと少しすればこの大きな窓が開け放たれ、吹き込む夜風とともに虫の声が聞こえてくるでしょう。そんな季節に一度はここを再訪してみたいものです。

銀次
横須賀市若松町1-12
046-825-9111
1600PM-2300PM(第四土曜除く土日祝日定休)

酒二合
お通し(糠漬け)
カツオさしみ
にこみ
ぬた
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京浜沿線はしご酒 2013初秋

2013-08-24 19:17:21 | 居酒屋
結局思ったほど気温は上がらず、これ幸いと電車を乗り継ぎ横須賀に繰り出しました。
都内にも数多ある名酒場を素通りして横須賀へ通う理由は、大きく分けて三つあります。決して広くはない市街に名大衆酒場がひしめく独特の文化によるところが一つ、真打ちである「銀次」に立ち寄る機会が第四土曜に事実上限られ、かえって目標を絞りやすいというのが一つです。そしてもう一つの理由は、横須賀への行き来が小旅行にも似て、貴重な休日を一日費やすにはふさわしいということにあります。山と湾とに挟まれた、商港とも工業港とも違う軍港独特の雰囲気がよく、大きな連続窓とクロスシートを奢った京急電車に揺られるのもまた楽しみのうちなのです。
このように、横須賀を訪ねる楽しみとは、ある程度まで定型化されており、立ち寄る店はもちろんのこと、注文の順序までほぼ決まっています。最初に立ち寄るのはもちろん「中央酒場」であり、酒は中生とホッピー、肴は刺身、煮込み、天麩羅に一品料理といった具合で、これらの点に関する限り何一つ目新しいものはありません。マンネリズムを楽しむのが目的なのですからそれでよいのです。

もっとも、マンネリズムの中にも新しい発見が一つや二つはあるものです。今回改めて感じるのは、厨房と客席の一体感とでもいえばよいでしょうか。例えば都心の名酒場では、厨房と客席は小窓で仕切られており、料理人は小さな暖簾の向こうで黒子のように動き回るのが常で、「升本」「みますや」「三州屋」に「大越」など、有名どころはことごとく同様の造りをしています。それに対して横須賀の大衆酒場は、現代流にいうならオープンキッチンを基本としており、料理人と接客のおばちゃんとが織りなす一糸乱れぬチームプレーが目の前で繰り広げられます。中でもこの店では、決して広くはない店内で、大勢の料理人とおばちゃん達がせわしなく立ち回っており、その様子を観察するだけでも酒の肴になること請け合いです。
それとともに感服させられるのが隣客の立ち振る舞いです。本日右隣に座った三厘刈りの一人客は、席に着くなりホッピーと鰺のなめろうを注文。品書きには刺身とたたきがあるだけで、なめろうの文字はありません。要は裏メニューがあるということで、そうと知らずに刺身を頼んだ自分は軽い敗北感を覚えました。ポロシャツに短パンの出で立ちで首には手拭いを掛けた、一見すると銭湯帰りのような出で立ちで現れ、事もなげに裏メニューを頼むというのがたまりません。
カウンターを見渡しても、皿をいくつも並べてだらだら呑んでいる客は一人もおらず、皆一品二品の肴を広げ、それぞれに独酌を嗜んでいるようです。洋食に「テーブルマナー」なるものがあるように、独酌には独酌の流儀があり、当地の酒呑みはことごとくその事理をわきまえています。横須賀の酒文化の奥深さを改めて実感する光景です。

中央酒場
横須賀市若松町2-7
0468-25-9513
1000AM-2230PM(日祝日定休)

キリンラガー・ホッピー
あじ刺身
牛すじにこみ
めごち天ぷら
なすやき
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