日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

ふらり旅 いい酒いい肴(3)

2013-08-13 23:05:08 | 居酒屋
先日教祖による新番組に思い切り苦言を呈しましたが、どうやらこの番組に対する見方を若干修正する必要がありそうです。これは、前回苦言を呈した旅番組・グルメ番組特有の姑息な演出が形を潜めた一方、番組開始当初から感じていた違和感の正体が解りかけてきたということでもあります。

まず、教祖がカメラ片手にはしゃいだり、店主の発言にいちいち字幕を被せたりといった姑息な演出については、そのとき引き合いにした高知の回があまりにひどすぎたということであり、その他の回についてはここまで目に余る場面はないということが分かってきました。そうした中で改めて気づくのは、紹介される酒場がどれも粒ぞろいだということです。
たとえば「酒場放浪記」に登場する店の中には、何の変哲もない町中の酒場が少なからぬ割合を占めます。自ら足を運んでみたいと思う店が現れるのは、ざっと一、二ヶ月に一回程度といったところでしょうか。その点、教祖が紹介する店の多くは、一目で分かる存在感を放っています。店内の造り、品書き、酒器と食器、さらには店主と女将の立ち振る舞いを眺めるだけでも酒が一合呑めそうだということが、画面越しにもありありと感じられるのです。藤沢の「酒肴彩 昇」に会津若松の「鳥益」など、「全国居酒屋紀行シリーズ」には登場していない店を中心に紹介するところにも独自性があります。前座の長々とした観光地めぐりはともかくとして、酒場の雰囲気を味わう向きには、この番組もあながち悪くはないということに今更ながら気付きました。

しかし、それでもなお、この番組を手放しで賞賛することについては抵抗があります。それは、酒や肴を執拗に映したり、酒場の映像にかすんだようなフィルターを入れたりといった、番組開始当初から一貫している演出が、いかにもグルメ番組然としているからです。そして、このような視点こそ、この番組に対して抱いていた違和感の正体なのだということが、最近になってようやく解りかけてきました。
私が教祖を信奉するのは、酒場の真髄である「居心地よさ」を文字だけで描ききるところに、月並みなグルメ雑誌と別次元の奥深さを感じるからに他なりません。そこに貫かれているのは純然たる酒呑みの視点であり、「全国居酒屋紀行シリーズ」も同じ視点で取材されたものといってよいでしょう。ところが、この番組の視点は見事なまでにグルメ雑誌のそれです。開始当初、この番組を「ひとり旅 ひとり酒」の映像版と評しましたが、今ではむしろ”dancyu”の映像版でも見ているような気分になります。違和感が残るのはそのせいなのだろうと分析している次第です。
先日絶賛した新連載の「居酒屋を旅する」では、従来通り酒呑みの視点が貫かれて違和感なく楽しめるのに対し、より万人受けする視点から構成されたこの番組は、やはり自分の趣向に合ったものとはいえないようです。とはいえ、一時の眉をひそめるような軽薄さは改善され、見るに堪えない代物というわけでもなくなってきました。あくまで情報番組の一種と割り切り、過剰な期待を抜きにして付き合うのが、妥当な落としどころになるかもしれません。
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