星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

西コース 松竹大歌舞伎(2)義経千本桜 観劇メモ

2011-09-11 | 観劇メモ(伝統芸能系)
観劇前に製作発表会見をTVで見た。
この舞台は仁左衛門さん独自の台本であること。特に登場人
物の説明は権太ひとりに絞っているのでわかりやすいこと等、
内容はほぼ「歌舞伎美人」に書かれている通り。
そして、仁左衛門さんはこんなことも言われた。
「一昨年の巡業が終わってすぐ、この巡業は私のほうから申
し出ました。全力を注ぎます」。
「観に来てくださった人の心は必ずとらえるつもりです」。
また「ゴンタ」の意味については、ただ悪いヤツということ
ではなく、関西では、憎みきれないところも含んだ表現であ
ることも説明しておられた。
「私は技術ではなくハートで伝えたいんです」とも。

はい。まんまととらえられた一人でございます。
今年もガシッと鷲掴みにされちゃいましたよ。



二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
下市村茶店の場
同  釣瓶鮓屋の場


いがみの権太:片岡仁左衛門   主馬小金吾:片岡愛之助
若葉の内侍:市川高麗蔵     弥左衛門:坂東彌十郎
お里:片岡孝太郎        お米:坂東竹三郎        
梶原景時:坂東薪車       若葉の内侍:市川高麗蔵
弥左衛門:坂東彌十郎      
弥助実は平維盛・小せん:片岡 秀太郎


話の流れ、演出は東コースのときと同じ。ほぼ前回の観劇メモ
に書いた通りだと思う。そのときはお芝居そのものに入り込み
ダダ泣きしてしまった。
そして今年。涙しながらも、最前列ではさすがに役者さんの表
情がよくわかる。そこで今回初めて気づいたことなどをメモし
ておこう。

<いがみの権太という人物>
仁左衛門さんの権太は前よりゴンタ度がいちだんと増し、さら
にわかりやすくなっている。まるで身近な誰かがモデルなので
はないかと思うほど権太像をイキイキと演じておられる。
目の前の権太を見ながら、何度も自分の中学時代のある同級生
を思い出しては「いてるいてる、こうゆう子」と思った。
ミョウに郷愁を覚える権太なのだ。

権太のゴンタぶりを思い知ることになるのが、小金吾とのやり
とり。ここで思いっきり小悪党ぶりを披露しておいて、次に見
せるのが妻子への深い愛情。
この意外性というか落差にまずコロッとなる。権太を憎めない
一番の理由がここなんだと思う。
そこへもってきて、平維盛と妻子を差し出す一件で「やっぱり」
と思わせ、観客に揺さぶりをかける(笑)。
それを受けての、もどり。身代わりに自らの妻子を差し出して
までの忠義、いや、やっぱり父親への思慕の気持ち。
ほんまに面白い!

●子供とのやりとり
我が子が持って遊んでいる入れ物に目をつけ、「お前、ええの
持ってんなあ!」とサイコロを出してツボ振りを指南するとこ
ろ。この日の善太郎くん、サイコロが先に飛び出してしまい、
うまくいかなかった。「お、もう1回やってみぃ」。再トライ
も失敗。「もっかい!こうしてな、そうそう」みたいなやりと
りがほんとに微笑ましかった。

母親に耳打ちされ、おんぶして、と父親にねだるときの善太郎
くんの顔、リアルにお父ちゃんスキスキという表情をしていた。
おんぶされてからのこれまたかわゆらしいこと!

そういえば、女房を振り返らせる作戦。今回は後ろから着物の
裾をふんでいた。
秀太郎さんの小せんが今さら恥ずかしそうに、あほらし、とか
言いながら権太をいなすところが色っぽくて好き。

●妻子を見送る場面
詮議の場面。
ちなみに梶原景時は今回、薪車さんだった。前回は愛之助さん
が二役。薪車さん、台詞に重みがあり、ことのほかいい味を出
しておられた。

首実検の後、若葉の内侍と六代君のオモテを上げさせる場面。
つらあげんかい!と足を使いつつ、堪える権太にぐっとくる。
(ここ、動きを静止して歌舞伎的な見せ場にもなっている。)
松明が目にしみるなあ~と目をしばたたかせる辺りから、ます
ます気になる権太の所作。

連れて行かれる若葉の内侍と六代君。
実は身代わりにした自分の妻子。
花道と本舞台とに分かれ、おたがいに目だけでやりとりする
無言の別れ。善太郎は首を横にふっている。
最前列で見ていると、この辛い場面がいっそう長く感じられて
重苦しかった。
褒美にもらった陣羽織をかぶったまま床に突っ伏し、体が震え
ているところは仁左衛門さんならでは。

そのあと門口まで飛び出してくる権太のことが、一昨年の観劇
メモに書かれていないのはなぜだろう?
今年はこの場面が一番泣けた。
梶原の家臣に向かって「褒美の金、たのんまっせー!」と叫ん
でいるように見せかけ、実は背中を見送っていたのか、権太は。
もう一度「たのんまっせ」と繰り返す声は沈んで小さく・・・。
仁左衛門さん、あ、いや、権太の両の目からは本当に涙がポロ
ポロ流れてきており。それを見てますます泣けてしまった。

●笛握る手
一行を見送った後、ついに弥左衛門が権太を刺す。
この場面では、彌十郎さん演じる弥左衛門おやっさんに泣かさ
れた。特に孫のことを語る台詞。
その善太郎が茶店で持っていた笛。「なんやこれ。またええの
買うたるから」と取り上げてあったのを、維盛ら親子を呼ぶ時
に使うのだけれど、今回はじめて気づいたのは、最期の場面。
いよいよの断末魔。
権太が手を合わせたてのひらの中におさまっていたのが、この
善太郎の笛だった。(それを見てまた涙。)

最後の瞬間に苦しみから解放されたのか、苦痛にゆがんで合掌
していた権太がフッと得も言われぬ笑みを浮かべた。
そのお顔のなんと美しいこと。下手から見ると鼻筋がすっとし
ていてまるで菩薩さまのように見えた。
私自身、さっきまで重かった気持ちがこの瞬間に消えて、救わ
れた気がした。権太に泣かされ、権太に救われた。
すし屋を観てこんな気持ちになったのは初めて。
観る席が変われば、見える芝居風景が違う。
「好色一代男」につづき、またまたそれを実感したのだった。


<小金吾 ふにゃにゃメモ>
前髪の小金吾が出ている場面は、ふにゃにゃにゃにゃ~とトロ
けていたので今回は観察を怠りましたっ。

やはり、あの場面。
権太に二十両のことで盗人扱いされるところで「くすねたであ
ろう」とネチネチ言われ、みすみすかたりと知っていながら相
手の言う通りにするのは「くちおしゅうござりまするーーーっ」
と涙を振り絞る台詞はまさに心に突き刺さるように響いた。
小金吾が投げ出した二十両を「やっぱり持ってたやないか」と
返す権太の満足げな顔。ここでほんとに悔しそうに睨む小金吾
がねー、ふにゃにゃにゃにゃ~たまりません。

この封印に覚えがあるとか、もうちょっとで盗られるとこだっ
たとか、その後もしつこくブチブチいう権太にいちいち反応す
る小金吾。
下手側の私の席からは、何度もこちらを向いて権太を睨み返す
小金吾のお顔が見られ、まるで自分がイジメているような錯覚
に陥り、気の毒やらうれしいやら。(ん?願望なのか?)
その時の目が充血して真っ赤になっているのか、それとも目元
の化粧なのか、オペラグラスで確認したい衝動に駆られながら
我慢した。

その代わり、横たわっている時にこっそり・・・。
一度目は松之助さん演じる猪熊大之進と斬り合う場面。
大之進に刺されて仰向けに倒れた小金吾。花道で見得をきめた
大之進(松之助さん、迫力ある!)が再びトドメを刺しに戻る
ところ、じっと目をつむって死んだように見えた小金吾が、ト
ドメを刺される寸前に相手に刀を向けるのだ。
ここ、絶妙のタイミングだった。目をつむったままで相手が刺
す瞬間がどうしてわかるのか?

二度目は大之進を討ち果たした後、深傷を負ってまたまた仰向
けになったところ。
今だ!と再びオペラグラスでチェック♪
目を閉じて横たわる小金吾の左横顔は、あの染愛のポスターの
数馬そのもの。白くて、目尻に紅がひかれ、い、い、いやっ、
なんて美しいんだろう。
ふにゃにゃにゃにゃ~(以下自粛)。

そうそう。あの台詞も聞けた!
若葉の内侍に抱き起こされ、六代君にしっかり伝えるところ。
「貴方様は御台様を伴い神谷の宿という所に行き、女人禁制の
山なれば
御台様を残し置き、人を頼んで山へ登り・・・」。
(青文字が補足した台詞)

ああ、この忠節の気持ちがあるのなら、少しでも早く茶店を
出ていれば。権太なんかにかまわずさっさと発っておけば追手
にも遭わずにすんだのだよ~。
かたりの餌食になり、追手には斬られて死にゆく、未熟者で若
い前髪の小金吾。無惨だけれど、悲惨ゆえに美しい最期に涙。
ファン的にはたまらないひとときであった。

<ご開帳のこと>
下市村茶屋の場。
冒頭で村人たちがご開帳の話をしていることに今回初めて気
がついた。立て札にも「當山 ご開帳」とあった。
これは10月に仁左衛門さんが連獅子を舞われることになって
いる吉野山・金峰山寺の蔵王堂に安置されている蔵王権現様
のご開帳のことを言っているのだと思う。
それなら人通りも多く、権太のような人間が手ぐすねを引いて
待ち伏せているだろうと容易に察しがつく。
下市町にある、いがみの権太のお墓にいつか行ってみたい。

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愛之助さんの小金吾 (瑠衣)
2011-09-11 23:18:38
花横3列目で見ましたが、若葉の局と鳥屋口からでて来られる、本当にフニャフニャになりますね、笑い。

私は金丸座で一度だけ見た愛之助さんの弥助がもう一度見たいです。柔らかみのある美しさでした。

仁左衛門丈の権太、演じられるごとに芝居が深く、情も深くなりますね。今年で4回目、次は何時見れるのか?どう変えられるのか?楽しみです。
返信する
瑠衣さま♪ (ムンパリ)
2011-09-12 01:25:02
花道、前方席を中心にふにゃにゃ~となってた人多し(笑)。

> 愛之助さんの弥助がもう一度見たいです。
それを見てないんですよ、わたし。
お里ちゃんに旦那様指南される場面、想像つかないな。
番付によれば、お里役も演じてるみたいですね。

仁左衛門さまの権太は見ていて飽きないですね!
次回見たら、また違うお芝居になっているんでしょうか。
関西以外では権太はどんなふうに受け入れられているんでしょうか。
ちょっと気になりますね。
返信する
お里ちゃんも可愛かった (瑠衣)
2011-09-12 22:51:00
仁左衛門丈襲名披露の巡業の時ですね、たしか。この頃はまだ女形をされるほうが多かったですから。花魁なんて本当に綺麗でした、が、御本人は性格的に立ち役があっておられたんでしょうね、きっと。

お里ちゃんに旦那様指南されている時、お里は孝太郎さんでしたが、ほんまに「じゃらじゃら、いちゃいちゃ、しくさってからに」と権太が言うとおりの新婚さんのいちゃつきぶりの御指南でしたよ、笑い。

2代目松緑丈のを一度だけ見ましたが、江戸弁の権太はやはり違和感が大きく「何やってんのやろ」と思いました。弁慶や富樫をされると先代や当代団十郎よりも素晴らしかったですが、権太は情も何も感じられない権太でしたね。
当代幸四郎丈も何度かされてますが、TVでしか見た事は無いですが、ただセリフを両手を震わせながら様式通りに喋って居られるだけのように思いました。
返信する
北九州 (sasa)
2011-09-13 13:57:26
北九州の夜の部を観てきました☆
…が、1階の前半分くらいしか席が埋まらず、役者さんに申し訳ない感じでした(涙)

私は上手最前列だったので、横たわる小金吾の右横顔にトロケました(笑)
あと、舞台が低かったので、じっと目を閉じて死んだように見えた小金吾の胸部が呼吸で大きく上下してるのも見えました☆(かなり長い立ち回りでしたもんね)

余談ですが…。
快晴のこの日、始まる前に会場裏手の道をぶらぶら歩いてたら、敷地内裏手にロープを張った簡易物干しがあり、大量の洗濯物がユラユラ(笑)
松嶋屋柄の浴衣や衣装やTシャツなどなど☆
旅の一座っぽくて思わずガン見してしまいました(笑)
返信する
瑠衣さま♪ (ムンパリ)
2011-09-13 17:49:50
> 仁左衛門丈襲名披露の巡業の時

きゃ!お里ちゃん♪
「義経千本桜 釣瓶鮓屋の場」で仁左衛門さん出演の
舞台映像が衛生劇場で放送されないかしら?
巡業の映像は難しいかもしれないですね。

> 新婚さんのいちゃつきぶりの御指南でしたよ
やっぱり、ええ感じなんでしょうね。孝愛コンビは。

江戸風と上方風がこれほど違うとは!
歌舞伎ってやっぱり、いろんな舞台を見ないといけませんねー。
返信する
sasaさま♪ (ムンパリ)
2011-09-13 17:50:11
> 横たわる小金吾の右横顔にトロケました(笑)
おお、そちらはポスターとは逆サイドなので貴重かも
しれませんよ。うふ。
そうですか、やはり巡業だと夜の公演はなかなか
満席というわけにはいかないようですね。

> 旅の一座っぽくて思わずガン見してしまいました(笑)
ほほう~、それはええもんをご覧になりましたねー。
お芝居の原点みたいなにおいがします。
観劇がいっそう楽しくなりますね~♪
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