星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

東コース 松竹大歌舞伎(3)義経千本桜 観劇メモ

2009-08-02 | 観劇メモ(伝統芸能系)

二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
  下市村茶店の場
  下市村釣瓶鮓屋の場

茶店 
いがみの権太/片岡 仁左衛門     主馬小金吾/片岡 愛之助
若葉の内侍/市川 高麗蔵       猪熊大之進/坂東 薪車
弥左衛門/坂東 竹三郎        小せん/片岡 秀太郎

すし屋
いがみの権太/片岡 仁左衛門     お里/片岡 孝太郎
梶原景時/片岡 愛之助        若葉の内侍/市川 高麗蔵
米/市村 家橘            弥左衛門/坂東 竹三郎
弥助実は平維盛・小せん/片岡 秀太郎



釣瓶鮓屋の総領息子ながら、素行が悪くて勘当を受けたいがみの権太は、
今日も旅人を騙して金を巻き上げる。実はこの旅人は平維盛の妻の若葉
の内侍と子の六代、そして家臣の主馬小金吾だった。権太の妻の小せん
は、そんな夫の振る舞いをなじるが、権太は耳を貸そうとしない。
やがて若葉の内侍たちに源氏の追っ手が迫り、囲まれた小金吾は息絶え
る。ここへ通りかかった釣瓶鮓屋の主の弥左衛門は、何を思ったのか、
小金吾の首を刎ねて、これを持ち帰る。

一方、釣瓶鮓屋では、奉公人の弥助が娘のお里に婿入りすることとなる
が、弥助こそ平維盛で、維盛の父から受けた恩に報いるため弥左衛門が
匿っていた。しかし、維盛が生きていることを知った源氏の武将梶原景
時は、維盛の首を差し出すよう命じる。
権太はこの話を聞くと、金儲けになるとお里が止めるのも聞かず駆け出
して......。
愛嬌ある悪党が心を入れ替えようと起こした行動が、逆に悲劇となって
しまうという、涙を誘う物語。

(歌舞伎美人より引用)

↑ 観劇メモ(2)のチラシと入れ替えました


観劇メモ(2)からのつづきです。

平維盛をめぐる市井の人々の動きや葛藤がとても人間臭いお話。
これって2つの取り違え事件が軸となってドラマが展開するんだよね。
1つは権太と小金吾の荷物の取り違え。
2つめは、すし桶に隠した「金」と「首」の取り違え。
ワタシ的に強く印象に残ったのは、権太のウソ涙とホンモノ涙の対比。
ウソ涙では思いっきり笑わされ、ホンモノ涙ではいっぱい泣かされた。

●権太 VS 小金吾
茶店で休息をとる若葉の内侍と六代君、家臣の小金吾。
茶店の女房(小せん)の息子が遊ぶのを、小金吾はニコニコ見ている♪
愛之助さんの小金吾は顔が白く前髪で、長い髪は束ねて後ろに垂らし
ている。武士としての気概はあるがどう見ても世間知らずな雰囲気。
声は高めで、「染模様~」の数馬のような感じ。

そこへやってきた権太。悪知恵の固まりのような抜け目ない男。
我が女房の小せんが薬を買うため、店を空けた合間のデキゴトだ。
旅人になりすました権太が荷物をすり替えて立ち去る。あとから気づい
た小金吾が、うかつにも紐をほどいて中を見てしまう。
荷物を間違えたと、戻ってきた権太が中身をあらため、叫ぶ。
「二十両がない!」
くすねたな、くすねたであろう・・・以下ネチネチ、ネチネチ。
(まるでイジメの世界だよ~。)
権太の策にあっさりはまり、やる術もない小金吾。思わず刀に手をかけ
るのを内侍が止める。なおも向かってゆく小金吾に、尻モチついた権太
が体の前で足を突き出し、制止する。
二人の緊迫感あるやりとり。
そこへ義太夫の声がかぶる、「二十両~っ!!」
小金吾、ついに観念するも気持ちはおさまらず、手で涙をぬぐっている。
かたりと知りながら、みすみす二十両を渡さねばならないとは
「くちおしゅう~ございま~す~る~」
小金吾の高い声がさらに高くなり、振り絞るような泣き叫ぶような声が
長く響き渡った。
私も口惜しい~~~と心で叫びながらフト見ると、権太はニヤニヤ笑っ
ている。ホンマに憎たらしい!
二十両をもらった途端「やっぱり盗ってたやないか!」とまたニヤニヤ。
イチイチ神経を逆撫でする憎々しげな台詞、口調、目つき。
お見事でございます♪

●権太と女房、息子
権太がひと仕事すませた後の親子の場面が好き。
手をとった息子の手が冷たくて、自分の頬にあてるところ。
頭をなでたり抱きすくめたり、せがまれておんぶしたりと親子のスキン
シップがいっぱい。
この時に息子から拝借した「笛」がのちの伏線に。
花道去り際の小せんとのじゃらじゃらもエエ雰囲気♪
事前に勘三郎さんの舞台の録画を見たけれど、会話の内容が違ってた。
言葉は正確じゃないけれど、今回のはこんな感じ。
「お前、ちょっと見いへんうちになんやみずみずしいなったなあ」
「なにを言うてんの、あほらし」
「こっち向いてみい」「いやや」
「ほなこっち見るなよ」と後ろから着物の裾をめくる。
ビックリして振り向いた小せんに「あ、こっち向いた!」
こういう役の秀太郎さん、はんなりと色香が漂うよう。
自分が身を持ち崩したきっかけの恋女房、その息子。
夫婦親子の情が通い合う場面、気持ちがホンワカ~となった。

●小金吾の討死
踏んだり蹴ったり。一難去ってまた一難。
今度は小金吾が源氏の追っ手に追われ、手負いのためフラつきながら登場。
前髪のザンバラ頭が哀れ。(でもちょっとときめく♪ ←やっぱりS?)
薪車さん演じる猪熊大之進に討たれ、それが致命傷に。
この場面は立ち回りの見せ場が満載。
追っ手たちが縄で蜘蛛の巣状態に作り上げてゆき、その上に小金吾が
乗ってぐるぐる~、もある。
小金吾の最期。
側に付き添う若葉の内侍と若君。息も絶え絶えに若君に伝えるのが、
先日の愛之助さんの講演会で触れられていた台詞だ。
「貴方様は御台様を伴い神谷の宿という所に行き、女人禁制の山なれば
御台様を残し置き、人を頼んで山へ登り・・・」
なぜ御台様を残し置くのか、その理由を補足した言葉。
女人禁制は「にょにんきんぜい」と濁って発音しておられた。
最期まで家臣として主君への忠節を尽くす言葉、しっかと受け止めたぞよ。
小金吾どの~(涙)。
愛之助さん、気持ちがこもったいいお芝居だった。

●権太と母
実の母親を頼って金の無心に来る権太。
身内にも「いがみの権太」の手の内はバレているようだ。
そこで母親から金をせしめる権太の嘘八百が見もの。
年貢の金を盗られて死ぬしかないと泣く、ウソ涙には笑わされた~。
顔をゆがめ、目をしばたたかせ、必死の形相で涙を出そうとするも出ず、
わざわざ座敷に上がって葉の露をもらい顔につけるという細かさ!
(ちなみに勘三郎さんの時は湯のみ茶碗のお茶だった。)
ウソ泣きしながら母親に抱かれている顔もかわいい~♪
ちゃっかりゲットした金は、父が戻ったのですし桶の中に隠す。
右から3番目、というふうに確認している様子も可笑しかった。

●維盛をめぐる人々
権太の父親、弥左衛門役は竹三郎さん。村人たちの信頼も厚く、誠実そ
うな人柄がにじみ出ている。
討ち死した小金吾を見つけ、その首を斬って持ち帰る弥左衛門。
維盛をかくまったことが源氏方に発覚、それを維盛の首に見せようとの
考えらしい。持ち帰った首を眺め、思案しているところを家族に見られ
そうになり、バタバタとすし桶の中に隠す。
ここでさっきのすし桶と順序が入れ替わってしまい、客席も大笑い。
凄く盛り上がった。

弥助が実は平維盛であることを知らずに、祝言をあげるつもりのお里。
秀太郎さんの弥助、力はないが色男の風情が漂う。
お里役の孝太郎さんは、こういう庶民の娘役がよくはまっていた。
弥助とは逆に鮓桶を軽々と持ち上げ、亭主関白を指南する場面がいい。
お里が夜具の準備をした夜に、若葉の内侍と若君が偶然やってきて維盛
と再会。喜び合っている一部始終を偶然屏風の陰から聞いてしまう場面
は残酷! 
泣きながら身分違いの恋をしたことを詫びるが、まだあきらめきれない
様子がうかがえた孝太郎さんのお里、私は好き。

●権太のホンモノ涙
これが仁左衛門さんの権太なのか、それとも巡業バージョンか。
一番わかりやすかったのは若葉の内侍と若君を源氏方に差し出す場面。
その前に・・・。

弥助が維盛であることを知り、維盛たちの居場所に向かう権太。
金の入った大事なすし桶を担いで。(実は首のほう)
ポスターにもなっている権太イチバンの見せ場で、見得がキマル!
そんな金目当ての権太に腹を立てる父、弥左衛門。
そこへ源氏方の一行が!
お! また逢えた♪ 愛之助さん、梶原景時だよ。
小金吾の声からは全く想像できないほど太く大きく、いいお声。
景時といえばコワイおっさんイメージだったが、男前やん!(笑)
いえいえ、ゴメンナサイ。
源氏方の重要人物としての大きさ、風格が十分感じられる佇まい。
ここでもきちんと役にはまっておられましたよ。
権太が差し出したすし桶。首実検で、維盛に「相違ない」という景時。
(首を見るときに扇を広げ扇越しに見る。)
褒美をほしがる権太に、景時は頼朝拝領の陣羽織を渡す。

捕えられた内侍と若君(口に布、後ろ手に縄)。
顔を見せろ、と景時に言われ、ツラあげんかい!と足を使う権太。
でも、松明の煙が目にしみる~と目元を拭いたり、このあたりから急に
権太の行動がヘンになる。
ついに捕えられたまま去ってゆく二人。権太を振り返り振り返り、二人
は首を横にふる。気にしないで・・・と言っているかのよう。
・・・・・・バレている。
私たち観客にはもうバレてるよ~。
二人は権太の妻子で、身代わりなのだと。
無言のアイコンタクトに権太はたまらず、しゃがみこんでしまう。
頭から陣羽織をかぶり、頭の上で合わせた手が震えて泣いている。
(そうだよ。これって、熊谷陣屋の直実さんだよー。)
こんな権太は初めてだった。
ウソ涙を出すためにあれほど苦労していた権太が、いまは真実の涙で
泣けて泣けてしかたないのだ。
ズルイ!
観客にも憎まれてこその権太なのに。だから、もどりなのに。
と思いつつ、もうこの時点ですっかり私は権太の味方に♪

もどりの場面。
源氏方一行を見送った後、ついに弥左衛門が権太を刺す。
権太が事情を話そうとしかけた瞬間のことだった。
(勘三郎さんの舞台では、見送っている最中の不意打ちだった。)
維盛を討ったこと、内侍と若君を差し出したことを弥左衛門と家族に責め
られ、本心を明かす。
二人の身代わりに自分の妻子を引き渡したこと、首は小金吾で、維盛に見
せるため前髪を剃ったこと、ウンヌン。
観客は身代わりのことを知っているから、心情的には権太の味方。
あちらこちらですすり泣きが聞こえている。私(たち)も。
瀕死のなか、本物の維盛たちを呼び戻す道具が我が子から拝借した笛だ。
ヒュ、ヒュ、息絶え絶え、弱々しい音の後で、ピー!という音が鳴り響く。

最後は維盛が出家し、内侍、若君と別れを告げる。
(陣羽織には袈裟と数珠が縫い込まれ、もとより景時は出家を進言するつ
もりだったらしい・・・。)
一方、権太は父、母、妹に囲まれて死んでゆく。
片や親子夫婦の別れ、片や親子兄妹の別れ・・・という幕切れ。
(ウウッ。)

<蛇足>
●熊谷直実といがみの権太

子や妻が身代わりで死ぬという悲惨な話は決して好きじゃないけれど、
仁左衛門さんの直実が笠で顔を覆って嘆く姿には、我が子を想い、自分
の立場を悔いる痛切な親の心情を感じ、ゆるしてあげようと思った。
強いと思っていた一武将が、弱さをさらけ出す場面がなぜこんなに胸を打
つのだろう。
それと同じで今回は、ならず者だと思っていた権太が妻子のために泣いて
いる姿にキューンとなってしまった。
好きで妻子を差し出す人間などいない。昔の人間だって同じだ。
熊谷直実や今回の権太がハッキリ答を見せてくれることで、救われた気が
するのかもしれない。
それに、そういう時の仁左衛門様の姿がまた、大変美しいからコマル!


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すばらしいっ! (しろう)
2009-08-05 00:17:54
ムンパリさま♪
毎度のことながら、ほんっとに逐一細かく覚えていらっしゃいますね~!
頭のなかに映像となってみごとに再現されます。
楽しませていただきました、ありがとう!

>・・・・・・バレている。
>私たち観客にはもうバレてるよ~。
う、、わかってなかった客がここにひとり(恥)

仁左さまはどのお芝居でも(というほど観ていないけど)感情表現を細やかに見せてくれますね。そこが大すき♪
上方はもともとそういうところを大切にすると聞いたことがありますが。

勘三郎版、うちにもありました!で、さっそく観てみました。演じ方の違いはとても興味深かったです。
返信する
あちゃ!バレてない?(笑) (ムンパリ)
2009-08-06 07:56:49
しろうさん、先日は楽しかったですね!!
あれ?しろうさんにはバレてはいなかったの?(笑)。
じゃ、お話を知っているがゆえに、そこが気になって
仕方なかったのかもしれないです~。
いっそ初観劇で見てみたかったなあ(笑)。

仁左衛門さんは細やかなところと歌舞伎らしい美しさと
両方を見せてくださるので、もう魅了されっぱなしですね!
私も茶店のシーンからの通しは勘三郎版しか見てませんが、
両方ともそれぞれによさがあるなと思いましたよ。
返信する
大3部作 (スキップ)
2009-08-20 01:04:54
ムンパリさま
大変遅くなりましたが、松竹大歌舞伎 春日井公演レポ3部作、じっくり楽しませていただきました。
さすがムンパリさんのレポは詳細で臨場感にあふれていて、この公演を観ることができなかった私にも場面場面が目にうかぶようです。約束どおりレポしてくださって、ありがとうございました。

権太が若葉の内侍と若君(実は自分の妻子)と別れる場面で、観客にはバレちゃってて、初演の目で観たかった、っていうところ、興味深かったです。今回の松嶋屋さんの演出がそうなのか、ストーリーを知っているせいなのかは定かではありませんが、そういうことって往々にありますね。観劇の回を重ねるとより理解が深まったり細かいところにも気づいたりできますが、新鮮な驚きからは離れていきますものね。
が、それを補って余りある(らしい)仁左衛門さんの権太・・・。私はこれまでいろんな人の権太を観ましたが、三つ子の魂百までも、ではありませんが、最初に観た藤十郎さん(その頃は鴈治郎さん)が私にとっては永遠の権太で、それに比して仁左衛門さんはスマートで洗練されすぎ、男前すぎ(笑)というイメージですが、こうして読ませていただくとやっぱり直に観てみたかったな、と悔やまれます。
いつか松竹座でやっていただけないかしら。
返信する
三つ子の魂・・・フムフム (ムンパリ)
2009-08-22 01:52:00
スキップさん、お読み頂きありがとうございます♪
巡業の東コースはこの日しか観劇のチャンスがなく、見られて
本当にラッキーでした。

> それを補って余りある(らしい)仁左衛門さんの権太

そうなんですよー。
同じ演目を違う役者さんで見たり、また同じ役者さんで何度も
見たりできるのが歌舞伎の楽しみですよね。
たしかに今回、初観劇の目で見たかったというのも本心ですが、
でもストーリーを知っていたからこそ、仁左衛門さんならではの
演じ方に気がついたんだと思うと、やはりこれが歌舞伎の素晴しい
ところだと思いました♪

番付にありましたが、仁左衞門さんは権太は自分には向かないと
最初は思われたそうです。それが与三郎など(脚見せ系?笑)を
するようになって、これもやってみようと思われたとか。
カッコよすぎるんですが(笑)、こういうヤツいるいる!と思わせる
リアリティのある権太でした。

「三つ子の魂百までも」は私もそうかも~。
初めて観た勘三郎さんの権太はいまでも強く印象に残ってますから。
はあ~、歌舞伎ってホントに面白いです♪

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