吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

P.カレル『砂漠のキツネ』⑩(フジ出版社 / 昭和46年4月15日5版発行)

2018-08-13 07:12:20 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護

(承前)

【北アフリカ全図】


10.英軍の大攻勢

 エル・アラメインでの両軍の戦いは塹壕戦となり膠着状態に陥った。


※エル・アラメインのドイツ軍陣地

 戦力で劣るドイツ軍は陣地の前面に有名な『悪魔の園』なる地雷原を造って防御した。
 無数の罠が仕掛けられた地雷陣地でまさに『突破は絶対不可能』な防衛線だった。


※『悪魔の園』の模式図

 この膠着状態を破ったのは今度は英軍だった。

 モントゴメリーは通常とは逆の方法でこの地雷原を突破したのだ。
 『まず、大規模な爆撃と砲撃で地雷原を『鋤き返す』。しかる後に歩兵が前進、最後に戦車隊が陣地を突破する』というものだ。物量に勝る英軍ならではの作戦だった。

 まさか高価な爆弾や砲弾を無尽蔵に地雷原に撃ち込んで進軍のための道を造ろうとする者がいようとはドイツ軍には思いもよらなかったのだ。ドイツ・アフリカ軍団はこれまでの自分たちの戦いが『貧乏人の戦争』だったことを思い知らされたのだった(この頃、ドイツ・アフリカ軍団車両の実に85パーセントが英軍から鹵獲したものだった)。


※新型M4シャーマン戦車が英軍に供給配備された(写真は米軍仕様)

 侵攻する英軍400台の戦車に対してドイツ軍戦車は80台。もはやエル・アラメイン戦線を維持することはできない。後方のフカ・ラインまで退却することが唯一の道だった。しかしヒトラーからの命令がそれを許さなかった。

 『余とドイツ国民は貴官の指揮能力および貴官に任ぜられたドイツ軍の勇気を信頼しつつ、エジプトにおける英雄的防戦を追っている。貴官のおかれた状況においては、戦線を維持する以外に考えられない。一歩も退かず、最後の武器、最後の一兵まで戦闘に投入せよ。その優勢にもかかわらず、敵の力はもはや最後の段階にきているものと思う。より強き意志がより強力なる敵部隊に勝利を収めた例は史上すくなくはない。貴官のとるべき唯一の道は靡下の部隊に対し、勝利か死への道を示すことであると判断する。アドルフ・ヒトラー

 この命令はドイツ・アフリカ軍団にとっての死刑宣告に等しかった。
 この命令は英軍侵攻の報告と行き違いでもたらされたものだったが、命令の撤回までにドイツ・アフリカ軍団は貴重な戦力を失ってしまったのだった。

 さらに悪いことにはアイゼンハワーに率いられた米軍がモロッコとアルジェリアに上陸したという報せがもたらされた。ぐずぐずしていたら、ドイツ・アフリカ軍団は米英の両軍から挟撃され全滅してしまう。
 チュニジアへ戻り、橋頭保を確保して米英の欧州侵攻を防ぐのだ。
 来るべき欧州決戦に備えて機甲軍を欧州へ戻すことも必要になってくる。

 何としても米軍より早くチュニジアに到着しなければならない!
 ドイツ・アフリカ軍団にとって、これが命を賭けたレースになったのだった。

 (つづく)



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2 コメント

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追記です! (管理人)
2018-08-14 09:55:48
明後日8月16日(木)午後1時00分〜2時59分、NHK『BSプレミアム』で『炎の戦線 エル・アラメイン』が放映されます。興味のある方はどうぞ。
ワタシも観てナイのですが、エル・アラメインからの敗走を(よりによって!)イタリア軍の視点で描いた・・・といいますから題名とは真逆にズタボロ悲惨な映画だと思われます。
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見ました! (管理人)
2018-08-17 15:40:15
エル・アラメインのイタリア軍陣地の塹壕に1人の志願兵が配属されてくる。
本国を出発するときには『まもなくカイロ占領』と景気のイイ話を聞かされていたが、戦線は膠着、イタリア軍は弾薬も食糧も切れて戦うどころではなかった。英雄的な戦闘もなく塹壕に籠ったまま砲撃で一人また一人と死んでいく・・・。
フーカへの撤退のはずが着いてみると100キロ先のブレガ陣地まで歩いて(!)退却することに・・・。部隊のメンバーは行軍中に次々と倒れていく、英軍に追いつかれると、これ幸いと降伏する者も・・・とうとう部隊は3人になり砂漠を彷徨うが、遺棄された動くバイクを1台見つける。
主人公は『必ず戻ります』と言ってバイクを飛ばすが、無事にブレガに着けたのかさえもはや不明である・・・。

ああ救いのない映画でした。
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