ミズヘンの腹ん中。

女3人、演劇創作ユニットmizhenのブログ。

ホワイトチェアー

2017-05-23 20:46:35 | 藤原佳奈
隣人が、引っ越した。

彼はオーストラリア出身の写真家だった。

彼と話しをするようになったのは、
私がもっているトートバックについて、

素敵だね、どこで買ったの?

と聞かれたことが始まりだった。

その時わたしは申し訳無い気持ちで、

LOFTだ。と答えた。


隣の部屋なのでばったりと出会うことが多く、その度に一言二言交わす仲だった。


一週間ほど前、彼はたくさんのゴミ袋をかかえていた。

何してるの、と尋ねると

本国で写真のいい仕事ができたので、急遽帰ることにしたのだ、と、嬉しそうに教えてくれた。

寂しくなるねえ。と言ったら、

そうだ、何かいるものはないか、

と、聞かれた。

たぶんある。と私は図々しく答え(うちは物が少ない)、

同じ間取りの彼の部屋に初めて入った。

使い方が違うと、全く雰囲気の違う部屋。
我が家よりよっぽど洒落ていた。


椅子いらないか、椅子。

と、彼が勧めてきたのは、白い1人掛けの椅子だった。


アホみたいな話だが、
実は、本を読むための1人掛けの椅子が欲しいなぁと夢想していたところだった。
しかも、白い椅子。

というわけで、

アンビリーバボー
ホワイトチェアー探してましてん、
レアリーもうてええのん?

と、二つ返事で椅子をもらうことにした。

そして、彼の部屋から、私の部屋へ、
柵をまたいで椅子を移動した。

short cutねー
めっちゃ easy ねー

と2人で言いながら、わたしの部屋にやってきた椅子は、

彼んちの子から、ウチんちの子となった。

sorry. ここにcoffee チョット汚れてるね。

椅子の肘掛の汚れを彼は心配したが、

ノープロブレムと答えた。


そして、
数日後、彼はいなくなった。

なんらかのお返しをしたかったのに、タイミングが合わずじまいだったことを後悔している。


彼の玄関は、管理会社の南京錠のような鍵がかかり、施錠された。


わたしは、それから毎日、白い椅子に座って過ごしている。
この椅子は驚くほど心地良い。
いつかもう一度彼に会って、お礼したいな。



ふじわら

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