アジアの島々、岩礁、海域をめぐる緊張が高まるなか、クリントン長官はインドネシア、東ティモール、ブルネイ、中国、ロシアなどの首脳と会談することになっている。米国務省高官によると、クリントン長官の歴訪は、イラクやアフガニスタンからの撤退が進む米国がアジア太平洋地域の安定に強い関心を持っていることを強調するものだという。中国はあまり好ましく思っていないようだが、オバマ政権はこの1年間にこの地域における米国の影響力を強化してきた。オバマ大統領は昨年、米海兵隊がオーストラリアに駐留して定期的な演習や訓練を開始することを発表した。レオン・パネッタ米国防長官は今年6月、米海軍艦艇の6割をアジア太平洋地域に配置することを明らかにした。オバマ政権は主に北朝鮮に対する備えとして、アジアの米軍基地にミサイル防衛システムを構築することも求めている。
尖閣諸島の領有権をめぐる日本と中国の対立もいまだ緊張状態が続いている。ここのところ中国各地では反日運動が勃発しており、国営メディアはこのタイミングでのクリントン長官のアジア歴訪を疑問視している。領有権争いはアジアの他の地域でも激しさを増している。韓国の李明博大統領の竹島訪問を受けて、日本は先月、同島をめぐる韓国との領有権問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する構えを示した。韓国では独島、米国やその他の地域ではリアンコート岩礁として知られる竹島をめぐる対立は長年にわたってくすぶり続けてきた。李明博大統領の竹島上陸後、日本はこれに抗議して駐韓大使を一時帰国させた。日本には他国との問題も存在する。日本が実効支配している尖閣諸島に関しては中国と台湾も領有権を主張している。日本はまたロシアが実効支配している南クリル諸島(北方領土)の領有権も主張している。
先週、米国務省高官はワシントンDCでこう述べた。「今回の歴訪でわれわれが伝えようとしているのは、すべての関係国政府が冷静に対応し、こうした問題が慎重に議論され、複雑な領土問題がすでに数十年間存在してきたという事実を思い出すことがきわめて重要だというメッセージである。アジアの繁栄が最も目立ったのは、こうした問題が概して効果的に封じ込められてきた過去数十年間である」。(WSJ記者:Eric Bellman、Brian Spegele)
レオン・パネッタ米国防長官「米海軍艦艇の6割をアジア太平洋地域に配置する」の背景には、アジアに対するアメリカの「強い意識」が見て取れる。中国や東南アジアの急速な経済成長に伴い、グローバル(国際)経済の中心軸が欧米からアジアに大きく傾斜してきている、そのための「歪」も散見される。「領土問題」を含む国家間の軋轢も、そのひとつの顕れと観る向きも多い。アジア地域の「権力闘争」が過渡的なものか、実力行使を伴う危うさへと向かうものか、判断は難しく大きく分かれると言っていい。舞台(テーブル)は、アメリカと中国との「微妙なカケヒキ」に現状委ねられたと言っていい。わたしたちは、この推移を見つめながら、自国の理念を明確にし、慎重に対応していかなければならない。
