穏健派とみなされていた谷垣総裁と異なり、今回の総裁選候補はナショナリスト的な争点を追求している。例えば、中国や韓国との領有権論争で強硬姿勢をとったり、軍事力(自衛隊)を強化したり、国旗と国歌の尊重的な態度を義務付けたりしようとしている。最有力候補の石破茂元国防相と安部晋三元首相はいずれもタカ派として知られる。候補者たちはすべて日本の領海紛争を利用して野田首相を批判、香港の活動家が尖閣諸島に上陸したり、中国の監視船が同諸島の日本の領海に侵入したことを受けて、もっと強硬な措置を講じるべきだと主張している。候補者の一人、石原伸晃幹事長は24日の遊説で、領土が侵略される恐れが生じており強い決意を示す時だと述べた。石原氏は、石原慎太郎東京都知事の息子だ。同知事は尖閣諸島を購入して都の一部にしようとし、最近の日中の緊張の引き金を引いた。尖閣諸島は日本が実効支配しているが、中国も領有権を主張しており、釣魚島と呼んでいる。
自民党内の強硬意見は、数年前なら場違いだっただろう。当時、自民党は半世紀にわたりほぼ一貫して政権党の座にあったが、2009年の総選挙で野に下った。保守政党の一角でしかも政権党であったとき、自民党は波風が立つようなことはせず、地政学上の争いは、世界的な企業の本拠地である日本のために良くないとみなしていた、と政治の専門家は言う。候補者の一人、林芳正政調会長代理は、自民党は現在、政策を純化しており、その保守派的なルーツに回帰しようとしているとの見方を示した。林氏は最近のインタビューで、自民党は政権与党の座にあった長い間、広範囲な意見を聞き、保守性をトーンダウンしなければならなかったと述べ、今は野党なのだから、党の基本に立ち返ることだと語った。また石破氏は尖閣諸島防衛のため自衛隊を動員すべきだと述べている。同氏はインタビューで、尖閣諸島に上陸しようとする者に対して威嚇射撃することを自衛隊に認めるべきだと述べている。一方、安部氏はいわゆる従軍慰安婦という極めてセンシティブな問題に踏み込んだ。従軍慰安婦は、第2次世界大戦前や大戦中、日本人兵士のための売春施設で強制的に働かされた朝鮮(当時)やその他アジアの女性を指す。韓国は、日本側がこの問題で十分な償いをしていないと主張している。これに対し、安部氏は、これらの女性が売春施設で働くよう強要されたことを認めた日本のこれまでの謝罪姿勢を実際には撤回すべきだと述べている。
また石破氏も安部氏も、日本の戦争放棄をうたった憲法の改正を支持しており、同盟国が攻撃された際には互いに支援できるとする集団的自衛権の行使に対する自制解除も主張している。自民党の選挙綱領もナショナリストに受けの良い問題が満載だ。例えば同綱領は憲法を改正して、日本の国旗と国歌(君が代)を国民の象徴として確立し、天皇を「国の象徴」から国家元首に格上げするよう求めている。
米ウォッシュボーン大学法律大学院(カンザス州)のクレイグ・マーティン准教授は、アジアの近隣諸国はこうした日本の憲法修正に強く反対するだろうと指摘した。同准教授は、軍備や武力行使に対する抑制が弱まると受け止められる憲法改正は「日本のナショナリズム強化の道を開き、軍国主義が台頭する可能性が出てくる、と中国や韓国で受け止められるだろう」と語った。自民党候補者たちのタカ派的な見解はまた、カリスマ的人気がある橋下徹・大阪市長のそれに呼応する。橋下氏は月内に国政政党を正式に発足させる見通しだ。(WSJ記者: Alexander Martin )
わたしは、折に触れて海外報道とりわけウォールストリートジャーナルからの記事をブログに(転記)載せている。冷静且つ視点を変えて、日本の状況を見てほしいと思うからです。わたしは、自民党総裁は谷垣さんの継続でいいと思っていた、このような今日的状況は想定していなかった。このまま推移すれば、日本の政治は過去に回帰するばかりでなく「かなり危うい状況」に一歩踏み出すことになる。「政治の右傾化」は、日本の経済・文化にとっても好ましい事態では決してない。中国もロシアもアメリカも、日本のナショナリズム(国家主義)が高揚することを必ずしも望んではいない。隣接する国家間に多くの課題があることは周知のことです、「領土問題」「経済摩擦」など扱いにくい課題が時折トラブルとして表面化することも周知のことです。このような困難な状況下、このような自民党総裁選でいいのか、わたしたちは政治の「レベル」を目の当たりにしている。わたしたちは、政治のかじ取りの難しさと同時に「危うさ」を見せつけられているのかもしれない。