人間心理を考えた現金引き取りセール
-セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO 鈴木敏文
プレジデントオンライン
2015年4月12日 15時15分 (2015年4月13日 15時20分 更新)
(09年6月15日号 当時・会長兼CEO 文=勝見 明)
[拡大写真]鈴木敏文氏
ほとんどの人には見えないのに、新しいトレンドを読み、
ビジネスに活かしていく人がいる。
見えないものの中から本質を.む力――。
これこそが「見抜く力」なのだ。
それができる人は、やはり、もう一歩踏み込み方が違う。
そのベースになっているのが物事に対する関心や疑問だ。
何か「What(現象)」に関心を抱いたら、
「Why(本質)」を問う。そこでさらに「本当?」
「それから」と一歩踏み込むことで、物事の本質が見えてくる。
たとえば、飲料に占めるお茶のシェアの高まりに関心を持ち、
正確な数字がわかったとする。
それが「What」に当たる。
そして「健康ブームだから増えている?」
「国内産の原料で安全だから?」などの「Why 」を
仮説検証していく中で、「カロリーが低いから」
といった本質がひらめいてくる。
別な言い方をすれば、お茶が売れているという現象=事実が「A」という
引き出しにインプットされたとき、
健康ブームという別の「X」の引き出しが開いて関連づけられる。
そして、「カロリーが低いから」という本質が見出されるようになるのだ。
■人間心理を考えた現金引き取りセール
どの家庭もタンスの中に服があふれているように、
先進国の中でも日本は消費が最も飽和した国です。
消費は飽和すればするほど、
買い手の心理に大きく左右されます。
一方、不景気になると、人々は
景気に関する情報をマスコミから得ようとします。
そのため、厳しい状況を並べる報道によって人心が萎え、
消費者心理がいっそう冷えてしまうのです。
ただ、これを裏返せば、ピンチをチャンスに変えられます。
消費が心理によって左右されやすくなっているため、
逆に人心を温める仕かけを講じれば、必ず反応がある。
キャッシュバックのキャンペーンや
現金下取りセールが好評を博したのはまさに、
消費者の気持ちが温まる企画だったからです。
1万円の商品を8,000円で買うのと、
一度払った1万円から2,000円が現金で戻るのとでは
心理的な効果がまったく違います。
下取りもそうです。タンスの中の着なくなった服は
価値はないのに捨てられない。それは
本能的なものです。でも、
下取りであれば価値が生まれる。ならば、
お金に換えて買いものをしようと思う。それが人間の心理です。
数字は、自分なりに立てた仮説を検証する道具でしかない。
何の検証もせずに、数字が
すべてを語っていると思うのは大間違いです。
(09年6月15日号 当時・会長兼CEO 文=勝見 明)
私の場合、来店する1日2,600万人の顧客の日々のデータを見ながら、
消費者の心理が今どんな状態にあるかを感じている。
私は経済学者でもアナリストでもありませんから、
皮膚感覚だけでいっているのです。
それが多くの場合、当たっているのです。
誰でも日々の仕事の中で顧客の本当の姿を実感できるはずです。
この皮膚感覚を大切にし、自分なりに仮説を立て、
結果のデータで検証する。
この習慣をつければ、世に出回るデータや
見当違いな分析に振り回されずにすむでしょう。
(06年4月3日号 当時・会長兼CEO 構成=勝見 明)
■小宮一慶氏が分析・解説
鈴木氏は人間の心理を見抜く能力に実に長けている。
衣類を5,000円の買い上げ金額ごとに1,000円で下取りする
「キャッシュバック・キャンペーン」。
ほかの量販店では7割引きも珍しくないのに、
この実質2割引きになぜ人が押し寄せるのか。
人間誰でも現金を手にするほうが嬉しい。
それに加えて、タンスから不要な服がなくなれば
エコにもつながる魅力も大きかったのだ。
鈴木氏はエコノミストたちが使う官製データを鵜呑みにしない。
1日2,600万人もの来店客がもたらす日々のデータから仮説検証を繰り返す。
そこで物をいうのが、長年の経営で磨いた「皮膚感覚」なのだ。
それはコンビニの利便性向上にも活かされている。
セブン-イレブンの店内にATM(現金自動預払機)を設置しようという発想は、
金融関係者からはまず出てこないだろう。
ATMは金融機関の店舗内にあるものとの発想から抜け出せないからだ。
また、現金の管理や安全性などから
「できない理由」をどうしても考えてしまう。
とはいえ、当初社内外から
「素人がやってもうまくいかない」
「儲けにならない」などの反対意見が出たはず。
それを跳ね返せたのは、コンビニの本質的な役割が
顧客の利便性向上にあることを見抜き、
半歩先の顧客ニーズを考え続ける鈴木氏だったから。
もちろん事業に対する全責任を負う覚悟を持って臨んでいるので、
社員も最後には惜しまずに力を注ぐようになる。
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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶
1957年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。
96年に小宮コンサルタンツを設立し、現職。
『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶=総括、分析・解説
http://www.excite.co.jp/News/economy_clm/20150412/President_14934.htmlより
-セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO 鈴木敏文
プレジデントオンライン
2015年4月12日 15時15分 (2015年4月13日 15時20分 更新)
(09年6月15日号 当時・会長兼CEO 文=勝見 明)
[拡大写真]鈴木敏文氏
ほとんどの人には見えないのに、新しいトレンドを読み、
ビジネスに活かしていく人がいる。
見えないものの中から本質を.む力――。
これこそが「見抜く力」なのだ。
それができる人は、やはり、もう一歩踏み込み方が違う。
そのベースになっているのが物事に対する関心や疑問だ。
何か「What(現象)」に関心を抱いたら、
「Why(本質)」を問う。そこでさらに「本当?」
「それから」と一歩踏み込むことで、物事の本質が見えてくる。
たとえば、飲料に占めるお茶のシェアの高まりに関心を持ち、
正確な数字がわかったとする。
それが「What」に当たる。
そして「健康ブームだから増えている?」
「国内産の原料で安全だから?」などの「Why 」を
仮説検証していく中で、「カロリーが低いから」
といった本質がひらめいてくる。
別な言い方をすれば、お茶が売れているという現象=事実が「A」という
引き出しにインプットされたとき、
健康ブームという別の「X」の引き出しが開いて関連づけられる。
そして、「カロリーが低いから」という本質が見出されるようになるのだ。
■人間心理を考えた現金引き取りセール
どの家庭もタンスの中に服があふれているように、
先進国の中でも日本は消費が最も飽和した国です。
消費は飽和すればするほど、
買い手の心理に大きく左右されます。
一方、不景気になると、人々は
景気に関する情報をマスコミから得ようとします。
そのため、厳しい状況を並べる報道によって人心が萎え、
消費者心理がいっそう冷えてしまうのです。
ただ、これを裏返せば、ピンチをチャンスに変えられます。
消費が心理によって左右されやすくなっているため、
逆に人心を温める仕かけを講じれば、必ず反応がある。
キャッシュバックのキャンペーンや
現金下取りセールが好評を博したのはまさに、
消費者の気持ちが温まる企画だったからです。
1万円の商品を8,000円で買うのと、
一度払った1万円から2,000円が現金で戻るのとでは
心理的な効果がまったく違います。
下取りもそうです。タンスの中の着なくなった服は
価値はないのに捨てられない。それは
本能的なものです。でも、
下取りであれば価値が生まれる。ならば、
お金に換えて買いものをしようと思う。それが人間の心理です。
数字は、自分なりに立てた仮説を検証する道具でしかない。
何の検証もせずに、数字が
すべてを語っていると思うのは大間違いです。
(09年6月15日号 当時・会長兼CEO 文=勝見 明)
私の場合、来店する1日2,600万人の顧客の日々のデータを見ながら、
消費者の心理が今どんな状態にあるかを感じている。
私は経済学者でもアナリストでもありませんから、
皮膚感覚だけでいっているのです。
それが多くの場合、当たっているのです。
誰でも日々の仕事の中で顧客の本当の姿を実感できるはずです。
この皮膚感覚を大切にし、自分なりに仮説を立て、
結果のデータで検証する。
この習慣をつければ、世に出回るデータや
見当違いな分析に振り回されずにすむでしょう。
(06年4月3日号 当時・会長兼CEO 構成=勝見 明)
■小宮一慶氏が分析・解説
鈴木氏は人間の心理を見抜く能力に実に長けている。
衣類を5,000円の買い上げ金額ごとに1,000円で下取りする
「キャッシュバック・キャンペーン」。
ほかの量販店では7割引きも珍しくないのに、
この実質2割引きになぜ人が押し寄せるのか。
人間誰でも現金を手にするほうが嬉しい。
それに加えて、タンスから不要な服がなくなれば
エコにもつながる魅力も大きかったのだ。
鈴木氏はエコノミストたちが使う官製データを鵜呑みにしない。
1日2,600万人もの来店客がもたらす日々のデータから仮説検証を繰り返す。
そこで物をいうのが、長年の経営で磨いた「皮膚感覚」なのだ。
それはコンビニの利便性向上にも活かされている。
セブン-イレブンの店内にATM(現金自動預払機)を設置しようという発想は、
金融関係者からはまず出てこないだろう。
ATMは金融機関の店舗内にあるものとの発想から抜け出せないからだ。
また、現金の管理や安全性などから
「できない理由」をどうしても考えてしまう。
とはいえ、当初社内外から
「素人がやってもうまくいかない」
「儲けにならない」などの反対意見が出たはず。
それを跳ね返せたのは、コンビニの本質的な役割が
顧客の利便性向上にあることを見抜き、
半歩先の顧客ニーズを考え続ける鈴木氏だったから。
もちろん事業に対する全責任を負う覚悟を持って臨んでいるので、
社員も最後には惜しまずに力を注ぐようになる。
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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶
1957年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。
96年に小宮コンサルタンツを設立し、現職。
『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶=総括、分析・解説
http://www.excite.co.jp/News/economy_clm/20150412/President_14934.htmlより