イオンは、なぜここまで苦戦しているのか
東洋経済オンライン
4月2日(木)7時50分配信
写真:イオンモールナゴヤドーム前店
国内最大の流通グループ、イオンの不調が目立っている。
3月下旬に最新決算となる2015年2月期の業績予想を下方修正。
連結純利益は350億円と前年の456億円から23%も減益となる見込みだ。
それまでは480億円と増益を予想していたが、
これで純益が落ち込むのは2期連続。
営業減益は3期連続で、
市場からは驚きの声が上がった。
イオンはもともと「アジアシフト」「シニアシフト」「都市シフト」「デジタルシフト」
という4つのシフトを経営戦略として掲げていた。
2015年初に株式交換で
ダイエーを完全子会社化したのも、
その方針に沿ったものだった。
■再建から成長……のはずが
ダイエーグループは店舗の実に9割が首都圏と京阪神に存在している。
イオンはダイエーに「都市シフト」の一翼を任せ、
かつ「シニアシフト」もダイエーの主要顧客層を取り込み
加速するつもりだった。イオンはダイエーを飲み込み、
シナジー効果を狙った。ダイエーとしても、
再建から成長へとキーワードを掲げ、
復活の狼煙をあげようとしていた。
もちろん、イオンがダイエーを子会社化した結果を評価するには
時期尚早かもしれない。本決算の詳細を待たねばならないが、
事実としては第3四半期(2014年3~11月)までの状況を見てみると、
ダイエーは営業赤字だったし、シナジー効果どころか
イオンリテールなどの総合スーパー事業全体で289億円の赤字だった。
これは、前年度65億円の黒字から見ても、停滞感がにじむ。
もちろん、イオンも数々の施策を行った。
ダイエーと一緒になり、消費増税後の落ち込みをカバーしようと、
約100品目を値下げし訴求力を高めようとした。
さらには、イオン本体でも、「イオン得するタブレット」を実質無料で配布。
イオンでひと月あたり一定額(5万円)以上を消費すれば、
タブレット使用料相当額のポイントが還元できるようにした。
タブレットをお客に持たせれば、そのタブレット経由で購入した商品履歴を把握できるし、
なによりネット広告を届けることができる。
ダイレクトメールのコスト削減もできる。
だが、それらの施策も衣料品や食品などの落ち込みを
カバーするには至らなかった。
この落ち込みの理由は何か。もちろん、
さまざまな要因がからみあっている。
コンビニとの競争や、ドラッグストアの台頭などは、
よく指摘されるとおりだ。ここでは、
ほかではさほど語られていない要因を2つ挙げたい。
■理由1:店舗の老朽化
『週刊東洋経済』2014年4月26日号によると、
ダイエーの店舗平均築年数は30年弱となっている。
人間の年齢に当てはめると約30歳。
つまり、私たちが立ち寄るダイエーは1980年代あたりに建ったものだと想像すると、
だいぶ加齢した感じがあるだろう。なお、
イオンリテール店舗平均年令は約20歳だ。
2000年代前半は、10歳程度だったから、
だいぶ老年化が進んでいることがわかる。
ところで、このGMS (General Merchandise Store)といわれる総合スーパーは、
高度成長期に成長期を迎えた。しかし、
その後に巨大な店舗を抱えたまま経営難に陥ったところが多い。
マイカルやヤオハンも、そこに分類されるだろうし、
同じくイオンが救った企業でもある。
彼らは、高度成長期に発展したゆえに、
店舗年齢30年のものが残ってしまった。
筆者は大阪のはずれで暮らしていたが、
そういった地域ではダイエーしかなく、
ある種のインフラとして機能しているところがある。
改装はもとより、閉店もできないまま、
ズルズルと加齢だけが進行した。
もちろん店舗を長年にわたって使い続けるのにはよさもあるものの、
逆の意味では、目の前の利益確保を優先するための将来投資ができていなかったことでもある。
実際に、イオンリテールでは、毎年数%ほどの店舗しか改装を実施していない。
店内改装を行った店舗では売り上げが伸びる好循環が見られるが、
残念ながら改装した比率は低い。
しかし、それにしても「店舗の老朽化」は第一要因に挙げるようなレベルのものだろうか。
答えはイエスだろう。意外に思われるかもしれないが、
「古い店」がある近隣に「新しい店」ができたとすると、
ほとんどの場合、日本人は後者を選択する。
小売店は、デザインや品揃え、そして何より雰囲気、
といった面でも新しさが必須なのである。
なお、これを述べた書籍に『総合スーパーの興亡』(東洋経済新報社、三品和広著)があるが、
ここでわかるのは日本人が小売店に求めるミーハーな姿だ。
しつこいが重要なので繰り返す。
日本人は新しい店が好きだ。
よって日本の小売業は果敢に店舗をリニューアルし続けねばならない。
■理由2:プライベートブランド充実の逆効果
また、このところ、プライベートブランド(PB)商品を揃えることで
逆効果が生じていることを指摘しておきたい。
固有名詞は省くが、筆者の住んでいる近隣スーパーが一斉に
プライベートブランドを中心に品揃えした。
すると筆者の妻や、周囲の評判はさんざんだった。
特に子ども連れのお客を有す際は、
子どもが行きたがる店舗づくりを志向する必要があるものの、
キャラクターものお菓子の品揃えが半減以下になった。
プライベートブランドの利点はよくわかる。
安価だし、質も安心できるものだろう。バラエティも豊かになってきた。
しかし奇妙なもので、プライベートブランドだけに囲まれたとき、
その店舗を選択しなくなった。
不思議なことに、むしろ他店舗へ足を運ぶようになった。
話をイオンに戻そう。
イオンは日本最大のプライベートブランドとして
「トップバリュ」を有している。
その年間売り上げ金額は7,410億円にも上る。
これはイオンリテールにおける売上高の実に2割を占める。
イオンはグループとして、このプライベートブランドをより強化するために動いてきた。
システムの統合や、物流統合におけるメリットは大きい。
なによりグループが拡大していけば、
何より大量仕入れによる仕入れ価格引き下げが可能となる。
■過去の勝利の方程式が逆に作用している
イオンは実際に、商品仕入れや商品開発を本社に集中させてきた。
これによって、巨大なバーゲニングパワーをもった
プライベートブランドへ脱皮させようとした。
だが、このところの状況が指し示すのは、
前述のとおり、プライベートブランド充実の逆効果だ。
現在、地域スーパーの勢いがあり、地方では大手の苦戦が報じられている。
それは、地方の細かな需要に追随できる
地域スーパーv.s.全国統一的な品揃えを是とする全国スーパーの構図
とみればわかりやすい。残念ながら、
過去の勝利の方程式が逆に作用している。
また、地域限定商品を買うことのできない不満だけがあるわけではなく、
プライベートブランドが多すぎるゆえに、
ナショナルブランドの新商品を探せない不満もある。
ところで、この均一化に対して、真っ先に反応したのが、
やはりセブン-イレブンだった。
セブン-イレブンはもちろんプライベートブランドの品質向上には努めているが、
同時に、地域限定商品の劇的な拡充をもくろんでいる。
現在は、その地域限定商品の比率は10%にすぎないというが、
それを2017年までには50%(! )に引き上げる。
地域の特性を考慮した上で、商品仕入をかなり細かく実施する。
以前、コンビニエンスストアが広がるほど、
日本は金太郎飴のような均一化が生じると危惧した論者がいた。
しかし、現状は、その逆に進んでいるのである。
セブンは、売上高2,793億円(2014年2月)の万代と組むと発表したが、
この意味は、その地域限定商品の点から読み解かねばなるまい。
つまり、地域独自商品のサプライチェーンを有すことが、
これ以降の差別化と成長にとって欠かせないと判断したのである。
ただし、イオンは挑戦の速度を失ってはいない。
スーパー事業とのシナジー効果を創出すべく、
競争相手だったドラッグストアを自らに飲み込んだ。
ドラッグストア大手のウエルシアホールディングスを子会社化することによって、
イオンはドラッグストア事業者としての顔をも持つようになる。
実際に、イオングループのドラッグストア売上高は5,000億円を超す見込みであり、
なんとこれはマツモトキヨシグループを上回るかもしれない。
さらには、大手資本に参加せずにふんばっている食品スーパーも
まだまだたくさんある。彼らとの資本提携や、
彼らを買収するなどといった業界再編を
イオンがしかける可能性はあるだろう。
坂口 孝則
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150402-00064984-toyo-bus_all
東洋経済オンライン
4月2日(木)7時50分配信
写真:イオンモールナゴヤドーム前店
国内最大の流通グループ、イオンの不調が目立っている。
3月下旬に最新決算となる2015年2月期の業績予想を下方修正。
連結純利益は350億円と前年の456億円から23%も減益となる見込みだ。
それまでは480億円と増益を予想していたが、
これで純益が落ち込むのは2期連続。
営業減益は3期連続で、
市場からは驚きの声が上がった。
イオンはもともと「アジアシフト」「シニアシフト」「都市シフト」「デジタルシフト」
という4つのシフトを経営戦略として掲げていた。
2015年初に株式交換で
ダイエーを完全子会社化したのも、
その方針に沿ったものだった。
■再建から成長……のはずが
ダイエーグループは店舗の実に9割が首都圏と京阪神に存在している。
イオンはダイエーに「都市シフト」の一翼を任せ、
かつ「シニアシフト」もダイエーの主要顧客層を取り込み
加速するつもりだった。イオンはダイエーを飲み込み、
シナジー効果を狙った。ダイエーとしても、
再建から成長へとキーワードを掲げ、
復活の狼煙をあげようとしていた。
もちろん、イオンがダイエーを子会社化した結果を評価するには
時期尚早かもしれない。本決算の詳細を待たねばならないが、
事実としては第3四半期(2014年3~11月)までの状況を見てみると、
ダイエーは営業赤字だったし、シナジー効果どころか
イオンリテールなどの総合スーパー事業全体で289億円の赤字だった。
これは、前年度65億円の黒字から見ても、停滞感がにじむ。
もちろん、イオンも数々の施策を行った。
ダイエーと一緒になり、消費増税後の落ち込みをカバーしようと、
約100品目を値下げし訴求力を高めようとした。
さらには、イオン本体でも、「イオン得するタブレット」を実質無料で配布。
イオンでひと月あたり一定額(5万円)以上を消費すれば、
タブレット使用料相当額のポイントが還元できるようにした。
タブレットをお客に持たせれば、そのタブレット経由で購入した商品履歴を把握できるし、
なによりネット広告を届けることができる。
ダイレクトメールのコスト削減もできる。
だが、それらの施策も衣料品や食品などの落ち込みを
カバーするには至らなかった。
この落ち込みの理由は何か。もちろん、
さまざまな要因がからみあっている。
コンビニとの競争や、ドラッグストアの台頭などは、
よく指摘されるとおりだ。ここでは、
ほかではさほど語られていない要因を2つ挙げたい。
■理由1:店舗の老朽化
『週刊東洋経済』2014年4月26日号によると、
ダイエーの店舗平均築年数は30年弱となっている。
人間の年齢に当てはめると約30歳。
つまり、私たちが立ち寄るダイエーは1980年代あたりに建ったものだと想像すると、
だいぶ加齢した感じがあるだろう。なお、
イオンリテール店舗平均年令は約20歳だ。
2000年代前半は、10歳程度だったから、
だいぶ老年化が進んでいることがわかる。
ところで、このGMS (General Merchandise Store)といわれる総合スーパーは、
高度成長期に成長期を迎えた。しかし、
その後に巨大な店舗を抱えたまま経営難に陥ったところが多い。
マイカルやヤオハンも、そこに分類されるだろうし、
同じくイオンが救った企業でもある。
彼らは、高度成長期に発展したゆえに、
店舗年齢30年のものが残ってしまった。
筆者は大阪のはずれで暮らしていたが、
そういった地域ではダイエーしかなく、
ある種のインフラとして機能しているところがある。
改装はもとより、閉店もできないまま、
ズルズルと加齢だけが進行した。
もちろん店舗を長年にわたって使い続けるのにはよさもあるものの、
逆の意味では、目の前の利益確保を優先するための将来投資ができていなかったことでもある。
実際に、イオンリテールでは、毎年数%ほどの店舗しか改装を実施していない。
店内改装を行った店舗では売り上げが伸びる好循環が見られるが、
残念ながら改装した比率は低い。
しかし、それにしても「店舗の老朽化」は第一要因に挙げるようなレベルのものだろうか。
答えはイエスだろう。意外に思われるかもしれないが、
「古い店」がある近隣に「新しい店」ができたとすると、
ほとんどの場合、日本人は後者を選択する。
小売店は、デザインや品揃え、そして何より雰囲気、
といった面でも新しさが必須なのである。
なお、これを述べた書籍に『総合スーパーの興亡』(東洋経済新報社、三品和広著)があるが、
ここでわかるのは日本人が小売店に求めるミーハーな姿だ。
しつこいが重要なので繰り返す。
日本人は新しい店が好きだ。
よって日本の小売業は果敢に店舗をリニューアルし続けねばならない。
■理由2:プライベートブランド充実の逆効果
また、このところ、プライベートブランド(PB)商品を揃えることで
逆効果が生じていることを指摘しておきたい。
固有名詞は省くが、筆者の住んでいる近隣スーパーが一斉に
プライベートブランドを中心に品揃えした。
すると筆者の妻や、周囲の評判はさんざんだった。
特に子ども連れのお客を有す際は、
子どもが行きたがる店舗づくりを志向する必要があるものの、
キャラクターものお菓子の品揃えが半減以下になった。
プライベートブランドの利点はよくわかる。
安価だし、質も安心できるものだろう。バラエティも豊かになってきた。
しかし奇妙なもので、プライベートブランドだけに囲まれたとき、
その店舗を選択しなくなった。
不思議なことに、むしろ他店舗へ足を運ぶようになった。
話をイオンに戻そう。
イオンは日本最大のプライベートブランドとして
「トップバリュ」を有している。
その年間売り上げ金額は7,410億円にも上る。
これはイオンリテールにおける売上高の実に2割を占める。
イオンはグループとして、このプライベートブランドをより強化するために動いてきた。
システムの統合や、物流統合におけるメリットは大きい。
なによりグループが拡大していけば、
何より大量仕入れによる仕入れ価格引き下げが可能となる。
■過去の勝利の方程式が逆に作用している
イオンは実際に、商品仕入れや商品開発を本社に集中させてきた。
これによって、巨大なバーゲニングパワーをもった
プライベートブランドへ脱皮させようとした。
だが、このところの状況が指し示すのは、
前述のとおり、プライベートブランド充実の逆効果だ。
現在、地域スーパーの勢いがあり、地方では大手の苦戦が報じられている。
それは、地方の細かな需要に追随できる
地域スーパーv.s.全国統一的な品揃えを是とする全国スーパーの構図
とみればわかりやすい。残念ながら、
過去の勝利の方程式が逆に作用している。
また、地域限定商品を買うことのできない不満だけがあるわけではなく、
プライベートブランドが多すぎるゆえに、
ナショナルブランドの新商品を探せない不満もある。
ところで、この均一化に対して、真っ先に反応したのが、
やはりセブン-イレブンだった。
セブン-イレブンはもちろんプライベートブランドの品質向上には努めているが、
同時に、地域限定商品の劇的な拡充をもくろんでいる。
現在は、その地域限定商品の比率は10%にすぎないというが、
それを2017年までには50%(! )に引き上げる。
地域の特性を考慮した上で、商品仕入をかなり細かく実施する。
以前、コンビニエンスストアが広がるほど、
日本は金太郎飴のような均一化が生じると危惧した論者がいた。
しかし、現状は、その逆に進んでいるのである。
セブンは、売上高2,793億円(2014年2月)の万代と組むと発表したが、
この意味は、その地域限定商品の点から読み解かねばなるまい。
つまり、地域独自商品のサプライチェーンを有すことが、
これ以降の差別化と成長にとって欠かせないと判断したのである。
ただし、イオンは挑戦の速度を失ってはいない。
スーパー事業とのシナジー効果を創出すべく、
競争相手だったドラッグストアを自らに飲み込んだ。
ドラッグストア大手のウエルシアホールディングスを子会社化することによって、
イオンはドラッグストア事業者としての顔をも持つようになる。
実際に、イオングループのドラッグストア売上高は5,000億円を超す見込みであり、
なんとこれはマツモトキヨシグループを上回るかもしれない。
さらには、大手資本に参加せずにふんばっている食品スーパーも
まだまだたくさんある。彼らとの資本提携や、
彼らを買収するなどといった業界再編を
イオンがしかける可能性はあるだろう。
坂口 孝則
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150402-00064984-toyo-bus_all