ひとり井戸端会議

主に政治・社会・法に関する話題を自分の視点から考察していきます。

格差と直結する問題ではない

2007年10月12日 | 社会保障関係
 時事通信に以下のような記事があった。

 国民生活金融公庫総合研究所が11日発表した「教育費負担の実態調査」によると、高校入学から大学卒業までに必要な教育費は平均で子供1人当たり1045万円に上ることが分かった。世帯年収に占める教育費(小学生以上の在学費用)の割合は34%に達し、旅行・レジャーや外食を控えたり、奨学金制度を利用したりして対応しているケースが多い。
 高校・大学の累計費用を高校卒業後の進路別に見ると、私立大学の理系学部に進学した場合は1176万3000円、私立文系では1019万円、国公立大学では866万7000円。1人暮らしをしている子供への仕送り額は平均で年間104万円(月8万7000円)だった。
 今年2月に国民公庫の教育ローンを利用した勤労世帯を対象に7月にアンケート調査を実施し、2677件の回答を得た。 



 この記事についてブログを書いている多くの方が格差社会や少子化と結びつけて教育費が高いと批判されていたので、そこだけに反論を試みたい。

 ①まず、ここで弾き出されている1045万円という金額はあくまで「平均値」であって、「最低これだけかかりますよ」という数値ではない。言うまでもないが、平均値とは低い値と高い値の中間地点ということである。多くの方はこれをまるで最低値として解釈していたように見えた。もちろん、年間1045万円でもない(苦笑)。

 文部科学省「子どもの学習費調査」平成16年度版によれば、小学校受験をし、私立小・私立中・私立高校、そして私立大学理系に進学した場合の教育費(仕送りは除く)は1836万8763円になるという。一方、公立小・公立中、高校受験、公立高校、大学受験国立コース、国立大学と進学した場合の教育費(仕送り除く)は530万781円だという。あくまでもこれら数値は最小値と最高値であるが、その差は1300万円以上になるというのが分かる。
 最もポピュラーなコースと考えられる、公立小から公立中、公立高校、大学受験、私立大文系のコースは920万5558円(仕送り除く)となっている。このデータを基に平均値を出したとしても約1100万円ぐらいだろうと思われる。

 ソースとして相応しくないのは承知だが、ウィキペディアによれば、「三菱UFJリサーチ&コンサルティングで2004年に生涯賃金について調査した結果、正社員は平均1億6000万円非正社員は平均5250万円となっている」とあった。上記の最も高い金額(1836万8763円)に仕送りの平均額×48ヶ月で計算して、この正社員の生涯賃金の金額から差し引くと約1億3745万円となる。実際はこれに結構な額のプラスアルファ(個人的な感覚として500万は見積もってもいいと思う)がかかるだろうが、こういうことになる。

 無論、決して安い金額ではないのは承知だし、これだけをもって教育費を正当化するものではない。しかし、「貧乏人は子どもを産むな」、「教育は一部の者だけの特権」という突飛な理屈には結びつかないことは明らかだろう。



 ②こういう話になるとほぼ必ず「授業料の無償化を!」というような主張を始める者がいるが、全く馬鹿げた主張だということを指摘しておきたい。

 現在(平成16年度)でも、私立大学に支給されている補助金の総計は約3209億円である。これは過去最高の金額とのことだ。この金額は文部科学省が負担しているものである。ということは、私立大学の運営にも国民の税金がこれだけ投入されているということだ。ちなみに補助金支給額上位5校は、日大(約129億)、早稲田(約94億)、慶應(約93億)、東海(約67億)、立命館(約46億)である。

 これを踏まえて大学教育の無償化について考えると、現在各私立大学に支給されているこの金額よりも比にならない程の税金が必要になるというのは明白だ。果たしてこれを国民が納得するだろうか。個人的には全く同意を得られないと思う。

 寧ろ、大学に行く行かないは各人の自由に委ねられているという現実からして、大学に行かない人からまでも、大学の運営のために膨大な税金を徴収するというのは、国民の間にフェアじゃないという不満が溜まるだろう。
 ヨーロッパ諸国のなかには大学の授業料無償という国も存在するが、もちろん税金面もそれなりの金額になっている。普通に考えて、税負担を現状のまま、もしくはそれ以下にして大学の無償化実現などというのは、単なる絵空事でしかない。



 ③少子化と教育費を関連づけるのは短絡的。一部のブログを書いていた人の中には、「教育費がこれだけ高ければ少子化にもなる」という主張があった。しかし、これは間違っている。仮にその仮説が正当ならば、上記の大学の無償化が実施されている国々でも少子化は進んでいるが、これをどう説明するのか。更に言えば、ジニ係数の最も大きいナミビアでは、少子化ということが聞かれないのはどうしてか。



 教育費が良心的であればそれはいいことだ。しかもそれで良質な教育が提供されれば、それに越したことはない。しかし、学校だって一種の企業みたいなもので、良質な教育を提供できる人材、設備を整えるにはそれなりの費用がかかるので、それが授業料などに反映されるのは無理もないことではないか。しかも、そうしたことを望んだのは、当の国民自身ではなかったか。

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