ひとり井戸端会議

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草逮捕は当然

2009年05月02日 | 民事法関係
東京区検、草なぎさんを起訴猶予 「反省している」(共同通信) - goo ニュース

 東京区検は1日、東京・港区の公園で全裸になったとして公然わいせつ容疑で現行犯逮捕された人気グループSMAPのメンバー草なぎ剛さん(34)を起訴猶予処分とした。同区検によると、反省し社会的制裁も受けていることなどが理由。捜査関係者によると、草なぎさんは逮捕当時、かなり酒に酔った状態だった、としている。



 草逮捕について、一部では逮捕自体を不当と批判したり、家宅捜索は行き過ぎだという批判が出ているが、これら警察の行動は当然であり、批判される筋合いは一切ない。



 まず、今回彼がしでかした「公然猥褻罪」だが、これは刑法174条において、「公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 」と規定されており、公然猥褻罪の構成要件は以下のとおり。

 まず、「公然」だが、最高裁昭和32年5月22日判決によれば、「公然」とは、不特定または多人数が認識できる状態をいう。そして、行為者が自身の行為を猥褻行為と認識していてはじめて同罪は成立するのではなく、その認識可能性を満たしていればよい。

 この公然性の要件に照らして本件を考えると、草が全裸になって騒いでいたのは、深夜とはいえ公的な場所である公園である。公園という場所柄、判例の言う不特定または多数人が認識できる状態を満たす。したがって公然性の要件は充足される。

 次に、「猥褻な行為」とは何かだが、最高裁昭和26年5月10日判決によれば、「猥褻行為」とは、徒に性欲を興奮または刺激せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと定義される。つまり一般人がその者の行為を見て、恥じらいをおぼえ、一般人の性に関する考え方に照らし、性欲を刺激する可能性があれば成立する。

 この猥褻な行為の要件に照らして本件を考えてみると、草は衣服を脱ぎ、全裸になっていたのであるから、猥褻な行為の要件は満たしていると言える。大の大人が全裸でいる姿を目の当たりにしたら、そこが銭湯でもない限り、性的に恥じらいを覚えることは当然だ。

 このように、完全に公然猥褻罪の構成要件を満たしている以上、逮捕されるのは十分ありえ、警察が不当逮捕したという批判はまるで的外れだということが分かる。しかも草は近隣住民からの通報を受けて現場に駆け付けた警察官に対し、「裸でいて何が悪い!」などと言って、警察が騒ぎをやめて衣服を着るよう説得したことに対して反発しているのだから、逮捕されるのは当たり前ではないか。



 次に、草宅の家宅捜索についてだが、最初に、捜索の要件について述べておく。

 警察による捜索について、刑事訴訟法218条において、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。」と規定されている。

 一般に、捜索に必要な要件として、犯罪の嫌疑の存在、差押対象物の存在、事件との関連性、が挙げられる。そして最前提の要件として、裁判所の発する捜索許可状が必要になる。

 これら要件を今回の件に照らしてみると、犯罪の嫌疑の存在は既に証明されているのでクリア、事件との関係性については、最高裁昭和33年7月29日判決において、「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」と記載された令状を、「明示として欠くるところはない」と判示していることから、今回の件においてもこの要件はクリアしているだろう。差押対象物の存在については、刑事訴訟法222条1項において、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」を要求しているが、これは外部からは判断し辛いものなので、この判断については保留する。

 よって、おそらくは一応、捜索の要件を充足した上での捜索であったと思われるので、確かに公然猥褻罪で家宅捜索をするケースは稀であろうが、法が禁止しているわけではないので、家宅捜索自体を非難することもできない。

 ところで、肝心の家宅捜索を行った理由は、弁護士の落合洋司氏が述べているように、動機の解明、常習性の有無の確認といったところであると思う。続いて落合弁護士は、「この種の犯罪は、一種の性癖に基づくことが多く、また、常習的に行われることも少なくないもので、自宅や勤務先等の捜索により、そういった事情に関係する証拠が押収できれば、ということで、赤坂警察署としても、慎重を期して行ったのではないかと思います。」と述べているが、これもまた同感である。



 起訴猶予という決定については、刑事訴訟法248条で、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と規定されており、起訴猶予を採用している。草の逮捕前の行動ならびに逮捕後の反省、社会的制裁の程度等から判断して、これは妥当な判断だと思われる。



 だいたい、あれで逮捕に踏み切っていなければ、警察の「甘さ」を批判されておかしくない。上記のとおり公然猥褻罪の構成要件を充足している上、さらに衣服を着るよう注意をした警察に対し、抵抗をする発言をしたのであるから、警察が逮捕をするのは当然である。

 もし警察がこれにもかかわらず逮捕をしなかったならば、私ならば、警察は芸能人に甘いのかと思ってしまう。



 ここからは法律論を離れた私見だが、草は確かに日々強いストレスの下で生活を送っていたのだろう。だからその憂さを酒で晴らしたかったのかもしれない。

 しかし、そのような強いストレスの下で生活をしているのは彼だけではないし、だからといって深夜の公園で裸になって騒ぐことが、それによって正当化されるわけではないだろう。いかなる理由があったにせよ、犯罪を犯したことに変わりはない以上、逮捕されることも不自然ではない。

 そしていつも思うのだが、芸能界というのは、売れっ子には本当に甘い、甘甘の世界だと思う。私も彼はもう十分に社会的な制裁を受けたと思うのでこれ以上批判をする必要はないと思っているが、これがもし、普通の社会人だったら、会社をクビになってもおかしくない。学生だって停学処分だろう。

 にもかかわらず、売れっ子の国民的アイドルということ「だけで」、早く帰ってきてというファンなどのコメントが垂れ流され、揚句、逮捕は不当だと騒ぐ人たち。これに同調するかたちで、早くも7月のドラマから芸能界復帰。いやいや、芸能人であっても悪いことすれば捕まるし、何らかの制裁を受けるのは当然。

 彼が深夜の公園で全裸になって騒いで警察に捕まってこれが報道されて、しかも前科一犯となったということで十分に彼は罰を受けているが、もう少し、周囲は彼の行った行動に、シビアな目を向けてもいいのではないか。復帰ありきで、頑張って、というのは、犯罪者に対する対応としては甘すぎやしないか。芸能界にこういう空気があり、芸能界のこういう甘さを社会が許してしまっていることは、由々しき問題なのではないか。



 「大人として恥ずかしい。」彼はこう言った。そう、大人として、いや、常識ある人間として、非常に恥ずかしい行動をしてしまったのだ。草自身が口にしたこの言葉を、草は悪くないと嘯く人たちは、どう捉えたのだろうか。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
刹那さん (管理人)
2009-07-11 01:00:11
コメントありがとうございます。

ご指摘の通り、起訴猶予では前科一犯にはなりませんでした。ここで訂正いたします。
ご指摘ありがとうございます。
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Unknown (刹那)
2009-07-08 17:22:35
起訴猶予では、前科一犯との扱いにならなかったと思います。
返信する
通りすがりさん (管理人)
2009-05-17 23:54:59
コメントありがとうございます。

同じ酒飲みでも飲酒運転と裸踊り(?)とを同列に論じられませんが、私には「国民的アイドル」(かどうかも私としては疑問ですが。)ということだけで、彼の行った「犯罪行為」という事実は矮小化され、復帰を望む声ばかりがクローズアップされるのは、全くもって理解できませんね。

彼は紛れもなく前科一般。そして起訴猶予ということは、猶予期間中に何か「しでかしたら」、猶予期間が取消され、ムショ送りにされるという事実を、ファンをはじめ芸能界やマスコミは、もっと重く認識して欲しいものです。
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Unknown (通りすがりのものですが)
2009-05-16 19:28:06
今回の復帰の早さに驚いています。

それ以上に地デジの草なぎの降板は早まったのでは?なんて記事を目にして呆れるばかり。

ヤマサはともかく、トヨタはアルコールのイメージが
強く残る草なぎを車のCMに使い続けて本当にいいのか?

稲垣の時は、もう少し厳しい処置が取られていた気が
するのですが、酒飲みには皆甘いのでしょうね。
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