ひとり井戸端会議

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GPS携帯条例に反対

2011年01月23日 | 民事法関係
性犯罪前歴者にGPSの携帯義務付け 宮城県が条例検討(朝日新聞) - goo ニュース

 宮城県は、県内に住む性犯罪の前歴者らを警察が日常監視できるよう、全地球測位システム(GPS)端末の携帯を義務づける条例の検討を始めた。携帯していない場合には罰金を科す。必要に応じてDNAの提出も求める。
 監視対象に検討しているのは、女性や13歳未満の子どもに対する強姦(ごうかん)や強制わいせつといった罪で懲役や禁錮刑になった県内在住者。
 ドメスティックバイオレンス(DV)防止法で裁判所から保護命令を受けた加害者にもGPSの携帯を義務づける。
 同県では昨年2月、石巻市で少年による女性殺害事件があり、同12月からDVや性犯罪対策の検討を始めた。
 性犯罪者をGPSなどで監視する制度は米・ニューメキシコ州で始まったとされる。オレゴン州では監視対象者に取り付けたGPS装置が取り外されると保護観察官に警報が鳴って知らせるシステムを導入している。韓国でも導入されている。一方、日本では導入例はなく、宮城県の方針は議論を呼びそうだ。



 結論から言えば、私はこの条例に反対である。ただし、理由は犯罪者の人権などというものではない。


 まず、そもそもの話として、強姦事件はこの数年間、減少しているのだろうか、それとも増加しているのだろうか。答えは前者、すなわち減少しているのである。

 強姦事件の認知件数と検挙件数によると、ここ10年間におけるピーク時の2003年が2472件(認知件数)であるのに対し、2008年は1582件に減少している。ちなみに、しばしば昔は犯罪が少なかったなどと言われるが、これは大嘘であって、強姦事件は昭和20年代が最多で、殺人に関しては2009年は戦後最小の件数であった(警察庁)。

 もっとも、強姦罪をはじめとした性犯罪は親告罪(被害者が被害を警察に届けてはじめて犯罪が認知される罪)のものが多いため、相当程度の暗数があることは確かである。

 しかし、本条例において問題となるのは強姦罪等により起訴され有罪判決を言い渡され服役した(元)加害者であり、当然のことながら暗数の中で犯罪を犯した者については適用対象外であるため、上記のことを考慮する必要はない。



 強姦事件の件数は減少傾向にあることがお分かりいただけたと思うので、本条例の問題点について具体的に検討してみたい。

 第一に、本条例の根本的な問題点は、それが条例であるという点だ。条例というのは周知の通り、その地方自治体内でのみ効力を有するものであり、したがって当該自治体から出れば条例の効力は及ばない。

 このことは要するに、宮城県から性犯罪者が出てしまえば、彼は監視の対象から外れることになる。とはいっても宮城県から性犯罪者を出してはいけないなどとは規定できるはずもないので(憲法上の移動の自由の侵害になる)、実質ほぼザル法と言ってもいいだろう。


 第二に、GPSを携行させるというが、携行させたところで実際に再犯を防止できるかという問題がある。このことを一般市民の側から言えば、周囲に(元)性犯罪者がいるからといって、どうすればいいのか、という問題にもなる。周囲にたくさんの人間がいれば、どこの誰が性犯罪者なのか分かるだろうか。

 それでは性犯罪者の顔写真を公開して注意を喚起すればいいではないかと言われるだろう。しかし、顔写真を公開したところで、整形をされていればこれまた分からなくなるし、そもそも人間の顔はよほど特徴的でもない限りなかなか覚えられるものではないのではないか。

 それに、仮にばったりと件の性犯罪者に出くわしたとして、我々に一体何か具体的な対応策が取れるだろうか。交番に駆け込めばいいと言っても近くに交番が必ずあるわけでもないし、ただ出くわしただけで何もしてこない可能性も十分にある(高いと言っても再犯率は16%弱)ので、いちいち携帯で助けを呼ぶのも変な話である。

 つまり、この条例はザルであるだけでなく、実効性も極めて疑わしいものであると言えるのではないか。



 ならばどうすればいいのか、と聞かれるだろう。

 私はこのような条例を制定するよりも、国が性犯罪者に対して徹底的に性欲減退のための治療を行えるように保安処分の範囲を拡大するなりしたほうが、実効性もあり、「人権屋」からの批判もかわせるだろうし、かつ再犯可能性も下げられるのではないかと思う。

 つまり、性犯罪者(というか犯罪者全体)への対応は、自治体が各自でやるのではなく、国が行うべきものである(その意味では、本条例は国が動き出すまでの「気休め」程度にはなるかも知れない)。



 最後にまとめとして。私が言いたいのは、性犯罪者の再犯防止を徹底したいのなら、性犯罪者に対する科学療法こそ根本的に問題の解決に寄与するのであり、GPSで監視したところで根本的な問題の解決にはならない(しかも条例レベルでは。)ということだ。

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