2016年、大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで一躍有名になった「オートファジー」。今回はこれが健康長寿にも影響することについてのお話です。
オートファジー(ギリシャ語で「オート」は「自分自身」、「ファジー」は「食べること」という意味)とは、生物が生命維持に必要なアミノ酸の精製などのために、古くなったり壊れたりした細胞内タンパク質を分解して再利用する機能で、「細胞内リサイクルシステム」とも呼ばれます。つまり、古くなった細胞を内側から新しく生まれ変わらせる仕組みです。
生物は、栄養摂取(同化)と飢餓(異化)を交互に経験しながら進化してきました。すなわち、栄養摂取ができる時期には、「成長モード」に入り、飢餓状態の時には、「リサイクルモード」になり生命活動を維持しています。
この切り替えをするのが、血液細胞を除くほぼすべての細胞内にあるmTOR(mechanistic target of rapamycin たんぱく質複合体)と呼ばれるスイッチです。mTORが活性化すると「細胞成長モード」に入り、タンパク質の生成、エネルギーの蓄積、細胞の形成が促進されます。一方、mTORが抑制されると「自己浄化モード」であるオートファジーが作動し、脂肪を燃焼させるだけでなく、細胞内に生じた有毒物質やがん細胞を除去し、使えるアミノ酸を再利用します。
そして実際、mTORを抑制してオートファジーを発現させた生物の寿命が伸びることが様々な動物実験で証明されています。
400万年前から1万2千年前に農耕革命が始まるまでの長い間、人類の祖先は、サバンナで狩猟生活をしていました。この間、糖質の少ない植物の種、草、茎と種や動物の骨髄に含まれる脂質を主食とし、季節により、果物、穀物、はちみつなどの糖質を少量食べていました。また肉は捕れた時のみ食べていたと考えられています。このことは、我々の祖先も他の生物と同様、同化と異化を繰り返して進化したことを示します。
しかし、農耕革命後は、大量の糖質(穀物)とタンパク質(肉と乳製品)を摂取するようになりました。さらに近年は精製された砂糖と小麦・米を大量に摂取できるようになり、飢餓がなくなり、細胞が絶えず成長モードにおかれるようになっています。この変化に我々の体は対応できず、糖尿病、がん、心血管系疾患、認知症といった文明病に罹患し寿命を縮める原因になっています。
では、我々の食生活はどこに気をつけたらよいのでしょうか。
高GI食(米、パンなどの糖質)を減らすと、血糖値が低下し、AGE(最終糖化産物)と呼ばれる異常なタンパク質が減り、mTORの抑制につながります。この時、脂肪が分解されケトン体がつくられ、脳機能も改善されます。
動物性たんぱく質や乳製品を減らすと、IGF-1値(インスリン様物質)が低下し、mTORが抑制されてオートファジーが起こりやすくなります。
さらに炎症誘発性食物を避け、抗炎症作物を食べる(例えばサラダ油のようなω6脂肪酸ではなく青魚の油に含まれるω3脂肪酸をとる)ことも有効です。
オートファジーを最も効率よく発現させるポイントは、1年のうち8か月は異化(飢餓)、4か月を同化(栄養摂取)の期間になるようにすることだそうです。しかし、現代社会で実行するには覚悟がいりますし、いつもギリギリの状態で過ごすことが本当によいことなのか現代人で検証はできていませんし個人により意見が分かれるところだと思います。
一日のうち連続16時間の絶食(残りの8時間の間に食事を摂る)というダイエットもオートファジーを活性化させる食事法の一つです。これだと朝食を抜いて昼食と夕食を食べることで実行できるので比較的取り組みやすいかもしれません。
低カロリー、低蛋白、頻回の断食(空腹時間を作る)がオートファジーの発現には有効であることを知り、精製した糖質を避ける、野菜をたくさん食べる、穀物や動物性たんぱく質を減らし、体に良い脂質を摂ることを心掛ければよいと思います。そして自然の摂理に従い、季節に応じた食生活を送ることが重要です。
現代医学の発展により、「人生100歳時代」が現実になってきました。ただ、生物学的寿命と自分のことは自分でできる健康寿命との間に10歳程度の開きがあることが問題になっています。
最近研究によると、健康長寿に生活習慣が関与する割合は90%以上と言われます。すなわち、寿命は遺伝子によって決まっているのではなく、生活習慣により健康や病気に関する遺伝子発現をオンにしたりオフにしたりすることで細胞の性質を変えることができることを意味します(エピジェネティクスと呼ばれます)。これは110歳以上生きるスーパーセンテナリアン遺伝子を持っていない大多数の人が、生活習慣に気を付けることにより元気で100歳を迎えることができることを意味します。
この「エピジェネティクス」と「オートファジー」の力を上手に引き出すことが、健康長寿の近道です。
参考文献:ジェームズ・W・クレメント『SWITCH』日経BP
青木厚『空腹こそ最強のクスリ』
オートファジー(ギリシャ語で「オート」は「自分自身」、「ファジー」は「食べること」という意味)とは、生物が生命維持に必要なアミノ酸の精製などのために、古くなったり壊れたりした細胞内タンパク質を分解して再利用する機能で、「細胞内リサイクルシステム」とも呼ばれます。つまり、古くなった細胞を内側から新しく生まれ変わらせる仕組みです。
生物は、栄養摂取(同化)と飢餓(異化)を交互に経験しながら進化してきました。すなわち、栄養摂取ができる時期には、「成長モード」に入り、飢餓状態の時には、「リサイクルモード」になり生命活動を維持しています。
この切り替えをするのが、血液細胞を除くほぼすべての細胞内にあるmTOR(mechanistic target of rapamycin たんぱく質複合体)と呼ばれるスイッチです。mTORが活性化すると「細胞成長モード」に入り、タンパク質の生成、エネルギーの蓄積、細胞の形成が促進されます。一方、mTORが抑制されると「自己浄化モード」であるオートファジーが作動し、脂肪を燃焼させるだけでなく、細胞内に生じた有毒物質やがん細胞を除去し、使えるアミノ酸を再利用します。
そして実際、mTORを抑制してオートファジーを発現させた生物の寿命が伸びることが様々な動物実験で証明されています。
400万年前から1万2千年前に農耕革命が始まるまでの長い間、人類の祖先は、サバンナで狩猟生活をしていました。この間、糖質の少ない植物の種、草、茎と種や動物の骨髄に含まれる脂質を主食とし、季節により、果物、穀物、はちみつなどの糖質を少量食べていました。また肉は捕れた時のみ食べていたと考えられています。このことは、我々の祖先も他の生物と同様、同化と異化を繰り返して進化したことを示します。
しかし、農耕革命後は、大量の糖質(穀物)とタンパク質(肉と乳製品)を摂取するようになりました。さらに近年は精製された砂糖と小麦・米を大量に摂取できるようになり、飢餓がなくなり、細胞が絶えず成長モードにおかれるようになっています。この変化に我々の体は対応できず、糖尿病、がん、心血管系疾患、認知症といった文明病に罹患し寿命を縮める原因になっています。
では、我々の食生活はどこに気をつけたらよいのでしょうか。
高GI食(米、パンなどの糖質)を減らすと、血糖値が低下し、AGE(最終糖化産物)と呼ばれる異常なタンパク質が減り、mTORの抑制につながります。この時、脂肪が分解されケトン体がつくられ、脳機能も改善されます。
動物性たんぱく質や乳製品を減らすと、IGF-1値(インスリン様物質)が低下し、mTORが抑制されてオートファジーが起こりやすくなります。
さらに炎症誘発性食物を避け、抗炎症作物を食べる(例えばサラダ油のようなω6脂肪酸ではなく青魚の油に含まれるω3脂肪酸をとる)ことも有効です。
オートファジーを最も効率よく発現させるポイントは、1年のうち8か月は異化(飢餓)、4か月を同化(栄養摂取)の期間になるようにすることだそうです。しかし、現代社会で実行するには覚悟がいりますし、いつもギリギリの状態で過ごすことが本当によいことなのか現代人で検証はできていませんし個人により意見が分かれるところだと思います。
一日のうち連続16時間の絶食(残りの8時間の間に食事を摂る)というダイエットもオートファジーを活性化させる食事法の一つです。これだと朝食を抜いて昼食と夕食を食べることで実行できるので比較的取り組みやすいかもしれません。
低カロリー、低蛋白、頻回の断食(空腹時間を作る)がオートファジーの発現には有効であることを知り、精製した糖質を避ける、野菜をたくさん食べる、穀物や動物性たんぱく質を減らし、体に良い脂質を摂ることを心掛ければよいと思います。そして自然の摂理に従い、季節に応じた食生活を送ることが重要です。
現代医学の発展により、「人生100歳時代」が現実になってきました。ただ、生物学的寿命と自分のことは自分でできる健康寿命との間に10歳程度の開きがあることが問題になっています。
最近研究によると、健康長寿に生活習慣が関与する割合は90%以上と言われます。すなわち、寿命は遺伝子によって決まっているのではなく、生活習慣により健康や病気に関する遺伝子発現をオンにしたりオフにしたりすることで細胞の性質を変えることができることを意味します(エピジェネティクスと呼ばれます)。これは110歳以上生きるスーパーセンテナリアン遺伝子を持っていない大多数の人が、生活習慣に気を付けることにより元気で100歳を迎えることができることを意味します。
この「エピジェネティクス」と「オートファジー」の力を上手に引き出すことが、健康長寿の近道です。
参考文献:ジェームズ・W・クレメント『SWITCH』日経BP
青木厚『空腹こそ最強のクスリ』