わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

ハーブの香り=磯崎由美(生活報道センター)

2008-04-16 | Weblog

 山桜に彩られた高台を上ると、眼下に瀬戸内海が広がる。朝露が乾くころ、若者たちは園に出て、開き始めたカモミールの花を摘む。

 高松市の「喝破(かっぱ)道場」は脱サラで出家した野田大燈(だいと)さん(62)が約30年前に開いた。不登校、校内暴力、引きこもり。時代とともに変容する子どもの問題と向き合い、畑仕事と座禅を通じて再出発を後押ししている。

 人のすすめで菜園の片隅にハーブを植えた。虐待などを受け精神科に通う子たちは、薬の副作用で農作業を10分と続けられない。ある時、1人の子がハーブの近くで雑草を熱心に取っていた。「和尚さん、もっとやりたい。気持ちいい」。香りが心を落ち着けるのだと気付いた。

 道場はニート対策で国が05年度に始めた「若者自立塾」でもある。3カ月間の合宿を経て就学・就労へつなぐ。ここを含む全国30カ所で今年1月末までに1491人が修了し、うち6割が職に就いた。全国62万人との推計に照らせばあまりに少ない。国の事業委託を受ける社会経済生産性本部は「親から相談が来ても、本人が集団生活を嫌がる例が多い」と難しさを語る。

 だが、「少数でも人材は確実に育っている」と野田さんは実感する。むしろ問題は雇用の乏しさだ。地中海に環境が似るこの地では、無農薬で良質のハーブが育つ。これを量販する会社を作り、若者を雇うのが次の目標という。

 長い引きこもりから一歩踏み出した若者たちが丁寧な手つきでハーブをブレンドし、袋に詰めていく。いれたてのティーをいただいた。味も香りも柔らかだった。




毎日新聞 2008年4月16日 0時27分

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