わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

作戦完了=坂東賢治

2008-04-07 | Weblog

 「ミッション・アカンプリッシュト(作戦完了)」。5年前の5月1日、米空母「エーブラハム・リンカーン」の艦上でイラクでの「大規模戦闘終了」を宣言したブッシュ米大統領の後方に横断幕が翻っていた。

 以来、この言葉は見通しの悪さを示す意味を持ち、ブッシュ政権批判に使われてきた。ブッシュ氏自身が発言したわけではないが、明らかにテレビ映りを狙った演出だったから、自業自得だろう。

 最近ではイラクと離れた文脈でも使われる。オバマ上院議員は昨年来、「作戦完了というのは早すぎる」と本命視されていたクリントン上院議員をけん制し、言葉どおりに形勢を逆転させた。

 イラク開戦5年に合わせ、「作戦完了」を題にしたパロディー本も出版された。副題は「我々はなぜイラクの戦争に勝ったか」。今となっては噴飯ものの政府高官や専門家の発言を並べ、見事な政治批評になっている。

 結局は存在しなかったイラクの大量破壊兵器保有をめぐる政権首脳のウソの数々。戦争期間、戦費の過小評価。愛国主義の押し付け。政権転覆後の原油価格下落を主張していたホワイトハウスの経済顧問もいた。

 多少の言葉の粉飾や見通しの誤りはどの政府にもあるだろう。しかし、まとめて読まされると、ブッシュ氏の支持率がトルーマン、ニクソンに次ぐ戦後ワースト3に低迷する理由がわかる気がする。

 「後の世代は評価してくれる」。最近のブッシュ氏の口癖だが、米国民の過半数は否定的だ。これも将来、冗談のタネになるかもしれない。(北米総局)




毎日新聞 2008年4月7日 東京朝刊

石綿被害者への情報=大島秀利(科学環境部)

2008-04-07 | Weblog

 先月28日、東京・霞が関の厚生労働省での記者会見。アスベスト(石綿)による労災事例が05~06年度に認定された事業所2167カ所の名前と人数が公表されたが、報道各社の質問は、非公表の部分に集中した。同じ2年間に認定者が出ていながら、以前の公表で名前が出ていた164事業所は公表対象外だったからだ。理由は「事業所名が一度出ればよい」だった。

 164事業所には大手の石綿関連企業や、最近は情報公開を拒んできた造船業界の事業所が含まれ、2年間で627人以上もの石綿による死者の情報が隠れている。毎日新聞の取材では認定者が10倍に増えた所もあった。

 関係者によると、今回の公表では、大手建設会社などから強い抵抗があったが、厚労省側が押し切って公表にこぎつけたという。だが、被害者が多発する事業所の非公表は、画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く。厚労省はその後、方針を変更し、164カ所も公表することにした。

 だが、不親切な対応はまだある。公表した事業所が閉鎖されていた場合、労働基準監督署にその後の連絡先を電話で尋ねても、教えない方針(大阪労働局)という。

 支援団体「関西労働者安全センター」(06・6943・1527)によると、年老いた患者や遺族、不安を持つ元従業員には、連絡先を調べるにも苦労する人がいる。中皮腫や肺がんは石綿を吸って20~60年後に発症し、その間に会社の情報が入らなくなったり、記憶が薄れてしまう人もいる。

 石綿関連病の患者は産業発展の犠牲者であって、時間の壁は患者のせいではない。丁寧な対応を求めたい。




毎日新聞 2008年4月6日 大阪朝刊

ねじれと虐待=野沢和弘(夕刊編集部)

2008-04-07 | Weblog

 あの郵政解散によって吹き飛んだものがある。

 あまり知られていないが、障害者虐待防止法案もその一つ。当時、福岡県の知的障害者施設で起きた虐待事件をきっかけに、超党派の国会議員が厚生労働省を巻き込んで勉強会を重ねていた。各党が法案を作成してすり合わせることにもなっていた。

 ところが、青天の霹靂(へきれき)の解散・総選挙で、熱心だった議員らがこぞって落選した。巨大与党の出現で情勢は一変し、まるで何もなかったかのようになってしまった。

 あれから3年。ひどい虐待が絶えない。今年に入っても、大阪の施設で職員が障害者に暴力を繰り返し、札幌の食堂では障害者を長年ただ働きさせたうえに年金まで搾取していたことが発覚した。

 子どもには児童虐待防止法、お年寄りには高齢者虐待防止法があるように、判断能力にハンディがあって自分でSOSを発することが難しい人のためには、<発見→通報→救済>の手続きを法的に保障して機能させないといけない。子どもや高齢者よりも年齢層が広く、さまざまな場面で権利侵害の危険にさらされている障害者を放っておいていいはずがない。

 今、ねじれ国会であれもこれも膠着(こうちゃく)しているように見えるが、水面下では障害者虐待防止法の議論が各党で盛んになってきている。

 日銀総裁人事も道路特定財源も、ねじれたからこそ国の骨格を変革する議論にまで発展した面は評価したい。踏みつけられても声を上げられない人にはやさしい政治であってほしい。少し熟した<ねじれ>の奥の深さも見たい。




毎日新聞 2008年4月6日 0時05分