この時代に生まれた他の研究からはリン化水素に関するりっぱな研究と、シュウ酸、硫酸、リン酸および硫酸塩、塩化物の組成についてのみごとな研究とを述べるだけにしておこう。前者においてはHeinrich Roseハインリッヒ・ローゼによって既にしらべられた自然発火性のない気体と同じ組成をもっているリン化水素ガスの自然発火性が他の化合物の存在に関係があること、およびこの気体の自然発火性を除いたり再び与えたりできることを証明した。
事実、その後Paul Thenardポール・テナールの液体リン化水素に関する注目すべき研究においてその明確な証明が得られた。
塩類についての研究で、グレーアムがさきに行った観察が、なかでもマグネシウム属のリン酸塩と硫酸塩とについておしひろめられた、すなわちかれは多数の塩類の結晶水の測定を行ったのである。今日われわれが考えているようなこれらの属の塩類の形に関する資料の大部分はこの重要な研究のなかに含まれている。
1840年代には、この略伝では題目だけしかあげられないほど多くの小さな研究が行われた。
新しい測熱的研究によってなされた硫酸塩の組成についての報告、塩素酸カリの製法についての報告、化合熱の研究、ガス工場の石灰残渣の利用についての論文、Newcastleニューカースルの炭坑の中の可燃性蒸気の組成について、新しいユーデイオメトリー法について、そして最後にややおくれて発表されたエーテルについての研究、等はかれの研究がいかに多方面にわたっているかを示すものである。
グレーアムの最大の研究であって、この研究者の特異な才能、自然観察のすばらしさ、かれの方法のしっかりした理論、強靭であって困難にあってくずれない不屈不ぎょうさを特にはっきり反映している研究が分子化学の分野で行われた。
30年以上ものあいだ継続されたこの分野での一連の数多くの実験的研究は、それらの一つ一つにやがておのずからなるみのりが約束されていて、グレーアムがそこに打ち立てた記念碑に刻まれたかれの名にはずっと後世の子々孫々も賞賛を惜しまないであろう。
これらの研究の大部分は気体および液体の拡散現象がその対象となっているが、それらは輝かしさによって幻惑させたり、複雑さによって悩ましたりするような種類のものではぜんぜんない。
しかし、いわゆる生命現象もすべて究極においては化学変化にもとづかにものはないということ、生きている動植物体のすべての点において間断なく大なり小なりはっきりした化学作用がおこなわれていると、、すなわち生命そのものが物質の授受であって、これらの授受が筋肉と上皮細胞組織によって仲介された物質の移動すなわち拡散によるものであるとみなされることなどを考えるならば、実験科学のこの分野の非常な重要性がわかる。このように植物や動物の生理学が十分に進展すれば必ず拡散現象につきあたり、その背後には組織成分の内部における変化があるだけであって、いつでもこの点でグレーアムが画期的な開拓をして後世に残した重要な足跡にであうであろう。いつの日か生体内の分子現象を解明しつくすような生理物理学や生理化学の完成が実現するときがあれば、そのときは、そのなかでグレーアムの名はだれよりもまず第一の先駆者としていつまでも残ることであろう。
これに属する研究の先駆けは、既に1836年にだされた気体の拡散についての有名な報告に始まっている。水素を満たしたひびのはいった円筒を水槽の中へ倒立させるとその円筒内の液面は外側の水面よりも高くなることを発見したDoebereinerデベラネイルのただそれだけの経験を基にして、グレーアムは水素および酸素が細いすきまを通って薄い膜になって真空中へ流れ込む(奔出effusion)速さと、もうひとつ、やはり二つの気体を用いて多くの二つの研究は同一の結果に到達した。すなわち同じ物理的条件の下では、水素は4×4=16倍重い酸素よりも4倍速く動く。したがって二つの気体の流動速度はそれらの容積重量の平方根に逆比例する、それは水素は同じ容積でも16倍重い酸素分子よりも4倍速く運動することが認められるわけである。ついで、水素と酸素とについて認められたことが、他の気体にも成り立つことが知られた。
グレーアムがこの実験に用いた美しい簡単な装置は今日もなお化学の講義で一般に使われていて、気体の運動現象を学ぶ際に、空気圧力タンクに水が水素を満たしたグレーアムの拡散管のなかへ上昇していくのをみるとき、実際に、化学の入門でこの偉大な英国の学者の名に接することになる。
もう一つの、これよりもずっと後にグレーアムが行った長い毛細管と短い毛細管とを通じての気体の流失transpirationについての研究が、この気体の奔出および拡散と密接な関係をもっている。きわめて短い管からは、気体の奔出および拡散に対して成立した密度に関する法則にしたがって流出するに過ぎないが、管がだんだん長くなるにつれて、管壁の抵抗によって現象がますますはっきりしなくなり、管の長さがある一定の限界に達しはじめて、種々な気体の流速のあいだに再び一定の関係がみいだされるようになる。このような条件の下では気体の流失性は、気体の性質に関する一定不変の関係にある、すなわち気体の通過に対する毛管の抵抗は管の長さに比例することを示す。この場合、結局同一量の気体の速度は密度に直接関係するのであって、圧縮とか膨張とかによって、あるいは冷却とか過熱とかによって密度が増減するかどうかということにはぜんぜn関係しないのである。その後の重要な、O.Meyerマイエルの種々の気体の摩擦係数に関する研究やL.Meyerマイエルの種々な物質の分子容についての研究は、よく知られているグレーアムの気体の流出についての研究を根拠にしている。
放射性物質の拡散予測
ドイツ気象庁は、時間の経過とともに放射性物質が拡散する範囲などを予測、日本を中心とした東アジアの地図上で色分けして示している。
事実、その後Paul Thenardポール・テナールの液体リン化水素に関する注目すべき研究においてその明確な証明が得られた。
塩類についての研究で、グレーアムがさきに行った観察が、なかでもマグネシウム属のリン酸塩と硫酸塩とについておしひろめられた、すなわちかれは多数の塩類の結晶水の測定を行ったのである。今日われわれが考えているようなこれらの属の塩類の形に関する資料の大部分はこの重要な研究のなかに含まれている。
1840年代には、この略伝では題目だけしかあげられないほど多くの小さな研究が行われた。
新しい測熱的研究によってなされた硫酸塩の組成についての報告、塩素酸カリの製法についての報告、化合熱の研究、ガス工場の石灰残渣の利用についての論文、Newcastleニューカースルの炭坑の中の可燃性蒸気の組成について、新しいユーデイオメトリー法について、そして最後にややおくれて発表されたエーテルについての研究、等はかれの研究がいかに多方面にわたっているかを示すものである。
グレーアムの最大の研究であって、この研究者の特異な才能、自然観察のすばらしさ、かれの方法のしっかりした理論、強靭であって困難にあってくずれない不屈不ぎょうさを特にはっきり反映している研究が分子化学の分野で行われた。
30年以上ものあいだ継続されたこの分野での一連の数多くの実験的研究は、それらの一つ一つにやがておのずからなるみのりが約束されていて、グレーアムがそこに打ち立てた記念碑に刻まれたかれの名にはずっと後世の子々孫々も賞賛を惜しまないであろう。
これらの研究の大部分は気体および液体の拡散現象がその対象となっているが、それらは輝かしさによって幻惑させたり、複雑さによって悩ましたりするような種類のものではぜんぜんない。
しかし、いわゆる生命現象もすべて究極においては化学変化にもとづかにものはないということ、生きている動植物体のすべての点において間断なく大なり小なりはっきりした化学作用がおこなわれていると、、すなわち生命そのものが物質の授受であって、これらの授受が筋肉と上皮細胞組織によって仲介された物質の移動すなわち拡散によるものであるとみなされることなどを考えるならば、実験科学のこの分野の非常な重要性がわかる。このように植物や動物の生理学が十分に進展すれば必ず拡散現象につきあたり、その背後には組織成分の内部における変化があるだけであって、いつでもこの点でグレーアムが画期的な開拓をして後世に残した重要な足跡にであうであろう。いつの日か生体内の分子現象を解明しつくすような生理物理学や生理化学の完成が実現するときがあれば、そのときは、そのなかでグレーアムの名はだれよりもまず第一の先駆者としていつまでも残ることであろう。
これに属する研究の先駆けは、既に1836年にだされた気体の拡散についての有名な報告に始まっている。水素を満たしたひびのはいった円筒を水槽の中へ倒立させるとその円筒内の液面は外側の水面よりも高くなることを発見したDoebereinerデベラネイルのただそれだけの経験を基にして、グレーアムは水素および酸素が細いすきまを通って薄い膜になって真空中へ流れ込む(奔出effusion)速さと、もうひとつ、やはり二つの気体を用いて多くの二つの研究は同一の結果に到達した。すなわち同じ物理的条件の下では、水素は4×4=16倍重い酸素よりも4倍速く動く。したがって二つの気体の流動速度はそれらの容積重量の平方根に逆比例する、それは水素は同じ容積でも16倍重い酸素分子よりも4倍速く運動することが認められるわけである。ついで、水素と酸素とについて認められたことが、他の気体にも成り立つことが知られた。
グレーアムがこの実験に用いた美しい簡単な装置は今日もなお化学の講義で一般に使われていて、気体の運動現象を学ぶ際に、空気圧力タンクに水が水素を満たしたグレーアムの拡散管のなかへ上昇していくのをみるとき、実際に、化学の入門でこの偉大な英国の学者の名に接することになる。
もう一つの、これよりもずっと後にグレーアムが行った長い毛細管と短い毛細管とを通じての気体の流失transpirationについての研究が、この気体の奔出および拡散と密接な関係をもっている。きわめて短い管からは、気体の奔出および拡散に対して成立した密度に関する法則にしたがって流出するに過ぎないが、管がだんだん長くなるにつれて、管壁の抵抗によって現象がますますはっきりしなくなり、管の長さがある一定の限界に達しはじめて、種々な気体の流速のあいだに再び一定の関係がみいだされるようになる。このような条件の下では気体の流失性は、気体の性質に関する一定不変の関係にある、すなわち気体の通過に対する毛管の抵抗は管の長さに比例することを示す。この場合、結局同一量の気体の速度は密度に直接関係するのであって、圧縮とか膨張とかによって、あるいは冷却とか過熱とかによって密度が増減するかどうかということにはぜんぜn関係しないのである。その後の重要な、O.Meyerマイエルの種々の気体の摩擦係数に関する研究やL.Meyerマイエルの種々な物質の分子容についての研究は、よく知られているグレーアムの気体の流出についての研究を根拠にしている。

ドイツ気象庁は、時間の経過とともに放射性物質が拡散する範囲などを予測、日本を中心とした東アジアの地図上で色分けして示している。