音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

世耕本と安倍内閣

2006-09-01 03:06:06 | 本・雑誌
思えば去年の今頃、1週間ほど休みをとって故郷の土を踏んでいました。なぜかといえば、旧友が第44回衆議院選挙に立候補していたからなのですが、先ほどのニュースで、彼の地で退任する康夫ちゃんから新知事への引き継ぎ握手のシーンが映し出されていました。新知事は郵政法案の造反で政界引退したはずでしたが、ちゃっかり県知事の座におさまっているのですね。そういえば、ちょうど昨夏の選挙期間中、朝日新聞の支局記者が、康夫ちゃんと亀井静香との架空対話記事をでっちあげて大騒ぎになったということもありました。もうすぐ初公判のホリエモンも、炎天下の選挙戦で真っ黒に日焼けして声を枯らしていましたっけ。かように月日の経つのは早いもんです。

残念ながら我が友人は健闘むなしく落選し、思ったよりも差が開いたために比例復活当選もならなかった一方で、自民党は294議席を獲得する歴史的圧勝で、実に83人もの新人議員が誕生しました。でも選挙が終わってしばらくは、いわゆる「83会」の面々がメディアに取り上げられているのを正視できない日々が続きました。別に杉村太蔵などはどうでもよいのですが、友人と同世代で似たようなキャリアを持つ新人が晴れやかに国会に初登院する姿を見るのが嫌だったんですね。あの場に送り出してあげたかったというか、例えていうなら我が子が受験に失敗して浪人したのに、同世代の子たちが颯爽と入学式に向かうのを眺める親の心境とでもいいましょうか。

『自民党改造プロジェクト650日』 世耕弘成 著

最近出たこの本を、色んな意味で興味深く読みましたが、表紙を見た瞬間「また世耕の自慢話かよ」と思う向きもあるかもしれません。たしかに自民大勝の立役者として、昨年来脚光を浴びている著者の「戦略的広報論と実践」は、既に色んなところで取り上げられていますから、さほど新鮮味はありません。まあ、私も選挙について書き始めると止めどなくキリがないので、それについては項を改めるとします。

日付の変わった本日、正式出馬宣言というよりも、事実上の安倍新内閣の政権構想が発表されることになっています。著者は山本一太のようなお調子者と違って、極めてクレバーでセンスのある方ですから、自民党改革で苦楽をともにしたボスが、念願叶ってまさに天下人になろうかというタイミングで、あからさまな礼賛本を出したりしたわけではないようです。この本は、メイキングオブ自民党改革を覗くという以外にも、色々な読み方があっていいのですが、

①安倍晋三は何故人を魅きつけるのか

②社内の理屈の通し方(kochikikaさん風)

という観点からも読むことができるのではないかと思います。

①については、今でこそ勝ち馬に乗ろうと雪崩を打ったような状況が見られますが、著者をはじめ塩崎恭久・山本有二・下村博文といった有数の仕事人たちが、何故かなり早くから安倍晋三という政治家のもとに集まり、リーダーとして推しているのかという素朴な疑問がありました。サラブレッドは何も彼だけでなく、自民党には吐いて捨てるほどいますし、一見茫洋としていて、それほど頭脳明晰にも見えません。これまでのキャリアにも特筆するものはなかった・・・そんな一人の少壮政治家が、いかにして短期間に広範な支持を集めるに至ったかという問いに、側近の目を通したこのレポートは一部ではありますが、答えるものとなっています。

②は、一言でいってしまえば自民党版「プロジェクトX」なのですが、重鎮や同僚議員よりも前に、まず「自民党職員」という抵抗勢力を説得して味方にしていくプロセス、気むずかしい上司(小泉首相、武部幹事長)をその気にさせ、ノセていく手法など、世の「改革」に悪戦苦闘しているあらゆる人にとって、興味深い内容が詰まっています。56Pに実物掲載されている著者が小泉総理に出したペーパー(A4ペラ1枚で見事に意を尽くしている!)に見ることができる社内プレゼン力や、当初党内で猛烈な抵抗にあったPR会社採用に成功するくだりなど、一般のビジネスマンにも参考になるケーススタディーが多く含まれています。

終章では、広報のプロである著者が、あの「永田ガセメール事件」についての見解を披瀝しているのですが、これも面白く読めました。

読後の感想としては、これまで以上に政策を注視していかなくてはならないなというものです。なぜなら各論ではほとんど実績を上げられなかった小泉時代の「丸投げ後は知らんぷり」政治よりも、遙かに事が進む可能性を感じたからです。側近がどんどん離れていく人気政治家(小沢、加藤、菅、田中康夫など)はたくさんいましたが、安倍次期首相の持つ資質(話をよく聞き、モチベーションを上げる-要は人をうまく使う)は近年では出色で、かつ著者のような実務処理能力に秀でたブレーンたちが、チームとして政策を主導する体制づくりを周到に準備している節があります。それだけに憲法改正や教育改革、対アジア外交などシリアスなテーマについては特に、逐次検証していく必要がありそうです。

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4 コメント

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お薦め上手ですね (kochikika)
2006-09-02 12:49:35
こんにちは。



この本は(ハードカバーなので)未読ですし、エントリにあるようにどうも自慢話くさいイメージがあったのですが、②についての話はやっぱり参考になりそうです。



しかしリーマンから離れてみると①の方が興味ありますね。

>これまでのキャリアにも特筆するものはなかった・・・そんな一人の少壮政治家が、いかにして短期間に広範な支持を集めるに至ったかという問い

当方もこれ、興味ありましたから。

事前にいくつか仮説を立てながら、読んでみたいという気持ちになりました。

・・・ということでタイトルに。。



ところで、この本の帯には何て書いてあったのでしょう?

コメントありがとうございました。 (音次郎)
2006-09-02 14:42:26
>kochikikaさん、ありがとうございます。



帯は・・・・。



安倍晋三氏推薦!



「世耕氏がここまで書いたことに驚いている。

政治、そして日本の未来を知るうえで欠かせない一冊だ。」



です。



kochikikaさんは、IRはストーリーづくりに他ならないと書いてらっしゃいましたが、著者の作る「ストーリー」は、巧みなだけに注意深く見ていく必要がありそうです。
勝手ながら強引にTBしました (VEM)
2006-09-04 10:25:16
昨年の衆議院選挙の83会についてはいろいろな思いや意味があるのだと思います。

とっても強引ですが、その関連だけでトラックバックをさせていただきました。
コメント・TBありがとうございます。 (音次郎)
2006-09-05 00:56:45
>VEMさん、毎度です。

おすすめの安井さんの本、読んでみたくなりました。震災の備えとともに、昨夏の地元で目の当たりにした地元商店街の空洞化と郊外化のヒントもあるような気がします。

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