音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

『狭小邸宅』各論その2

2013-03-12 19:19:41 | 本・雑誌
松尾のいるフォージーハウスでは、見込み客を物件現場に案内する件数を、営業活動の重要な指標にしている。これはどこでも同じだと思うが、営業マンに課せられる数字は平日で1件、休日で2件というから、結構ハードなノルマである。

【クロージング】
営業マンは物件案内を終えたら、お客の都合などお構いなしに、とにかく店舗まで来社させることを叩き込まれている。新人だろうがベテランだろうが、来社させることができなかった場合は、看過されない失態として一日中罵声を浴びることを覚悟せねばならない。だから冒頭で、来社を固辞した秋元さんに対して、松尾は滑稽なほどの執拗さで懇願するのである。

フォージーハウスの営業フローは分業制で、営業マンが物件案内で引っ張り回し店舗まで連れて来たら、そこで課長や部長にバトンタッチする。取りこぼしのないように、百戦錬磨の上司が接客とクロージングを行うのは合理的なやり方で、歩留まりもいいのはたしか。ただ私のやっていた営業は、若くても一通り覚えた後はフィニッシュまで自分で完結するものだったので、あの調印の際の高揚感や達成感を味わえないのは、物足りないような気がする。そういえば取引先の不動産屋会社で、トップセールスなのだが宅建になかなか合格できずに重要事項説明を代行してもらっている人がいた。現在は、複数の人間で案件情報をシェアすることで、ブラックボックスを防ぐというコンプライアンス的な意味合いがあるのかもしれない。

【上がいなくなる】
主人公の松尾は恵比寿店を戦力外になり、駒沢支店へ異動する。ここで伝説の凄腕である豊川課長の下に配属され運命が変わるのだが、この課にはジェイという仇名の稼ぎ頭がいた。このジェイと豊川課長のコンビネーションで数字を作ってきた営業二課に転機が訪れたのは、ジェイが独立を理由にに退社したため。

先輩が異動したり退社していなくなることで、燻っていた下の人間がブレークするというのはよくあるパターン。源氏鶏太の『三等重役』は公職追放で上がパージされたことによって、本来はそんなタマじゃないサラリーマンが役員に成り上がる様を描いた古典。また、大相撲のオールドファンしか知らないかもしれないエピソードだが、昭和の大横綱だった双葉山は、春秋園事件がなければ、その後の69連勝もなかったんじゃないかと言われている。昭和7年に起こった大相撲史最大の争議である春秋園事件は、関取48人が脱退して別団体を立ち上げた余波で、相撲協会は残った力士を大量に繰上げ入幕させざるをえなかった。その中に双葉山がいたわけだが、後の大活躍は周知の通り。

「地位が人をつくる」という格言の通り、周囲の扱いが変わると自分もその気になってくるもの。営業会社の場合は、上がいなくなると必然的に後輩へ案件が廻ってくる。仕事というのは、実際の案件を担当しないと成長しない。電話営業を500時間やろうが、毎週立て看板代わりのサンドウィッチマンやろうが、スキルなどは絶対身につかない。

実際の案件を担当すれば、お客さんからの要望や質問に対応する過程で知識が備わり、最新の仕様や設備のことも勉強することになる。自信も芽生えてくるし、実地で得たノウハウだから営業トークにも説得力が宿る。高額商品は特にそうだが、お客さんは売れなくて腐っている人よりも輝いている人から買いたいもの。仕事は忙しい人に頼めとはよく云われることだが、売れ始めると、お客がお客を呼ぶサイクルに入る。

蒲田の物件を売って首が繋がったものの放置プレー状態が続いていた松尾だが、豊川課長が本格的に営業ノウハウを仕込むべく、彼に営業同行し始めたのは、ジェイの退社と無縁ではない。こいつを何とかするしかないと思ったのだろう。このあたりの展開も非常にリアル

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1 コメント

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幻のマンガ (ゆり)
2017-07-31 02:12:23
ダメおやじには曙出版社から23巻まで販売がでも曙出版社は貸し本専門出版社サンデーやマガジンのような販売専門よりも貸し本屋s40年代までは存在してダメおやじ販売用曙出版社はマンガの台詞変わる貸し本は偽刑事の取り調べ精神病院患者だったうーん偽刑事ときがつくあんた達はここの脱走者売り本お前達は
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