音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

朝井リョウ『何者』

2013-01-16 23:34:39 | 本・雑誌
戦後最年少の直木賞作家となった朝井リョウの小説は、年末休みに初めて読んだ。映画も高評価だった「桐島、部活やめるってよ」さえも未読だったのだが、仕事柄、当世就活事情に興味があり、この本を手にとったのだった。

一言で評すなら凄い小説だった、貫井徳郎『慟哭』、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』を読了した際のインパクトに近く、それを思うと、この『何者』は一種の叙述トリックかもしれない。ネタバレになるから、それ以上は内容に触れないが、私はラストのどんでん返しに驚き、直ぐに再読してみた。そこで、この作家がとてもフェアで類稀な構成力を持っているということに感嘆した。

就活モノの小説は常にチェックしている。近年では、石田衣良『シューカツ』は読んだ。マスコミ就職を目指す主人公と仲間たちの青春グラフィティという華やかな設定だが、ヒロインがめっちゃ就職偏差値高い絵に描いたような就活エリート。試験というものの怖さを描いた後半の1エピソードはとても共感できたが、全体的にはバブル期の杉本怜一『就職戦線異状なし』と同じ匂いがした。

高校生作家として脚光を浴びた羽田圭介『ワタクシハ』も書店で手にとった。明治大学在学中に就活を実体験したばかりの著者の書く物語に興味があったのだが、パラパラとめくった時のガチャガチャ感がしっくり来なくて、結局レジに持って行くことはなかった。

『何者』は、私のようなおぢさんは、つい序盤の演劇ネタやルームメイトのバンド話、または小道具としてのTwitterに幻惑されて、ラストで「やられた!」となるのだろうけど、同世代の若者は案外途中でピンとくるかもしれない。何故、メンバーの誰もが最後の最後まで「そのこと」に突っ込まないか。皆が優しいからなのだが、この辺りの空気に強い時代性とリアリティーを感じた。

朝井さん、改めて直木賞受賞おめでとうございます!



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