ロドス島の薔薇

Hic Rhodus, hic saltus.

Hier ist die Rose, hier tanze. 

西尾幹二氏論(1)

2009年05月01日 | ニュース・現実評論

 

西尾幹二氏を論ず(1)

Ⅰ.西尾幹二氏の飢餓感

現代の思想家、評論家で、私にとって興味と関心の持てる一人に西尾幹二氏がいる。西尾氏の思想や言論には教えられる点や共感できる点も多く、おこがましくも私も同じくするテーマで折に触れて論じてきたこともある。

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そして、最近になって西尾氏の2009年4月26日 日曜日のブログ記事「私の飢餓感」を読んで、ここで今一度、断片的ではなく、人間としての西尾幹二氏について全面的に、それも出来うるかぎり深く論考して行きたいと考えるようになった。もし神のお許しあれば、二年あるいは三年、可能であれば五年十年の歳月を掛けてでも、少しずつでも私の人間研究の一環として西尾幹二氏について論じてゆきたいという希望をもっている。

思想家、評論家としての西尾氏の印象をはじめて私に残したのは、多くの団塊の世代の人たちがそうであるように、講談社新書の『ヨーロッパの個人主義』という本によってである。 もう昔に読んだ本で、今も探せば見つかると思うが、若き西尾幹二氏がドイツに留学した時のヨーロッパの印象や感想を記録した本である。内容はおおかた忘れてしまっているが、西尾氏の著作家としての思想的な出発点がここにあるらしい。

西尾氏は学生時代にニーチェ研究を専攻しており翻訳や研究書も多い。また、最近になって知ったことであるが西尾幹二氏は学生時代に内村鑑三に連なる無教会のキリスト教徒学者の小池辰雄氏に学び、その薫陶も少なくなかったようである。それらが西尾幹二氏の思想的な核になっているように思われる。

その意味でニーチェがヨーロッパの伝統的な精神に対して批判的であったように、もともと西尾氏にはヨーロッパの思想や個人主義を崇拝する精神はなかったし、西洋のキリスト教的な精神に対する西尾氏自身の批判のみならず、戦後日本人の精神的な風潮についても批判的なスタンスをとっていた。この出発点がやがて「新しい教科書を作る会」の運動やさらに現在の「GHQの焚書」による「戦後日本の思想統制」批判などの言論活動につながっているのだと思う。

戦後の日本人が戦争の敗北によるコンプレックスのゆえの反動もあって、戦前の日本の集団主義や「全体主義」、その滅私奉公の「封建的な」意識に日本人は自虐的なほどに批判的で、その一方において、西洋の個人主義や自由主義に対する日本人の無批判で盲目的な表面的な模倣と崇拝の傾向がある。

そうした西尾氏の現在に至る旺盛な言論活動のなかにあって、西尾氏が「私の飢餓感」 を表明されておられることに私は興味と関心を引かれた。思想家、著作家としての華々しいご活躍のなかでの西尾氏の「飢餓感」の実体とはいったい何なのだろうかと。

西尾氏ご自身は、この「飢餓感」については次のように告白せられている。

>>

「何か本当のことをまだ書き了えていないという飢餓感がつねに私の内部に宿っている。それは若い頃からずっとそうだった。心の中の叫びが表現を求めてもがいている。表現の対象がはっきり見えない。そのためつい世界の中の日本をめぐる諸問題が表現の対象になるのは安易であり、遺憾である。何か別の対象があるはずである。ずっとそう思ってきた。そして、そう思って書きつづけてきた。
 結局対象がうまく見つからないで終わるのかもしれない。私は自分がなぜたえず飢えを覚えて生きているのか、自分でもじつは分らないのである。」

>>引用終わり

およそ誰であれ、その人の本質を知るためには、その人が自覚しているか否かを問わず、その人の人生観、世界観がどのようなものであるかを問う必要があるだろう。もっと簡潔にいえば、その人間は何をもって人生の目的としているか。西尾幹二氏はご自身の人生において何を究極的な目的とされておられるか。

西尾幹二氏は思想家であり著作家である。決して政治家でもなければ、企業家でも経営者でもない。思想家、著作家として、あるいは文学者、評論家として生きることがさしあたっての西尾幹二氏の人生の目的である。もちろん、さらにその奥には、「国家の概念」を明らかにしようとする衝動が氏にはあるように思われるが、西尾幹二氏はそのことを明確には自覚されてはおられないように思われる。

また、氏にはこれらの目的が十分に達成されていないという感覚、意識があって、そのことが現在の氏には「飢餓感」として半自覚的な危機意識として現れている。西尾幹二氏には国家や人間や世界についての絶対的な必然性についての自覚がなく、それが生まれるまでは、とくにニーチェ研究家に終始した西尾幹二氏には、この飢餓感はおそらく充足されることはないのだと思う。

 

 

 

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