不意に泣いてしまった。
遊戯王wikiの収録カードリスト、『ファラオのしもべ』を読んでいた時の事だった。
これは俺が初めて遊戯王を箱買いした物で、羽村にあるトイザラスで買った。
もう夏も終わろうとしている頃だった。どういう事情でそうなったのかは忘れてしまったが、とにかく、父は
軽トラックに俺と兄の二人を乗せて車を走らせたのだった。
俺はその頃、そこまでカードに興味はなかった。兄が大きな買い物をするという話を聞いたから、オマケみたいについて行ったんだ。
箱は一個4000円以上した。
こんなに大きな買い物は、大人になってもしないだろうと俺はその時しみじみと思った。来週、ヤフオクで落とした三枚5000円のカードが届くというのに、当時の俺はそんなふうに思っていたのだ。箱を買うと、ビニール袋までが高級そうに見えた。コミカルなライオンのマークが付いたビニール袋、うっすらと、緑色が透けていた。
家に帰ると、箱からたくさんのパッケージが飛び出した。
150円という金額でさえ、俺にとっては大金だったので、それがぼろぼろと出てくる箱は、さながら宝箱だった。
「これ、開けていいの?」
と、兄に了解を取った。兄は「綺麗に開けなよ」と注意して、何袋かを俺に渡した。
あの時の事を、今でも鮮明に憶えている。剥いたパックの中から現れた、輝く緑色の魔法カード。
パッケージにも書かれている『トゥーンワールド』だった。
俺の脳裏を過ぎったのは、ドヤ顔で魔法カードを発動するペガサス・J・クロフォードの姿だった。
俺は、あたかもそれが自分の手柄であるように、兄へ見せびらかしたのだ。しかし、彼はどこまでもリアリストで、特にコメントを残すこともなく保護用のスリーブへ入れると「っま、観賞用だな」と、俺に渡した。
彼の言うとおり、『トゥーン』というカテゴリーはその時点では全然充実していなかった。だから、トゥーンワールドなんてカードは、ただ光っているだけの紙にすぎなかったのである。彼の狙いはあくまでもキラートマトだとか、そういう力を持ったカードだった。
そういう経緯あって、俺は『トゥーンワールド』を手にしたのである。
当時は心底大事にしていたのだけれど、どこに行ってしまったのか、今ではもう分からない。
トゥーンワールドに描かれている『街』の絵は、今でもしっかりと憶えている。
十字に走る七色の煌きや、金色の文字。それが俺の遊戯王に傾倒する一因になったのは間違いない。
俺は今でもあの本の中に住んでいるのではないだろうかと思う。ペガサスが作った世界の中で踊らされているだけなのではないのかと。
しかし、カードは俺にとって『写真』なのだ。
カード一枚一枚には思いがあり、そこに込められる記憶には、紙という概念を超越した気持ちが詰まっているのである。
遊戯王wikiの収録カードリスト、『ファラオのしもべ』を読んでいた時の事だった。
これは俺が初めて遊戯王を箱買いした物で、羽村にあるトイザラスで買った。
もう夏も終わろうとしている頃だった。どういう事情でそうなったのかは忘れてしまったが、とにかく、父は
軽トラックに俺と兄の二人を乗せて車を走らせたのだった。
俺はその頃、そこまでカードに興味はなかった。兄が大きな買い物をするという話を聞いたから、オマケみたいについて行ったんだ。
箱は一個4000円以上した。
こんなに大きな買い物は、大人になってもしないだろうと俺はその時しみじみと思った。来週、ヤフオクで落とした三枚5000円のカードが届くというのに、当時の俺はそんなふうに思っていたのだ。箱を買うと、ビニール袋までが高級そうに見えた。コミカルなライオンのマークが付いたビニール袋、うっすらと、緑色が透けていた。
家に帰ると、箱からたくさんのパッケージが飛び出した。
150円という金額でさえ、俺にとっては大金だったので、それがぼろぼろと出てくる箱は、さながら宝箱だった。
「これ、開けていいの?」
と、兄に了解を取った。兄は「綺麗に開けなよ」と注意して、何袋かを俺に渡した。
あの時の事を、今でも鮮明に憶えている。剥いたパックの中から現れた、輝く緑色の魔法カード。
パッケージにも書かれている『トゥーンワールド』だった。
俺の脳裏を過ぎったのは、ドヤ顔で魔法カードを発動するペガサス・J・クロフォードの姿だった。
俺は、あたかもそれが自分の手柄であるように、兄へ見せびらかしたのだ。しかし、彼はどこまでもリアリストで、特にコメントを残すこともなく保護用のスリーブへ入れると「っま、観賞用だな」と、俺に渡した。
彼の言うとおり、『トゥーン』というカテゴリーはその時点では全然充実していなかった。だから、トゥーンワールドなんてカードは、ただ光っているだけの紙にすぎなかったのである。彼の狙いはあくまでもキラートマトだとか、そういう力を持ったカードだった。
そういう経緯あって、俺は『トゥーンワールド』を手にしたのである。
当時は心底大事にしていたのだけれど、どこに行ってしまったのか、今ではもう分からない。
トゥーンワールドに描かれている『街』の絵は、今でもしっかりと憶えている。
十字に走る七色の煌きや、金色の文字。それが俺の遊戯王に傾倒する一因になったのは間違いない。
俺は今でもあの本の中に住んでいるのではないだろうかと思う。ペガサスが作った世界の中で踊らされているだけなのではないのかと。
しかし、カードは俺にとって『写真』なのだ。
カード一枚一枚には思いがあり、そこに込められる記憶には、紙という概念を超越した気持ちが詰まっているのである。