4月、熊本県は南阿蘇村の長野敏也村長が、「中山間地域等直接支払制度」による交付金対象にあった(2010年~)親族の農地を無断で駐車場に転用していたと指摘。それがここに来て「南阿蘇村を良くする会」が同村に発足して、村長追求の文書が村民に郵送されるなど村を揺るがす問題にまで発展。
一方、該当の同村長はというと「制度に関する理解不足があったのは確かだが、辞職というのはそんな噂事態が失礼な話」といたって強気で、また同村議会からも「この問題がいま南阿蘇村に必要な議論なのかと疑問を感じる」(太田議員)と、村長擁護論まで周辺には出現。
もちろん「村を良くする会」の趣旨が感情的な村長選挙の延長戦だと困るが、そうした話にすり替えられる単純な問題、軽く見過ごされて済む事案でないことだけは確かで、これが双方で次元の低い感情論での対立構図を見せると、中山間地域対策という農政など吹き飛んでしまうのは明らか。
該当地住民らが阿蘇の生んだ農政として掲げる故松岡利勝氏(元農林水産大臣)も挙げられるが、彼ら日本の農政が苦労を重ねて培ったのが中山間地域対策。その趣旨に沿った一つの施策が中山間地域等直接支払制度であって、それらの原資は国民の税金であるというのが今回の事案での基本で、これが第一点。
二点目は始末書、新たな農振除外申請、許可という単純な農地無断転用とは大きく異なり、生産条件の厳しい中山間地域において農地を維持、管理する目的で先述の公費約8000万円(該当の長野集落58人・毎年約1600万円)が既に投下された「中山間地域等直接支払制度」の対象農地での無断転用という中身と条件の問題。同協定違反の場合は、協定締結時からの交付金返還が発生するという極めて厳しい条件にあって、それは協定参加農家の連帯責任。そして今回、該当事案の検証で決して見逃せないのは、同制度が農地の管理方法や役割分担まで、幾度となく集落で協議され、そこに村が関与して協定が締結されたというプロセス。ここまでが責任所在の焦点ともなる第二点。
この第一、二の要項を考えると、「足の引っ張り合いなどしているときではない」といった理屈は明らかに問題の隠蔽であって、村民の明日を左右する重大な村の問題として考えると明らかに公人としての資質が問われ、また先述した協定締結までの経由を検証するまでもなく、「制度の理解不足」という弁明もまた首長としての資質の問題。
こうした認識の甘さの裏には、政治力学という介入での自治行政から九州農政局を引っ張り込んだ談合で、責任所在不透明という処理も想定、懸念されるが、それは中山間地域対策という農政の崩壊を意味するもので、それこそ先に述べた第一項目の農政の先人、また国民を侮辱するものである。だが、そうした自分の首を自ら締めるような案が、関係行政の方で練られているという情報もあって、農政というのは不条理というより実に奇っ怪・・・。
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