私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

T・S・エリオット「ミルトンI」第二段落〔翻訳〕

2020-02-13 13:06:03 | T・S・エリオット「ミルトンⅠ]
Selected Prose of T. S. Elliot [ed. By Frank Kermode]
pp. 258-264

T・S・エリオット「ミルトンI」〔1936年〕
第二段落〔258~159頁〕

 ある者が偉大な芸術家なのかもしれないにせよ、やはり悪しき影響力を具えることには、多くの人々が同意するだろう。十八世紀の悪しき韻文における悪さは他の何人よりもミルトンの影響が大きい。彼は間違いなくドライデンやポープよりも大きな害を与えたし、おそらくこの二人の詩人に、とりわけその影響力のために後者へと注がれた相当の量の悪口は、ミルトンへと移されるべきである。しかし、事を単に「悪しき影響力」という用語で表すのは必ずしも由々しい咎めをもたらすことにはならない。というのも、我々が問題をこれらの用語で言明するときには、相当の量の責任が、邪なもの以外の影響を受けられないような悪しき詩人であったという理由で、十八世紀の詩人たち自身にかかってしまうだろうからである。これよりも更に多くの咎めがミルトンに対してある。もし、ミルトンの詩文がどんな詩人に対してもその悪さのためにだけ影響力があると断言できるならば、咎めはさらに深刻に大量に現れる。また、もし、ミルトンの悪しき影響力が十八世紀よりも長く悪しき詩人たちに対するよりも広く追跡されるだろうと断言するなら、咎めはもっと深刻になる。その悪しき影響力に対して我々が今もって闘わざるを得ないのだと断言するのならば。

*ドライデン〔John Dryden/1631-1700〕
 イギリスの詩人、劇作家、批評家。清教徒の家に生まれ、ケンブリッジ大学を卒業。共和制政府を支持したが、王政に復帰するや王党に転じ、チャールズ二世を讃えるAstraea Redux[1660]を書く。S・ジョンソンが「イギリス批評の父」と呼んだほどに批評家としてもすぐれた業績を残す。桂冠詩人[1668-1688]。(『ブリタニカ国際百科事典』より)

*ポープ〔Alexander Pope/1688-1744〕
 イギリスの詩人、批評家。ドライデンと並ぶイギリス古典主義文学の代表的詩人。カトリックの裕福な家に生まれたが、病気のために発育が著しく阻害された。伝統的な主題を完璧な技巧で処理して、田園詩、教訓詩、英雄詩などの形式を自由に駆使した。最も得意とする風刺詩ではThe Dunciad[1728]が有名である。(『ブリタニカ国際百科事典』より)


pp.258-259
Many people will agree that a man may be a great artist, and yet have a bad influence. There is more of Milton’s influence in the badness of the bad verse of the eighteen century than of anybody’s else: he certainly did more harm than Dryden and Pope, and perhaps a good deal of the obloquy which has fallen on these tow poets, especially the latter, because of their influence, ought to be transferred to Milton. But to put the matter simply in terms ‘bad influence’ is not necessarily to bring a serious charge: because a good deal of the responsibility, when we state the problem in these terms, may devolve on the eighteen-century poets themselves for being such bad poets that they were incapable of being influenced except for ill. There is a good deal more to charge against Milton than this; and it appears a good deal more serious if we affirm that Milton’s poetry could only be an influence for the worse, upon any poet whatever. It is more serious, if we affirm that Milton’s bad influence may be traced much farther than the eighteen century, and much farther than upon bad poets: if we say that it was an influence against which we still have to struggle.


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