Feel in my bones

心と身体のこと、自己啓発本についてとつぶやきを。

フレーバーティー/あんぽんたんとくるまばかり/戦後日本の建国の父

2006-08-02 09:44:49 | 読書ノート
夏なのかな、と思うほど涼しいのだが。

昨日帰郷した。日中の電車のせいか、特急の中は夏休みの子ども連れが多い。冷房も少し利かせすぎだろう。車内ではカーディガンを羽織り、下車してからは半袖だった。仕事中ににわか雨。それでもだいぶ気温が下がったと思う。夜は夏掛けだと少し寒い。今も長袖のポロシャツを着ている。

最近集中してものを考える時間が長いせいか、胃に負担がかかっているような気がする。コーヒーがあまり飲めない。煎茶や紅茶でもきつく感じることがある。その代わりなぜか、フレーバーティーが美味しい。以前はあの香りがダメで飲む気にならなかったのだが、最近では逆にあの香りがいいような気がしてきた。人の好みというのはかわるものだと思う。

子どものころ、一時的にものすごく蕗の煮物が好きなときがあり、そればかり食べていたが、あるとき急に嫌な感じがして、それ以来食べられなくなってしまったことがあった。今では食べられるけれども、食べる前に心の中にちょっと身構えるところがある。なんか不思議だ。人間関係でもそういうところというのはあるよなと思うけど。

車中では『金子光晴詩集』を読んだり『南原繁』を読んだり。金子の「若葉のうた」は読んでいて泣きそうになった。

金子光晴詩集

白凰社

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  小さなあくびと 小さなくさめ
  それに小さなしゃっくりもする

  君が 年ごろといわれる頃には
  も少しいい日本だったらいいが

  なにしろいまの日本といったら
  あんぽんたんとくるまばかりだ

  しょうひちりきで泣きわめいて
  それから 小さなおならもする

この反逆の詩人が、どうしてこう無心の言葉を書けるのかと慟哭に似た感情を感じるくらいだ。社会批判のようなところでさえ、「あんぽんたんとくるまばかりだ」というこの並列。すぐさま「笙、篳篥」と華麗な言葉が続き、「小さなおなら」のかわいらしさを引き出す。自然で華麗な技巧。あるいは技巧的で華麗な自然。漂泊の詩人のたどり着いた場所。

現代詩の詩人と言うのは肉体が感じられない人が多いのだが、金子光晴の言葉には生々しい肉体があって、それが金子のリアリティの根源なのだと思う。

加藤節『南原繁』(岩波新書、1997)読了。南原と言う人は、いわば政治思想的巨人という感じがする。戦後民主主義のファウンディングファーザー、というようなことを立花隆が書いていたが、なるほどなあ、と思う。南原の著作自体を読んだわけではないのであまり正確なことはいえないかもしれないのだが、丸山真男ら大正―昭和初期に学生時代を送った人々と違う、明治人の骨太さを感じた。それだけに著者の加藤も南原の人間的魅力は認めながらその思想を家父長的・民族実在論的と批判し、その部分を受け継ごうという意思は皆無である。直系の人々からそういう扱いを受けていたのでは、南原の著作は戦後思想の中で屹立しながらもあまり読まれることもなく埋もれていき、その戦後民主主義用語の言説だけが重宝な貨幣として流通するというある種の悲惨な状態に置かれているような気がする。

南原繁―近代日本と知識人

岩波書店

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南原は現行憲法を議論する際に貴族院議員であって、第一条の国民主権条項や第九条の戦争放棄条項には必ずしも賛成しなかった、というところに明治人の健全な常識を感じる。ただ、一度決まった以上はそれを遵守するという点において、筋を通し規範を重視する姿勢が強かったため、その言説が「戦後民主主義」的に解釈されたのだろう。つまり、南原の姿勢や言説は戦後民主主義の内部から立ち上がるものではなく、もっと違う場所からの戦後民主主義擁護なのである。カントやフィヒテの研究から立ち上がる彼自身の思想から、戦後憲法体制を擁護するのが彼のスタンスであって、彼にとって戦後民主主義というのは掌中の雛鳥のようなものだったのだろう。残念ながらその雛鳥は、いまだに雛鳥である気がする。私などは、戦後民主主義それ自身の中には思想的バックボーンがあるとは思えない。民主主義というのは体制であって思想それ自身ではない。

ただ憲法を制定した第一次吉田内閣の姿勢というのはとにかくGHQの要求を入れることで早急に占領状態を脱するという場当たり的な姿勢がなかったとはいえないだろう。その場しのぎで制定された憲法その他にそんなに縛られるつもりもなかったのではないかという気もする。いわゆる逆コース、再軍備というのは逆の面から見れば「正常化」、それも中途半端な正常化であっただろう。

南原の改革で結果的に最大の問題として禍根を残したのが教育改革だったと思われる。この本によると教育改革は米側でなく日本側主導で行われたように書いてあるが、教育基本法や学校教育法にはやはりいろいろ問題があると思うし、そういう意味ではこのあたりのところはもう少し調べて考えてみなければならないと思った。国民主権でなく君民同治を主張した南原が、公選制教育委員会制度など、日本の実情からすると少し無理なのではないかと感じられるような改革を主導したというのも少し奇異な感じがする。

現代の学校教育制度は改善の余地がありすぎて破裂しそうだが、制度の中で生きている人、つまり利害関係者があまりに膨大で(考えようによっては国民全体だ)改革の動き自体が不全化してしまう傾向にある。教育問題も複雑にありすぎて、どこから手をつけていいのかわからないというのが実情だろう。また教育にはさまざまなイデオロギーが介入しやすく、いろいろなイデオロギーの草刈り場、初期洗脳の場になっている場合も多い。健全な日本国民としての規範を一致して求められない現状がそうした混乱を招いているのだろう。

南原には逆に確固とした規範があったが、現実世界の中で揺れ動く政治や社会、思想に対応して生き残れるような強靭な制度というものを作り上げるのにはあまり成功していないような気もする。考えさせられることは多いが、「戦後」を考える上で南原が重要なポジションを占めているということだけはよく理解出来た。




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本を買い捲る/金子光晴とかメッテルニヒとか/20年前に自分が書いたことを読んで赤面する

2006-08-01 09:11:24 | 読書ノート
昨日は考えを整理するために散歩しながら神保町にも出かけ、古本屋や本屋を物色。そうすると、どうも新しいものを吸収するスイッチが入っていたらしく、本を5冊も買ってしまった。

一つ目は中島可一郎編『金子光晴詩集』(白凰社、1968)。立ち読みして「鮫」という作品をぱらぱら読み、一も二もなく購入。いわゆる現代詩で、これだけ魅かれることは珍しい。

金子光晴詩集

白凰社

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「さくら」という作品を一部引用してみよう。

  おしろいくづれ、
  紅のよごれの
  うす花桜。

  酔はされたんだよう。
  これもみすぎ世すぎさ。

  あそばれたままの、しどけなさ。
  雨にうたれ、色も褪めて、
  汗あぶら、よごれたままでよこたはる
  雲よりもおほきな身の疲憊(つかれ)よ。

  (中略)

  戦争がはじまつてから男たちは、放蕩ものが生まれかはつたやうに戻つてきた。
  敷島のやまとごころへ。

  あの弱々しい女たちは、軍神の母、銃後の妻。

  日本はさくらのまつ盛り。

  (中略)

  さくらよ。
  だまされるな。
  あすのたくはへなしといふ
  さくらよ。
  世の俗説にのせられて
  烈女節婦となるなかれ。

  ちり際よしとおだてられて、
  女のほこり、女のよろこびを、
  かなぐりすてることなかれ、
  バケツやはしごをもつなかれ。
  きたないもんぺをはくなかれ。

           (昭和19年5月5日)

金子光晴が反逆の詩人といわれるのはもっともだと思う。これはもちろん「敷島のやまとごころ」に対する反発であるが、現代に流通しているさまざまな戦争に関する言説にもからめとられることのない自由さを持っている。

「世の俗説にのせられて/烈女節婦となるなかれ」「女のほこり、女のよろこびを、かなぐりすてることなかれ/バケツやはしごをもつなかれ。/きたないもんぺをはくなかれ。」

なんというか、平時でも精神的に「きたないもんぺ」をはいていたり、さまざまな言説に踊らされて「バケツやはしご」を持っていそうな人々に対する痛烈な皮肉である。いわゆる「反戦」とは次元の違うきらびやかさが、金子の言語世界にはあり、「酔はせられ」てしまう。

二つ目は瀧井孝作『無限抱擁』(新潮文庫、1948)。三茶書房の店の前のラックの200円のコーナーを見て立ち読みしていたらなんとなく魅かれて購入。よく知らないが結構メジャーな人なんじゃないかと思ったら、芥川賞の選考委員とかをしていて講談社文藝文庫などにも入っていた。旧字旧かななので結構雰囲気はあるが読むのは多少めんどくさくはある。私小説的なだらだらした記述がちょっと今読みたいものという感じがする。隣で本を見ていた女性がなんかきれいだった。神保町できれいな人に会うことは珍しいんだが、夏休みだからだろうか。(写真は講談社文藝文庫のもの)

無限抱擁

講談社

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三つ目から五つ目は東京堂ふくろう店のお買い得コーナーで購入。三つとも、アマゾンのマーケットプレイスより格段に安く、しかも新品。ただ扱いが悪かったのか、表紙の上辺が曲がっていたり(多分、新刊時に店頭に出されたときに一番上に置かれていた本なのだろう)そういう面で難がある。ただ、一冊で3800円もする本も含め合計で3000円程度になったので、つい買ってしまった。

クレメンス・メッテルニヒ著『メッテルニヒの回想録』(恒文社、1994)。店頭で立ち読みしていて、私はこの保守反動の代表、王党派の権化ともいうべき人物が実はとても好きだなあと思えてきた。基本的に非常にクレバーなのだ。記述は1815年までで、つまりは革命とナポレオンの時代なのだが、1848年までのいわゆる反動期の日記や回想録があったらそっちも読んでみたい。まだ立ち読みした程度。

メッテルニヒの回想録

恒文社

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高柳俊一「T.S.エリオットの比較文学的研究』(南窓社、1988)。エリオットについての勉強は頓挫しているが、立ち読みした限りでは非常に刺激的。高柳のエリオット研究本はもう一冊あったのだが、とりあえずこちらだけ買うことにした。(amazonでは扱ってないらしい)

岡倉登志編著『ハンドブック 現代アフリカ』(明石書店、2002)。アフリカを全般的に解説した読みやすいものがないなあと思っていたのでとりあえず購入。

ハンドブック 現代アフリカ

明石書店

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5冊も別々の本を買ったのは久しぶりで、半ば興奮状態でクラインブルーに行く。この店、いつも私以外に客がいたことがないのに、昨日は5、6人いてみんな煙草を吸っていた。やられたと思ったが、マンデリンを飲みつつ収穫を吟味。最近コーヒーを飲みすぎなのか、ちょっと胃に来る感じ。あまり無理しないようにしないと。

中身を確認してちょっと満足し、地下鉄で帰宅。

本を整理している途中で出てきた加藤節『南原繁 近代日本と知識人』(岩波新書、1997)が眼に留まる。この本は読みかけになっていたのだけど、立花隆がこちらのサイトで南原のことをかなり評価しているので、ちょっと読んでおいた方がいいかなと思い読み始める。法学の講義で祝詞をあげたという伝説のある筧克彦(私と同郷なのだが)に影響を受けているというのが興味深かった。何しろこの筧という人物は、清沢冽が『暗黒日記』に書いていたが、ラジオで講話をする前後に「いやーさーかー」と祝詞をあげたという「大東亜戦争時の神がかり」の代表のようにいわれる人物なのだ。それが全面講和を唱えて吉田茂に「曲学阿世の徒」と言わしめたクリスチャン南原に影響しているというのはやはり面白い話だなと思う。それだけこのころの知的世界は奥が深かったというべきなのだろう。今ではそんな影響関係などなかなかないだろうと思う。取り急ぎ書籍購入・読書記録。

南原繁―近代日本と知識人

岩波書店

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やらなければいけないことは山積していて、『南原繁』に「自己がめざす学問」についての記述があるのを読み、いま自分がはっきりと「こういうことを目指している」といえるだろうかと反省する。そういうことを一度しっかり考えないといけないなと思い、そういえばずいぶん昔に一度一生懸命考えて書いたことがあったなと昔書いたものを探して引っ張り出してみる。それは24歳のときのもので、つまりいまからちょうど20年前だ。じっくり読んでみて、書いてあることがあまりにまとまりがなく茫漠としていて、観念的で根拠のない楽観に満ちていたり、もう今では全く忘れてしまっていたプランに取り憑かれていたりして、かなり衝撃的だった。これで24歳か。いま24のヤツがこんなことを考えていたらもっと地に足の付いたことを考えないと将来碌な者にならないぞというだろうなと思う。あれ。

それから考えて自分が20年間で相当変わった部分は、やはり職業経験や結婚経験によるのだなと思った。そのころとあまり変わってない部分もある(世界の多様性を追究したいという気持ち)のだが、現実を知ってものすごく慎重になっている部分は相当ある。ただそう言う昔のものを読み直してみると、ある部分でそういう根拠のない楽観に励まされるところもあった。心のどこかに慎重さを留めておかないといけないと思うが、「まず一歩踏み出す」楽観性のようなものの持つパワーは相当大きい。行動する前に考えすぎてしまう傾向がいまは強いから、行動と思考のバランスのようなものが崩れてしまい、そこで生きる力の発露が妨げられているんだなと思う。20年前は本当に考えなしだったんだなと思う一方で、今からでもやれることはいくらでもあるとずいぶん励まされる部分もあった。




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