Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

持続皮下注②

2010-05-15 22:50:56 | 在宅での薬剤の使用について
本日は細かい内容になります。
ディスポーザブルポンプを使用したことのない開業医の
先生向けです。申し訳ありませんが、他の方はあまり
面白くないと思います。在宅緩和ケアの普及が本サイトの
ひとつの目標なので、しばらく我慢してお付き合い下さい。

まず、ディスポーザブルポンプを使用すると、在宅の
診療所(クリニック)は、管理料がとれます。これは1月
2500点(25000円)です。しかし、ポンプがひとつ
4000~6000円程度しますので、一月5~6個以上使用すると
赤字になってしまいまいます。実際は3~4日に一度、あるいはそれ
以上にポンプを使用する事も多いので、これでは全然足りません。

しかし、平成22年の4月から在宅でディスポーザブルポンプを
使用する場合、6個を越える部分はポンプ1つにつき
4000円が支払われるようになりました。これでクリニックの
持ち出し分はかなり少なくなったと思います。
しかし実際はポンプが4000円以上しますし、ルートやシリンジの
持ち出しもありますので1個4000円ではきついのですが…。
以上は、クリニックでポンプを購入する場合です。

別の方法もあります。平成18年から、麻薬を管理している
薬局がある場合、院外処方箋に薬品名、薄めるための生食、
ポンプを一緒に書くことで、保険でポンプを処方出来ます。
薬剤とポンプをまとめて処方出来るということです。この場合、
ポンプの料金は薬局で請求されますので、クリニックでは
持ち出しのことを気にせず処方出来るかと思います。
1週間分を薬局で詰めて在宅まで運んでもらい、それを医師
や看護師が自宅で使用します。モルヒネでは管理も煩雑なので
この方法の方がむしろ一般的かもしれません。

それでは、次にディスポのポンプの種類と特徴についても
述べたいと思います。


持続皮下注①

2010-05-14 17:15:45 | 在宅での薬剤の使用について
モルヒネ等の持続皮下注を行なう方法は、
①テルモのシリンジポンプを使用
②ディスポーザブルポンプを使用
③レガシーポンプを使用

の選択肢があります。緩和ケア病棟では①が使用されると思います。
使用頻度が高いので、性能の良いポンプを使うのは当然です。

一方、在宅ではシリンジポンプを持っているクリニックは少ないのが
現状です。購入するのは30万円くらいかかりますので無理もありません。
レンタルも出来るのですが、既にHPN(在宅高カロリー輸液)でポンプ
を使用した場合、ポンプふたつのレンタルは管理料のみでは大きな赤字
になります(ポンプのレンタル業者から家族が直接レンタルすることは
出来ません)。また、シリンジポンプのアラームが頻回に鳴るので、
対応が面倒との理由でレンタルをしている会社そのものが少ないようです。

従って、在宅ではしばしば②の使い捨てポンプが使われることになります。
これは現在、

1.テルモのリニアフューザー
2.ニプロのシュアフューザー
3.バクスターのインフューザー

があって、一長一短です。今後ひとつずつ紹介させて頂こうと思います。
薬局などにお聞きすると、バクスターのタイプが一番使われているとの
ことでした。

ちなみに、③レガシーポンプは私は使ったことがありません。
シリンジポンプと比べてもかなり高額で、正直値段に見合うメリット
は分かりません。薬剤がたくさん入るので何日も交換なく使えるのは
強みかもしれませんが…。

(続く)

癌終末期の呼吸困難に対するモルヒネの効果

2010-05-03 07:27:12 | 呼吸困難の治療
呼吸困難の治療は取り除ける原因をひとつひとつ検討して
いく事が肝心ですが、原因の治療が出来ない場合、
対症療法が行われていくことになります。
呼吸困難に対する薬剤の効果は、多くの場合限定的で
しばしば期待した効果はありませんが、その中でモルヒネ
は最も効果が期待出来る薬剤として広く認識されています。
何故効果があるのかは分かっていません。いくつか推測
されている機序はありますが、それはいずれ御紹介します。

mixiの緩和医療のコミュニティに、「呼吸困難に対する
モルヒネの効果にはエビデンスがない」という書き込みを
見ました。何を持ってエビデンスがある、不十分と判断
するかですが、少なくともモルヒネの呼吸困難に対する
効果にはプラセボとの比較試験も含めてかなりの文献があり、
その殆どがモルヒネの効果を支持しています。
これを否定してしまったら、緩和医療・ケアの殆ど全てが
エビデンスがない、という事になってしまいます。

しかし、ではモルヒネで簡単に呼吸困難が楽になるかと言うと
多くはそう簡単にはいきません。まず経験的に、労作時の息切れ
には殆ど効果を感じませんし、呼吸困難が重篤になればなるほど
モルヒネの効果は期待出来なくなります。この場合、増量しても
増量に見合った効果は実感していません。

一方、これはあまり重要視されていませんが、モルヒネの副作用
として口腔内の乾燥から痰の切れが悪くなり、喀出が難しくなる
方がいらっしゃるように感じています。これはモルヒネだけのせい
ではないと思いますが、モルヒネが気管支喘息に禁忌(使用しては
いけない)となっている理由も、痰の喀出が悪くなるという理由の
ようですので、関係ないとは言えないと思います。
また、モルヒネの鎮咳作用が良く働く場合もありますが、
逆に咳を抑える事で痰が出し辛くなる事もあると思います。
よく、痰を出す力の弱い方の湿性咳嗽に、不用意に咳止めを出しては
いけないと言われますが、同じ理由です。
また、量によってはいくらかの呼吸抑制はあると思いますし、
これがCOPDの患者様の場合、危険な影響となる可能性もあります。

上記の通り、モルヒネは呼吸困難に対して魔法の薬ではありませんが
経験的には7割程度の方に実感出来る効果がありますし、
正しい使い方をすれば他の治療法とも合わせて
有力な治療法となる可能性も十分にあります。
最後に呼吸困難に対するモルヒネの効果についての、恐らく最も有名な
文献のひとつを御紹介します。Pubmedから全文ダウンロード可能です。

Bruera E, MacEachern T, Ripamonti C, et al.
Subcutaneous morphine for dyspnea in cancer patients.
Ann Intern Med 119 (9): 906-7, 1993

癌患者を対象としたplacebo-controlled crossover study。
オピオイド皮下注は呼吸数、酸素飽和度を減少させることなく
呼吸困難を緩和した。

呼吸困難の原因は

2010-05-02 06:38:53 | 呼吸困難の治療
緩和医療に於いて患者様が呼吸困難(感)を訴えられた時、
まずそれが改善可能な状況かどうかを判断する必要があります。

1.感染(気管支炎、肺炎)
2.心不全(肺水腫)
3.胸水
4.気管支喘息
5.気胸
6.貧血
7.心理的問題、スピリチュアルな問題
8.代謝性アシドーシス

上記は介入により(特に著しく)改善が期待出来る病態です。
また、

9.腫瘍による気道閉塞
10.肺塞栓症

も、治療可能であれば改善の見込みがあります。しかし、積極的
治療が不可能という理由で緩和を受けている方が大部分なので
適応は限られ、全身状態から治療のリスクも高くなると思います。

10.腹水
11.心外膜炎

は、治療により効果が出る場合もありますが、効果は限定的である
場合が多いです。そして、以下の場合介入による効果はあまり期待
出来ない事が多いです。

12.衰弱・筋力低下
13.COPD
14.癌性リンパ管症
15.その他の拘束性障害
16.腫瘍からの気道分泌物

確かに、治療可能な病態だと言っても、長期的にみると
繰り返したり次第に治療に反応がなくなってくる傾向にあります。
予後によっては積極的治療が裏目に出る場合もあるかもしれません。
しかし、だからと言って患者様の承諾を得ずにこれらの検査、
治療を怠り、呼吸困難→モルヒネというような画一的な対応
だけは避けて頂きたいと思います。緩和ケア=何もしないでは
ないのです。